選挙活動で「インターネット有料広告の掲載」は違法? 「公職選挙法違反」が発生するメカニズムとは

選挙活動で「インターネット有料広告の掲載」は違法? 「公職選挙法違反」が発生するメカニズムとは

令和5年10月26日、東京の江東区長だった木村弥生氏が区長選挙期間中にインターネット上に有料広告を掲載した公職選挙法違反の疑いをかけられたことにより辞職しました。

その後、同氏に対し有料広告を扱うことを助言したとして、同区を選挙区とする柿沢未途衆議院議員が、法務副大臣を辞職することとなりました(※2023年11月現在)。

この記事では、本件事案が、公職選挙法のどの規定にどのように違反したのか、なぜそのような規定がなされているのか、という法的な側面、そして、やや一般論に引き寄せて「公選法違反」が起きてしまうメカニズム、リスクや危機との向き合い方、どうすれば回避することができるか、という点について解説します。

1. 本件事案で問われた公選法違反

本件事案は、公職選挙法142条の6「インターネット等を利用する方法による候補者の氏名等を表示した有料広告の禁止等」違反が問われています。

同条第1項は、「何人も、その者の行う選挙運動のための公職の候補者の氏名若しくは政党その他の政治団体の名称又はこれらのものが類推されるような事項を表示した広告を、有料で、インターネット等を利用する方法により頒布される文書図画に掲載させることができない。」と定めています。

つまり、選挙期間中に、候補者氏名を表示した広告を、有料でインターネットに掲載することは禁止されているのです。本来、インターネットによる選挙運動については、低コストで広範囲に情報提供が可能となることで「カネのかからない選挙」を実現する一つの手段ですが、『有料広告』を認めると広告の利用が過熱し、「カネのかかる選挙」につながるおそれがあるため、規制されています。

2. このような問題が起きる背景

(1)公選法違反事案が起きる背景

本件事案が起きてしまった背景は、今後明らかになっていく部分が多いため、ここでは一般論を中心に公選法違反事案が起きてしまう背景について述べます。

①厳しい選挙であること

勝敗がわからないまさに“激戦”である場合には、公職選挙法違反事案は多くなりがちですし、社会の注目を集めることは、当然捜査機関も注目をしていると考えられます。

陣営内やメディアによる票読みの上で、「あと○○票足りないから何とかしなくてはならない。」と言った場合には、そのための手っ取り早い方法として、法令違反も辞さない対応という誘惑は常にあります。

②成功体験の危険性

公選法違反に問われることなく順調に政治活動を続けていた候補者やスタッフには、成功体験に裏打ちされた慢心が生じやすくなります。とくに、「これまで問題視されたことはなかった」「指摘されれば止めればよい」「買収でなければ何とかなる」といった“成功体験”は、公選法の潮目が変わりつつある昨今では、本当に危険です。

③チェックする者の不在

陣営には、「公選法違反のチェックや対応」“だけ”をする専門の担当者が付けられることはまずありません。チェックする場合も、問い合わせ先は外部であることも多く(所属政党や団体の顧問弁護士・法律問題の担当者、問い合わせ先としての総務省や各自治体の選挙管理委員会事務局等)、選挙のような時間との戦いの場合には、おろそかになりがちです(事後チェックですませよう、つじつまを合わせよう、という発想になりやすい)。

しかし、この感覚が明らかに間違いであることが、昨今明らかになっています。選挙実務者の感覚として、「“遊び”の部分があると思ったら無かった」と言えば、背筋が凍る思いをする選挙関係者は少なくないでしょう。

(2)気づけたタイミングとそれを妨げるもの

では、候補者や陣営は、公選法違反に気づくことはできるのでしょうか。

これも一般論になりますが、気づくことのできたタイミングがいくつかあるはずです。

発案時、陣営内で共有したとき、外部に依頼するとき、実行するとき等のそれぞれのタイミングで、選挙関係者は「事前運動」「金銭絡み」「制度改正」「最近の注目事案」等から意識的にせよ無意識的にせよ、チェックをしているはずです。

しかし、これに対し、成功体験から確認せずに問題ないとしてしまうこと、発案者が反論しにくい立場の人であること、誰かがチェックしているだろうと思ってしまうこと、他に大事なこと(明日の選挙運動のスケジュール等)があるから後回しにしようと考えること等が、それを妨げてしまうことがあります。これが危機です。

(3)危機対応の分析

政治家の公選法等の法令違反の場合、その対応の選択肢としては、「そのような事実はない」「事実はあるが違法ではない」「違法であっても、候補者はかかわっていない/秘書がやった」「(違法であり候補者が関わっていたが)違法だとは思わなかった」「責任を取った(役職や公職の辞任等)」「認める(から起訴や実刑は回避したい)」といったものが考えられます(ごくまれに、開き直るという対応も見られますが)。

本件事案の報道によれば、木村弥生前区長は、本件事案の発覚後、当初は「違反の認識はなかったと発言していました。その後、支援者が単独で掲載したとして、「監督不行き届きだった」「広告は見ていない」と述べたとされており、基本的には常道の対応と考えられます。

ただ、後知恵ではありますが、「違法性の認識が無かった・監督不行き届きと言えば一部は認めたこととなり謝罪もしているのだから、そこまで大きな問題ではないし、(議会や区民にはくすぶり続けても)法的な問題としてはそのうち終わる」との、やや楽観的な見通しがあったようにも考えられます。

しかし、当時の状況からは、その対応が間違えていたと断じることなどできません。そのとき、その場で判断し得たか、という現場の視点から考える必要があります。

3. 事案は回避することはできたのか

おそらくこの記事をご覧になった方は、本件のように捜査機関やメディア、住民国民から問題視されることを事前に回避することができ得たかどうか、がもっとも注目しているポイントでしょう。結論から申し上げれば、もちろん回避することはできます。

しかし、ここまで書いてきたように、いくつも落とし穴があり、気づくと取り返しがつかなかったり、選択肢がほぼ無くなったりすることが少なくなく、政治的にも社会的にも致命傷となり得ます。

そして、成功体験の積み重ねは、“危機管理の隙”を生みかねないことも銘記する必要があります。

4. 予防策は取りえたか

予防策は簡単なようで、後手後手に回りがちです(だから予防になりません)。

リスク回避のためには、予防策にきちんとリソースを割いているか、という問いを常にし続ける必要があります。ほとんどの陣営では、法的リスクをチェックする担当者は、他の業務と兼務の“片手間”であることも多く、さらに現場と事務方の風通しが悪いと、そのリスクすら共有できないこともあり得ます。

一般論としては、経験のある担当者を置き、風通しをよくして情報が滞ることが無いように、リスクを軽く見ない姿勢を陣営で共有することが重要なのです。後でつじつまを合わせればいいと甘く考えないこと、です。

本件に引き寄せると、特にインターネットのような新しい取り組みについては、よくよくチェックする必要があります。しかし、それをヘタに公的機関等に確認してダメ出しされてしまうとできなくなってしまう、という感覚から、法的リスクを確認しないまま強行してしまうことは、あまりに危険です。

5. 本件事案の教訓

本件については、これから捜査機関や司法の場で明らかになることも多いため、軽々と教訓とすることは難しいですが、あえて下記の点を指摘します。

(1)公職選挙法の“厳格化”!?

これまで選挙違反についての実務者の感覚としては、「お金にさえ気を付ければ大丈夫。あとは何とかなる。」とする文化があったことは否定できないでしょう。文書違反等についても、指摘されたら修正すればよいという認識が強くありました。

しかし、公選法検挙事案が数として減少する一方、事前運動が問題視された事案で衆議院議員が辞職するに至った前後から、公選法の取り締まりが厳格化してきていると考えられます。

特に本件は、選挙運動員や有権者に直接現金を渡すような事案ではないものの、有料広告という意味では金銭が絡むことになりますし、そのリスクはもっと厳密に検討すべき事案でした。

(2)慣れや成功体験の落とし穴

公選法の厳格化は、それまでの慣れや成功体験がときに危険であることを示します。特に、新しいルールはそれまでの成功体験がかえって落とし穴になってしまうことがあります。

本件の場合、木村前区長も柿沢衆議院議員も世襲政治家で、複数回の当選を重ねているベテランでした。慢心は禁物です。

(3)予防策の重要性

そして、これまで繰り返し述べてきたように、公職選挙法違反のリスク予防がますます重要になってきています。陣営内部の片手間の事後対応では、致命傷となりかねません。

6. まとめ

これから選挙に臨む方は、時代とともに変わりつつある公職選挙法とそのリスクについて、これまでの成功体験で甘く見ることなく、予防的に取り組みつつ本業(=選挙)に注力するために、危機に当たってそのダメージを小さくするためにも、信頼できる顧問弁護士を見つける必要があります。

ベリーベスト法律事務所の議員法務サービスは、それにお応えできます。

選挙や政治経験のある弁護士、検事として公選法の取り締まりに携わっていた経験のある弁護士、そして全国展開しているからこそ身近で相談できる弁護士がおります。

まずはお問い合わせください。

  • こちらに掲載されている情報は、2023年11月21日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

お一人で悩まず、まずはご相談ください

まずはご相談ください

企業法務に強い弁護士に、あなたの悩みを相談してみませんか?

弁護士を探す
まずはご相談ください

お一人で悩まず、まずはご相談ください

企業法務に強い弁護士に、あなたの悩みを相談してみませんか?

企業法務に強い弁護士

  • 金子 智和 弁護士

    弁護士法人長瀬総合法律事務所日立支所

    茨城県 日立市
    茨城県日立市幸町1-4-1 4階
    常磐線日立駅徒歩2分
    *お車でご来所される場合は、事務所近くのコインパーキングへ駐車くださいますようお願い申し上げます。
    現在営業中 6:00〜23:00
    • 当日相談可
    • ビデオ相談可
    • 初回相談無料

    当日相談は日程調整ができない場合もありますので予めご了承ください。

     
    注力分野

    【全国対応|秘密厳守|顧問数150者超え】企業法務に強い弁護士が複数在籍。企業の皆様に発生する法的問題に対して、全力でサポートします。

  • 大久保 潤 弁護士

    弁護士法人長瀬総合法律事務所

    茨城県 牛久市
    茨城県牛久市中央5-20-11 牛久駅前ビル201
    常磐線牛久駅徒歩1分
    *お車でご来所される場合は、事務所近くのコインパーキングへ駐車くださいますようお願い申し上げます。
    現在営業中 6:00〜23:00
    • 当日相談可
    • ビデオ相談可
    • 初回相談無料

    当日相談は日程調整ができない場合もありますので予めご了承ください。

     
    注力分野

    【全国対応|秘密厳守|顧問数150者超え】企業法務に強い弁護士が複数在籍。企業の皆様に発生する法的問題に対して、全力でサポートします。

  • 母壁 明日香 弁護士

    弁護士法人長瀬総合法律事務所水戸支所

    茨城県 水戸市
    茨城県水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル7階
    常磐線水戸駅徒歩7分
    *お車でご来所される場合は、事務所近くのコインパーキングへ駐車くださいますようお願い申し上げます。
    現在営業中 6:00〜23:00
    • 当日相談可
    • ビデオ相談可
    • 初回相談無料

    当日相談は日程調整ができない場合もありますので予めご了承ください。

     
    注力分野

    【全国対応|秘密厳守|顧問数150者超え】企業法務に強い弁護士が複数在籍。企業の皆様に発生する法的問題に対して、全力でサポートします。

  • 杉本 拓也 弁護士

    弁護士法人コスモポリタン法律事務所

    東京都 豊島区
    東京都豊島区東池袋4-23-17 田村ビル6階
    • 24時間予約受付
    • ビデオ相談可
    • メール相談可
    • 初回相談無料

    まずはメールでご相談の概要をお送りいただけますと助かります。

     
    注力分野

    【弁護士歴10年】企業内弁護士4年の経験を活かし、実践的なサービスを提供。契約書の作成(英文可)、人事労務、M&A、事業承継、誹謗中傷対策などご相談ください

  • 森田 雄介 弁護士

    ベリーベスト法律事務所 堺オフィス

    大阪府 堺市堺区
    大阪府堺市堺区南花田口町2-3-20 三共堺東ビル5階
    南海高野線「堺東駅」より徒歩1分
    • 当日相談可
    • 休日相談可
    • 24時間予約受付
    • 電話相談可
    • ビデオ相談可
    • 初回相談無料

    ※初回相談無料は、ご相談の内容によって一部有料となる場合がございます。

     
    注力分野

    弁護士のみならず公認会計士としての資格と経験を活かして、幅広い分野でのご相談に対応できます。

弁護士を検索する

最近見た弁護士

閲覧履歴へ