医療法の広告規制とは|禁止広告の具体例と違反した場合の罰則
医療従事者や病院が行う広告は、医療法によって規制されています。新聞広告やチラシといった昔ながらの広告だけでなく、WEBサイトも規制の対象です。広告規制に違反すると、懲役や罰金、開設許可の取り消しといったペナルティーがあるため、注意が必要です。
本コラムでは、医療法が定める広告規制の概要や、具体的な違反例などを解説します。
1. 医療法の広告規制とは
医療法における広告規制とは、医療従事者や病院などに関する広告を対象とし、規制することを定めたものです。患者などを保護する観点から、一部の認められた事項以外は、原則として広告を禁止する考え方で成り立っています。
一部の認められた事項とは、患者が治療選択に役立てられるものや医療の内容について客観的な検証が可能なものを指します。以下は、広告可能な事項の一覧です。
- 医師や歯科医師であること
- 診療科名
- 名称や電話番号、所在、管理者の氏名
- 診療日、診療時間、予約診療の有無
- 法令にもとづき一定の指定を受けた病院などであること
- 施設、設備、従業者の人員配置
- 医療従事者の氏名、年齢、性別、役職や略歴、厚生労働大臣が定めた専門性に関する資格
- 医療相談、医療安全、個人情報の取り扱いに関する措置など
- 紹介可能な他の医療機関の名称など
- ホームページアドレスなど医療に関する情報提供の方法や実績など
- 医療の内容に関する事項
- 平均入院日数、平均患者数などで厚生労働大臣が定める事項
- その他、厚生労働大臣が定めるもの
なお、規制における「広告」の定義は、「誘引性」と「特定性」の2つを満たすものを指します。
- 誘引性:誘い入れること(ここでは病院などの利益を期待して勧誘すること)
- 特定性:それと定めること(ここでは病院などの名称がわかること)
つまり、特定の対象に誘うことを目的とした媒体は、広告と判断されます。たとえば、通常の取材をもとにした新聞記事の場合、あくまで客観的な事実を掲載しているだけであるため、広告に含まれません。一方、病院が費用を払って作成してもらった記事の場合は、広告となります。
その他、一般的な広告(テレビCM、新聞広告、看板など)や、病院が自らWEBサイトに掲載する情報なども、規制の対象となります。
(1)医療法の広告可能事項を受けないWEBサイトの条件
前述の通り、医療法の広告規制では、WEBサイトも対象です。しかし、WEBサイトを他の媒体と同じように規制すると、患者へのスムーズな情報提供が妨げられるおそれがあります。
そこで、WEBサイトについては、以下の条件を満たすことで広告可能事項の限定を解除できると定められています。
- 医療の適切な選択に役立つ情報であって、患者自身が求める情報を入手できるWEBサイトであること(リスティング広告やバナー広告ではないこと)
- 問い合わせ先が明記されていること
- 自由診療の治療内容や費用などを記載すること
- 自由診療の主なリスクや副作用などを記載すること
ただし、これらの条件を満たしても全ての限定が解除されるわけではありません。虚偽や誇大な広告など、最低限の禁止事項があります。
2. 禁止されている広告と具体例
WEBサイトの限定解除が適用された場合であっても、以下の広告については規制対象となります。
- 虚偽広告
- 誇大広告
- 比較優良広告
- 内訳不明な手術件数
- 体験談
- ビフォーアフター写真
これらの広告は、患者に誤解を与えたり、不必要な医療行為を受けさせたりする可能性があります。医療倫理上の観点からも、ふさわしくない内容です。
ここからは、それぞれの具体例を解説していきます。
(1)虚偽広告
虚偽広告とは、偽りの情報を提供することです。
- 医学上あり得ない表現や、実態より短期間で全治療が終了するような表現
- データの根拠がない効果や調査結果
医療法以前に、偽りの内容を広告するのは不適切です。医療広告については、より厳格に記載するよう注意が必要です。
(2)誇大広告
誇大広告とは、内容を大げさに表現する広告を指します。
- 医療広告ガイドラインの遵守を強調したり、行政機関による保証を受けていたりするような表現
- 「○○センター」のような表現(法令の規定や国・都道府県が定める施設を除く)
- 医療内容を誤認させる表現(印象と実態に差異があるもの)
- 科学的根拠が乏しい情報で誘導する表現
医療や施設について、信頼性や権威性を強くアピールすると、誇大広告とみなされてしまいます。
(3)比較優良広告
比較優良広告とは、他と比べて特に優れているような表現をすることです。
- 他の医療機関より技術が高かったり、費用が安かったりするような表現
- 「日本一」「手術成功率No.1」などの表現
- 著名人との関係性を強調する表現
合理的かつ客観的な事実を除き、自らが他の医師・病院より優秀であるという表現は規制に抵触します。
(4)内訳不明な手術件数
手術件数を記載する場合、内訳をしっかりと明示しなければいけません。具体的には、対象期間を示した上で、1年単位での件数を記載する必要があります。延べ件数しか記載しなかったり、数年にまたがる長期間の統計だったりすると、広告として不適切とみなされます。
(5)体験談
以下のような体験談(口コミ)については、原則記載できません。
- 患者やその家族による体験談
- 口コミサイトや比較サイトからの転載
- 医療機関のスタッフが書いた体験談
実際に寄せられた患者の意見であっても、医療広告としては認められないので注意しましょう。
(6)ビフォーアフター写真
ビフォーアフター写真は、詳細な説明を併記した場合のみ載せられますが、その際も以下の2点は守らなければいけません。
- 治療情報についての説明をつける
- まとめて複数の写真の説明をしない
説明が不十分な場合や複数の写真に対して一括で説明している場合は、規制対象となります。
3. 広告規制に違反した場合の罰則
医療法の広告規制に違反した場合、自治体などは次の措置を講じたり罰則を科したりできます。
【措置】
- 医療機関に対して任意の調査・報告命令・立入検査
- 広告の中止や是正などの指導
【罰則】
- 虚偽広告などの場合、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金(医療法第87条第1号)
- 報告命令又は立入検査に従わない場合、20万円以下の罰金(医療法第89条第2号)
悪質な違反の場合、医療機関の開設許可が取り消しになるおそれがあります。「知らなかった」では済まされないので、医師や病院は広告規制をしっかり理解し、遵守するようにしましょう。
- こちらに掲載されている情報は、2023年11月28日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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