
- 2021年04月05日
- インターネット
仮処分による削除とは? 仮処分が認められるための要件を解説
インターネット上で不名誉な情報を暴露されてしまったり、根も葉もない誹謗中傷を受けてしまったりした場合は、できるだけ早くその投稿を削除しなければなりません。 とはいえ、サイト管理者などに「削除してほしい」と求めても、表現の自由などを理由に断られてしまうケースもあるようです。
投稿の削除要請に応じてもらえない場合は、法的手段として「仮処分」を検討することができます。
1. 削除請求における「仮処分」とは
まずは「仮処分」とはどのような手続きなのかを確認しましょう。
(1)仮処分は裁判所が決定する暫定的措置
「仮処分」は、裁判所が決定する暫定的処置のひとつです。
権利者からの申し立てによって、損害や急迫の危険を避けるために一定の法的な状態を作り出し、権利の実現に支障が生じないようにする措置で、削除請求においては「現在の危険・不安を取り除くため」に活用されます。これを「仮の地位を定める仮処分」といいます。
(2)仮処分の効果
裁判所が仮処分の命令を下すと、正式な裁判を経る前に、裁判で勝訴したときと同様の状態が確保できます。誹謗中傷などにあたる投稿について仮処分を申し立てた場合は、正式な裁判で勝訴する前に削除が実現するわけです。
正式な裁判は、判決まで長い時間を要します。そのため、争っている間にも、不名誉な情報や誹謗中傷はほかのユーザーの目にとまってしまいます。また、たとえ勝訴して削除の命令が下されたとしても、命令を受けてサイト管理者が投稿を削除するまでは放置された状態になるため、情報がさらに拡散されてしまうおそれがあります。
「仮の処分」とはいえ、裁判所からの削除命令を受ければ、削除に応じるケースがほとんどです。しかも、仮処分は正式な裁判と比べると命令が下されるまでのスピードが格段に速いため、「一刻も早く削除してほしい」と望んでいる人にとっては非常に心強い解決法です。
(3)仮処分の流れ
仮処分による削除は、次の流れで進みます。
- 申し立て
- 審尋
- 立担保
- 仮処分命令の発令
- 執行
まずは裁判所に証拠資料を添えて「申立書」を提出します。
ここでいう「証拠資料」とは、通常の裁判で求められる「証明」よりも確信の低い程度の「疎明」でよいとされています。具体的には、投稿記事が記載されたウェブサイトをプリントアウトしたもの、侵害情報を撮影した動画などが考えられるでしょう。
次に「審尋」が開かれます。
審尋とは、裁判官が当事者・利害関係者から口頭や書面で陳述する機会を与えることをいい、裁判官はそれぞれの言い分や証拠をもとに仮処分の可否を決めます。
審尋を経て、裁判所が申し立てを認めると、申立人は法務局に担保金を供託しなくてはなりません。このステップを「立担保」といいます。
担保金は、万一不当な仮処分がなされたような場合に相手が負う損害を担保するためのものですが、通常は手続きののちに還付されるので心配する必要はないでしょう。
担保金を供託すると、裁判所から「仮処分命令」が発令されます。
ほとんどのサイト管理者が、仮処分命令を受けた段階で削除に応じますが、もし命令を受けても削除に応じない場合は「執行」の手続きも可能です。執行を受けた相手は、削除するまで裁判所が命じた金額を支払わなければなりません。
申し立てから仮処分命令の発令までにかかる時間は、およそ1~2か月です。正式な裁判になれば、数か月、状況によっては数年かかるケースもあるため、比較的短い期間での対応が可能といえるでしょう。
2. 仮処分が認められるための要件
仮処分が認められるための要件は、民事保全法第13条に定められています。
【民事保全法 第13条(申立て及び疎明)】
- 保全命令の申立ては、その趣旨並びに保全すべき権利または権利関係及び保全の必要性を明らかにして、これをしなければならない。
- 保全すべき権利または権利関係及び保全の必要性は、疎明しなければならない。
- 保全すべき権利の特定
仮処分は、具体的な権利侵害によって発生している著しい損害や急迫の危険を避けるための手続きなので、申立人が「どのような権利を侵害されているのか」を明確にする必要があります。 - 仮処分の必要性
申し立ての内容や理由から、裁判所に「仮処分によって著しい損害や急迫の危険を避ける必要がある」と認めさせなければなりません。 - 申し立ての理由の疎明
申し立ての理由が疎明されていないと、仮処分は認められません。単に「仮処分が必要だ」と主張するのではなく、客観的な証拠をもとに疎明する必要があります。
裁判所に仮処分の申し立てを認めさせるには、不名誉な情報の暴露や誹謗中傷がどのような権利侵害にあたるのかを明らかにしたうえで、申立書に「なぜ仮処分が必要なのか」を明らかにした証拠資料を添えて裁判所に示すことが必要です。
ただし、法的な観点からどのような権利を侵害されたのか、申し立ての理由を疎明できる証拠がどのようなものか、個人で判断するのは難しいかもしれません。
そのため、サイト管理者に対して削除を要請しても対応してもらえず、仮処分を検討したいと考えている場合は、弁護士への相談も検討すると良いでしょう。
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