成年後見人が横領したらどうなる? 弁護士が解説
成年後見人による横領は、そのほかの横領より重い罪に問われる可能性があります。
今回は成年後見人が横領したらどのような罪に問われるのか、親族が成年後見人の場合でも罪になるのかについて解説します。そのうえで、逮捕の可能性や逮捕を回避するためにとるべき行動についても紹介しています。
1. 成年後見人が預金を使い込んだらどうなる?
成年後見人による預金の使い込みは、業務上横領罪に問われる可能性があります。
(1)成年後見制度とは
そもそも、成年後見制度とは、認知症や知的障害などにより、判断力がないと考えられる方を守るための制度です。成年後見人は、これらの方々に代わって財産の管理や契約、契約の取り消しなどを行います。たとえば、認知症を抱える母親が騙され不当な契約をしてしまっても、息子が成年後見人に指定されていれば、その契約を取り消すことが可能です。
このように、本来であれば判断力が十分でない方を守るべき成年後見人ですが、対象となる方の預金などの資産を不正に使い込んでしまうケースがあります。その場合、成年後見人は業務上横領罪に問われ、10年以下の懲役刑が科されます(刑法第253条)。
(2)預金の使い込みは業務上横領罪にあたる
業務上横領罪とは、業務として管理している他人のものを、自分のものにしてしまう行為に対する罪です。たとえば、経理部長が会社のお金を着服したり、郵便局員が郵便物を自分のものにしたりすると業務上横領罪とみなされます。
この「業務」とは、社会生活上の地位にもとづき反復・継続的に行うことをいい、会社の仕事にとどまらず、たとえば自治会やPTAの経理担当が、会費を管理するような行為も業務と判断されます。
業務に関係のない横領罪であれば、科される刑罰は5年以下の懲役です(刑法第252条)が、業務において管理するもの(金銭など)を横領すれば、より重い業務上横領罪が適用されます。成年後見人による預金などの管理も、成年後見人という社会的な地位にもとづく業務なので、使い込みをすれば業務上横領罪に該当します。
2. 横領した成年後見人が親族だった場合でも罪になる?
仮に配偶者や両親、子どもといった直系血族や、同居する親族の間で横領が行われても、法律の特例で刑は免除されます(刑法第244条、255条)。また、家庭内の横領は法律が介入するより、家庭内で解決するべきと考えられているため、そのほかの親族による横領であっても、被害者が告訴しなければ、検察官は起訴できません。
一方で親族である成年後見人による横領の場合は、親族以外が成年後見人であった場合と同様に業務上横領罪に問われます。これは、成年後見人という公的性格をもつ業務における横領と考えられるためです。
実際に、成年後見人である親族の横領によって、刑事事件に発展した例があります。
ケース①
Aは成年後見人をしていた親族の女性が保有する財産から、約900万円を横領し、逮捕されました。Aは横領したお金を、経営していた整体院の借金を返済するために使ったそうです。
ケース②
認知症の母親が保有していた預金3300万円を横領したとして、成年後見人である長男Bが逮捕されました。警察によれば、時効になってしまった分を含めると、被害総額は約1億8000万円にのぼるとのことで、Bは横領した3300万円を、投資に使ったそうです。
3. 逮捕される可能性と逮捕を回避する方法は?
成年後見人による横領が業務上横領罪とみなされるからといって、必ずしも逮捕されるわけではありません。逮捕とは、対象者が逃亡や証拠隠滅をするおそれがある場合に行われる身体の拘束を指します。したがって、これらのおそれがなければ逮捕はされません。
しかし、横領した金額が高額であった場合などは、厳罰が予想されることから逃亡や証拠隠滅のおそれが高まるため、逮捕される可能性も高くなります。また、逮捕は身柄拘束の手続きにすぎないため、逮捕さえ回避できれば業務上横領罪に問われないわけではありません。在宅のままで捜査がすすめられ、その捜査次第では起訴され、刑事裁判が行われる可能性もあります。
さらに、業務上横領罪は、起訴するために被害者の告訴が必要な「親告罪」ではありません。認知症の親などのように被害者本人による告訴が事実上困難である場合も、警察による捜査が開始される可能性がありますし、ほかの親族が告発する可能性も大いに考えられます。
4. 逮捕・実刑を回避する方法はある?
成年後見人による横領は、社会的責任も重いとされ、初犯でも逮捕されたり、実刑に処されたりする可能性も十分にあります。
逮捕や実刑を回避するためにとりうる方法は示談交渉です。示談交渉では謝罪したうえで横領した金銭を本人へ返し、さらに横領が原因の損害を回復し慰謝料を支払います。
業務上横領罪は非親告罪なので、被害者によって告訴されなくても逮捕・起訴される可能性はあります。しかし示談が成立していれば、罪証隠滅や逃亡の恐れが低いとみられ、逮捕される可能性は減少しますし、被害が回復されているので、裁判でも有利な事情として考慮されます。
なお、この場合、示談交渉の相手は必ずしも被害者である被後見人ではありません。被後見人の財産を管理する親族や、新しく選任された成年後見人などが相手方です。
親族間で発生したお金のトラブルは心情的に複雑な事情が絡み合うことが多く、他人とのトラブルよりも示談交渉が難しい場合があります。このような問題は専門家である弁護士に代理での交渉やサポートを依頼するのが賢明です。
- こちらに掲載されている情報は、2023年10月10日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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