不同意性交罪によって性犯罪の成立可能性は広がったのか? ~映画監督逮捕を受けて~

不同意性交罪によって性犯罪の成立可能性は広がったのか? ~映画監督逮捕を受けて~

不同意性交罪によって、大人の性的関係のリスクが高まった。今までは犯罪とされてこなかった関係性についても、犯罪として処罰されうる。といった論考が、昨年の刑法改正を踏まえて、まことしやかに語られています。

松本人志氏のスキャンダルも、不同意性交の文脈でも語られるところがありました。しかし、本当に性犯罪は成立しやすくなったのでしょうか? 私は、そこにも議論があると考えておりましたところ、2024年2月20日、映画監督としても著名な榊英雄氏が、「準強姦」の罪名で逮捕されました。

刑事弁護にかかわるものとして当たり前の前提を強調しておきますが、榊氏が犯罪を行ったかは現時点で全く確定しておりませんし、裁判まで争われる可能性もあるところです。ただ、捜査機関が榊氏を、「準強姦」という旧罪名で逮捕したところに、法が本当に変わっているのかという観点から、重要なテーマが潜んでいると私は考えています。そのため、これを機に、フワフワと語られる不同意性交罪について、掘り下げてみようと思います。

1. 不同意性交で間違いなく拡張したのは、子供に対する適用可能性

不同意性交罪によって、強姦→強制性交→不同意性交と名前が変化してきた「レイプ」の成立可能性は、広がっています。性交同意年齢が引き上げられ、13歳から15歳までの子どもに対して性行為を行うと、問答無用でレイプ扱いになるようになりました。

そのため、子どもに対するレイプ類型の適用可能性が拡張されているのは間違いないです(なお、レイプではなくとも淫行という性犯罪として処罰されてきた範囲であり、重い刑が確実に適用されるようになったというのが正確なところです)。

ただ、本稿で問い立てるのは、成人同士においても犯罪の成立可能性が広がったのかという疑問です。

2. 新たに列挙された行為又は事由の意味

一 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。
二 心身の障害を生じさせること又はそれがあること。
三 アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。
四 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。
五 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。
六 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕させること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。
七 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。
八 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。

世間で、犯罪の対象が広がったと考えられている主な理由は、この各号のように「具体的な行為又は事由」が記載されたのが理由でしょう。ただ、この並んでいる各行為事由について、少なくとも法改正にかかわった刑事法の専門家たちは、元々強姦・準強姦、あるいは強制性交・準強制性交で対象とされていた行為を、具体的に記載したにすぎないという話をしてきています。法制審議会の議事録にその痕跡が残っています。

つまり、法改正前でも、不同意性交行為事由の第一号については強姦・強制性交で、第二号から第八号については準強姦・準強制性交で処罰できたというのが、少なくとも法改正を押し進め、また現在も法の運用を行っている公側の立場かもしれないということが言えます。

今回、榊英雄氏が準強姦に問われているのは、映画へのキャスティングを持ちかけての性行為への誘導ですので、八号「経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること」に該当しそうですよね。少なくとも、それを、法改正前で不同意性交罪が適用できない時の行為であっても、捜査機関は準強姦で事件化できると考え、裁判所も逮捕令状を出したということです。

なお、判例としても、東京高裁昭和56年1月27日判決(昭和56年う第300号事件)で、芸能プロダクションの経営者がモデル志望の女性相手に、モデルになるために必要として全裸にさせてわいせつな行為に及んだ事件において、準類型の犯罪成立を認めたものがあり、このような処理が、法改正後に突然始まったわけではないことも指摘できます。

3. 立証方法も変わってないのでは?

いずれの事案でも、最終的には暴行脅迫・あるいは心神喪失・抗拒不能などの要件の有無として論じられますが(法律なので当たり前です)、結局は、性行為を行う自然な状況があったのか、歪(いびつ)な力が働いているのかが議論の対象です。法改正直後に、同意アプリなるものが流行ったりしましたが、法改正までも、同意があると言えるのかどうかを総合的に評価して犯罪の成立を判断していました。

例えばラブホテルで性行為が最後まで行われたのなら、そのラブホテルに入って性行為をするまでのアクションの間、ずっと何か歪な力が働いていたとする根拠がなければ、不同意性交罪成立前であろうと、不同意性交罪成立後であろうと、犯罪としては取り上げられないでしょう。

結局、性行為が行われた(あるいは行われようとした)という事実はあるので、そこは簡単に行える行為ではないことから、一定の同意があったのではないかと考えるのがまず第一ですし、その同意を破るような働きかけや関係性の有無を検証するという事実認定の思考順序は、あまり変わらないのではないかと私は思います。

法解釈に忠実に考えれば、文言の変化によって適用しやすくなるというのが正しい法律論な気もするのですが、私は法の論理性について懐疑的なところがあり、結論を決めた後でその結論に客観性があるかのように見せられるのが法の力でもあると考えているので、法改正の効果として犯罪が成立しやすくなっているのかにはやはり疑問があります。

4. 世間の多数の意識は変わっているのかもしれない

このように、法は変わっているのかという疑問を提示してきましたが、一方で、法の運用は個別の捜査機関や裁判官などによって「ムラ」があったとも感じるところはあります。

そのため、昨今の法改正なども踏まえ、ある類型を「許されない性行為・性交渉」と認識する人が増えることにより、犯罪として扱われるリスクが、実際には上がるところもあるのかもしれません(ここらは、本当は社会学的調査によって立証しなければいけない点です)。

芸能関係の判例もあげましたが、プロダクションの社長と所属者という同組織内の話と、今回逮捕に至っているような、本来的には関わらないでも仕事はできる関係性のものとでは、影響力に差はあると思います。もしかしたら、昨今の性犯罪への意識強化も踏まえて、芸能スキャンダルでとどめない処理が行われたのかもしれません。

ただ私として指摘しておきたいのは、法改正によって世界が変わってしまったわけではなく、変わっているとすれば、徐々に「世間の認識」が変化してきているのであり、法は変わらず同じ状態としてそこにあるだけなのかもしれない、という一視点です。

杉山 大介
杉山 大介 弁護士

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