- (更新:2022年05月31日)
- 犯罪・刑事事件
実は難しい盗撮の刑法各論 ~盗撮の地域差? 刑の重さは侵入罪が決める? 示談は必要?~
『公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反』、と聞いて何の犯罪を指しているかすぐにわからない人も多いかと思います。これが、盗撮と呼ばれる行為についての、刑事手続き上の正式な名前の「ひとつ」です。
東京都を含めた結構な数の場所ではこういう名前の条例ですが、他の名前になる都道府県もあります。共通して、略して迷惑防止条例と呼んでいるようですが、たとえば鹿児島県は「公衆に不安等を覚えさせる行為の防止に関する条例」という名前なので、略しても不安防止条例です。ここまでは、ただのトリビア、豆知識のような話ですが、地域ごとに名前が違うだけでなく、中身も違っているため、盗撮事件の検討は丁寧さが必要になってきます。
このように、一番身近に存在する犯罪のひとつでありながら、実は複雑なところもあり、また条例なので共通して日本全国共通で語れないがゆえに、教科書などにも出てこない盗撮という犯罪について、今回は掘り下げてみようと思います。
1. 東京と大阪で異なった盗撮 ~場所と行為態様の要件~
この盗撮を巡る論点で、2021年に改正されるまでもっともわかりやすい例だったのが、東京と大阪での盗撮の違いでした。
かつての大阪の条例では、あくまで公衆に迷惑をかけるという条文の趣旨に忠実に、人が一般に出入りする駅や電車、公衆浴場、プールなどの盗撮のみを処罰対象としており、自宅内やホテル内での盗撮は迷惑防止条例の対象にしていませんでした。
もちろん、軽犯罪法という別の法律で処罰はするのですが、迷惑防止条例よりも数段低い法定刑の拘留と科料しかなく、原則逮捕もできないという点で、本来盗撮として取り扱われているものと比べると、だいぶペナルティーが低くなってしまっていました。
大阪ではこの問題は無くなったようですが、他の都道府県では、まだプライベート空間を捕捉できない条例も残っています。したがって、盗撮が問題になったら、まず条例が対象にしている場所がどこになっているかをチェックするところから始めなければいけません。
都道府県によってより千差万別になるのが、行為態様です。
盗撮は、その刑の軽さからか未遂まで処罰するような作りにはなっていないため、条文に書かれた行為が現実に行われていないと、処罰対象になりません。そのため、微妙な扱いになるのが、撮ろうとしていたけど、撮れるまでには至ってない場合です。
各条例では、設置行為や、撮影道具を向ける行為等を処罰対象にして工夫しているようですが、条文の作りも千差万別で、相談を受けた都道府県ごとにどういう規定になっているかのチェックが必要です。
明示的な文言がないと、痴漢類型と同様に「卑わいな言動」といった広い文言を使って捕捉しようとする例もあるようですが、犯罪を規定する法律を後付けの解釈で広げようとするのは、犯罪をちゃんと規定して抑止し、それでもわかってやるものを処罰するという刑罰の本来の哲学には反するやり方なので、好ましい方法ではないですし、弁護側目線で言えば反論の余地が多くなります。
このように、そもそも盗撮として犯罪行為になるかという点を、条例ごとの地域差を踏まえて、毎回ちゃんと検討する必要があるのが、盗撮事案です。
2. 盗撮が重くなるポイントは侵入罪
盗撮は条例に規定されている犯罪であり、法定刑は、率直に言って軽いです。懲役にするとしても、懲役6月以下や1年以下といった規定がほとんどで、これを妥当ではないと直感的に感じる人は多い気がしますし、捜査機関でもそう考えている節が見られます。
そこで、実務上の工夫として、盗撮目的で建物に立ち入ったことを侵入罪として構成し盗撮とセットで起訴すると、建造物侵入罪は法定刑が懲役3年以下ですので、裁判にして懲役刑を科しやすくなってきます。
本来は、あくまで盗撮を問題として扱っているのに、侵入という行為に頼って刑を重くするというのもなんだか歪(いびつ)ですが、弁護側目線で言えば、侵入罪が成立するかどうかは強く意識すべき点ということになります。
3. 示談は有効なこともある
示談が無意味ということはないです。一方で、示談で不起訴になる理屈は、究極的には被害者が裁判での証言を望んでおらず立証が不可能であるというところがポイントとなるため、撮影画像動画やその保存状況から、被害者の証言なしに犯罪を立証できることも多い盗撮事案では、示談していても不起訴にしない検察官もいます。
これは、上記のような証拠構造に基づく分析からも考えられるのですが、究極的には、検察官の実務感覚・裁量によるところも大きいため、担当する検察官の考え方はよく踏まえておく必要があります。
もちろん、盗撮行為は民事上の損害賠償請求権を成立させるため、一定の金額については本来賠償すべき金額です。ただ、不起訴に期待しすぎて膨大な示談金を払って、なお前科がついてしまっては、依頼者の利益を守っているとは言えません。
4. しっかり取り組んで、二度と繰り返さないピリオドを
このように、身近に見える盗撮事件は、実は検討すべき点が多々あります。そして、私が盗撮事件で大事にしていることは、上記のような法律上の論点だけでなく、依頼してきた人が二度と同じ間違いを繰り返さないようにするということでもあります。守るべきところは守り、正すべきところは正す。そうして、現在直面している問題だけでなく、将来の問題も抑止できたらと考えています。
盗撮事件を甘く見ないでください。ちゃんと問題に取り組みたい方は、一緒に問題を考えてくれる弁護士に相談すべきです。
- こちらに掲載されている情報は、2022年05月31日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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