弁護士がクロサギを心の底から楽しめない理由 ~本当に怖い共犯理論~
  • 2022年11月04日
  • 犯罪・刑事事件

弁護士がクロサギを心の底から楽しめない理由 ~本当に怖い共犯理論~

新しいドラマ、クロサギが始まっています。自分にとって、クロサギといえば、山下智久であり、抱いてセニョリータな印象でした。ただその山下さんは、今やうそがつけない不動産屋になっています。実は、どちらも原作者が同じ作品だったりします。

いろいろと懐かしい気持ちがあり、新作も見てみることにしました。どうも見ていて引っ掛かります。ただそれは、平野紫耀さんのせいではありません。その一番の理由は、「詐欺の被害者がお金を取り戻せた、やったあ」というカタルシスを、自分が得られなくなっているからです。法律を知っていると、心配でしょうがなくなるんですね。そのモヤモヤを、今回はコラムにしてみました。

1. 自力救済の禁止 刑法242条

刑法は、究極的には国家の秩序を保つための法律です。被害者が、副次的に救われることもあるに過ぎません。そのため、犯罪行為をやられてやり返してみたいな社会は望ましくないと考えています。そこで、刑法242条で、自分の物でも他人や公務所の管理下にある物は、あくまで刑法上は他人の物として扱う規定が設けられています。そして、この規定は、刑法251条により詐欺罪にも適用されます。

ちなみに現金の場合、そもそもこの規定を通さずとも、あくまで返還請求をできるだけで、紙幣とか自体は他人の所有物になっていると思います。

つまり、クロサギでも当たり前の前提になっていますが、詐欺でお金を取り返すのは、この様な考えのもと犯罪になっています。

2. 共犯の種類

共犯という言葉が一般社会でも使われますが、世間で共犯と言われるものの大半は、刑法では共同正犯という名前です。

刑法60条「二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。」とあります。ちなみに他の共犯としては、刑法61条「人を教唆して犯罪を実行させた者には、正犯の刑を科する。」という教唆犯と、刑法62条「正犯を幇ほう助した者は、従犯とする。」という幇助犯があります。

ただ、幇助犯は従犯なので法定刑上も当然、教唆犯についても法定刑は正犯として変わらないものの、量刑上の評価としては共同正犯より軽くなることが普通です。そのため、捜査機関としては、まず共同正犯にならないかを検討することになり、それで足りる事件がほとんどです。

3. 共同正犯の一部関与・全部責任 ~特殊詐欺を例に~

ちなみに一部実行・全部責任という言葉が、刑法界では一般に使われる。ただ、実行という言葉から受ける、何か具体的な犯罪そのもののアクションをしていなくても、犯罪が成立するのが共同正犯なので、自分は一部関与と言っている。

一緒に犯罪をやろうとして、実際にその犯罪が行われたら、犯罪が引き起こした結果全てに責任を負うことになる。実は、私も当初共犯を勉強したときは、この恐ろしさを理解していなかった。犯罪に関与している以上、犯罪が成立してもそれは仕方ないんじゃないかと素朴に考えていたのだ。この責任を負うということの意味は、量刑について学ぶことで重さを理解した。

実際に具体例で考えてみよう。Aさんは、先輩のXさんからバイトがあると持ち掛けられ、SNSで指令に従って仕事をすることになった。電話で指示された言葉を伝えたり、指示された場所にお金を受け取りに行ったりするだけで、1回5万円がもらえる。お金が欲しかったAさんは、言われるがままにお金をもらって3回成功したところで、逮捕された。

オレオレ詐欺などの特殊詐欺の典型的なお話である。このとき、Aさんの量刑は、このスキームによって生じていた被害額全体が基準となる。Aさん自身には15万円しかわたってなくても、1回200万円の損害が発生していれば、被害の基準額は600万円である。

この600万円という数字は、特殊詐欺の場合、懲役3年を超える判決に至るものです。執行猶予は、懲役3年以下の判決にしか認められません。また、懲役年数の機軸を決めるのはあくまでこのような被害結果などの犯情であり、前科の有無と言った一般情状ではありません。そのため、Aさんのようなただの素人でも、このままだといきなり刑務所に行くことになります。

ここで一般の方であれば、「一緒に犯罪をやろうと」していたのか、疑問に持たれると思います。でも、刑事裁判では「未必の故意」という、すごく強力なロジックがあります。

積極的に何かをしようとしていなくても、そうなっても構わないよねと思っていたという評価が可能なら、犯罪は成立すると考えます。自分が言っているセリフ、出どころ不明のお金を受け取ること、なぜかもらえるお金、こういうところから、何かおかしいと思っていたよねとして、故意、すなわち犯罪の成立が認められてしまいます。

4. クロサギに助けを求めると長期間刑務所のリスクを負うことになる

さて、そろそろわかってきたでしょうか。新クロサギ第1話の船越英一郎演じるお父さんは、債権者集会のような形を装って、相手方が焦って詐欺にかかりやすい状況を作出するのに貢献しました。

これは、「オレだよオレ」と電話をかける人と同じです。もちろん、細かい詐欺のやり方は知らないのですが、お金を取り返すという意識の元、債権者や警察が動いているかのように装って相手に虚偽の事実をつきつけて、そしてお金の分け前を十分な金額でもらって…共同正犯が成立しちゃいますよね。

被害額、つまり量刑は、あくまでクロサギさんが奪った金額になります。数億円の詐欺の罪です。しかも、犯罪の計画性、巧みさなども量刑では重さにつながります。予想される懲役は、刑務所なのは当然、その年数も非常に大きな数字になってしまうことが予想されます。

そんなことをテレビを見ながら思ってしまう自分は、「被害者が助かったやったあ」より、「この先この人は大丈夫だろうか」の不安が勝りました。倫理観としての犯罪は良くないというもの以上に、弁護人として心配になってしまうのです。家を売った方が良かったって、拘置所で嘆く姿を想像できてしまうのです。

などと、勝手な妄想を膨らませながら、それでもドラマは楽しいので、2話も録画しています。きっと見るときには、また余計な心配をしながら、それを含めて、オタクな楽しみ方をしようと思います。

杉山 大介
杉山 大介 弁護士

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