ドラマ『オールドルーキー』を素材に考えるスポーツ法 ~ドーピング規制~
  • 2022年09月02日
  • 企業法務

ドラマ『オールドルーキー』を素材に考えるスポーツ法 ~ドーピング規制~

私は今期、ドラマ『石子と羽男』について、その取り扱うテーマの選択や取材の丁寧さを非常に高く評価しています。同じく高く評価している作品として、『オールドルーキー』(TBS系毎週日曜夜9時放送)があります。

第9話(8/28放送「救え!引退危機の水泳選手」)は、「アンチドーピングの問題」でした。法律がメインの話ではないので、あまり“しゃしゃり出る”のは控えていたのですが、法律家の管轄が狭いスポーツ業界においても、ドーピング規制はガッツリ法的な問題です。はじめて、物語で弁護士も出てきましたよね。

さて、作中ではGADAという組織が出てきていました。そんな組織はありません。実在するのはWADA(World Anti-Doping Agency:世界反ドーピング機関)です。これは、ドラマがたとえば再放送された時に、WADAの最新ルールには適応しなくなっている場合にも備えて、架空の組織にしたのだと思われます。それぐらい移り変わりがあるルールなんですね。

そんなドーピング法について、ドラマに合わせてエッセンスをお伝えしたいと思います。

1. ドーピング規制機関と根拠法 ~WADAとJADA~

日本でのドーピング意識が低いような話も出ていましたが、歴史的に見ると、日本はドーピング規制の取り組みに、むしろ熱心な国だったと思います。

国際的にドーピング問題への対処が強く意識されたのが1998年のツールドフランスで、国際的な規制機関としてWADAが成立されるのが1999年11月10日です。日本は、1995年には日本オリンピック委員会(JOC)にアンチドーピング委員会を設けており、どちらかと言えば国際世論より先行しています。

そして、WADAの設立を受けて2001年にJADA(Japan Anti-Doping Agency:日本アンチ・ドーピング機構)を設立し、2003年にドーピング規制の世界的な基本法となるWADA規定(World Anti-Doping Code)ができると早速受諾しました。そして、もろもろの国際規約の締結があり、JADAはWADA規定に基づいて作ったJADA規定に従い、日本国内においてドーピング防止実務を行うようになりました。

簡単に整理すると、WADAという機関とWADA規定という世界ルールがあり、その日本国内での執行をJADAがJADA規定に従って行っているということです。そのため、ドーピングが問題になった時は、このJADA規定を読み解いていくことになるのが通常です。

もっとも、この規定、処分基準などまでかなり明示的に定めているため、資格停止期間が選手生命を奪うことになると批判的なスポーツ団体もあります。日本だと、野球・ゴルフ・相撲・ボクシングは、JADAに加盟しておらず、JADA規定に基づいた処理はされません。

2. JADA規定におけるドーピング規制違反とは? ~身体に存在することが罪~

JADA規定第2条で違反行為が列挙されており、2条1という冒頭では、「競技者の検体に、禁止物質又はその代謝物若しくはマーカーが存在すること」とあります。

ドーピング物質が入った状態で行った競技は「不正」になりますので、競技者はそもそもドーピング物質を身体に入れてはならないという、厳しい義務を負っているという前提で、身体から検出されれば違反という定式を最初に打ち出しているわけです。

そのため、「検査過程自体に問題があった」、「検出された物質は違反物質ではない」といった主張を展開しない限りは、違反を否認はできず、あくまで違反はあった前提での手続きになります。

3. 個人の成績の取り扱い ~自動的失効と制裁的失効~

ドラマのラストで、Snow Man渡辺翔太演じる水泳選手が、自身の記録失効についてどう思うか記者に問われ、「自分はドーピング物質を身体に入れて競技を行ってしまった以上失効は当然だ」と述べていました。

実は、そのままの内容がJADA規定第9条に書いてあります。選手への制裁はJADA規定第10条に規定されており、記録が消えるのは当然の処理という位置づけになっています。

そして、JADA規定第10条1では、違反が発生していない競技大会での成績も、制裁的に失効させることが可能な規定になっています。ただし10条1-2において、「競技者に「過誤又は過失がないこと」(no fault or negligence)を証明した場合は、明示的に、違反が発生していない競技大会での成績にまで失効は及ばない」と、保護されています。資格停止だけでなく、他の大会の成績を守るためにも、主人公の新町さんたちが行った調査って意味があったんですね。

4. 禁止物質存在時の選手への資格停止制裁基準

刑法の法定刑のように「~年以下」とかではなく、明示的に定められています。原則4年ぴったりです。この数字、昔は初回だと原則2年ぴったりだったりするため、スポーツ法を体系的に扱った書籍を読むと、今回のドラマの4年という数字がおかしく見えてしまったりもします。でも、ドラマ放送時現在の規定に従うと、4年が原則です。

では、原則4年に当てはまらない場合があるのかというと、よく争われるのが「特定物質又は特定方法に関連する」という主張です。

要するに、医療目的で身体に混入してしまったという抗弁ですね。資格停止が原則2年になると共に、減免のための反論も過失の不存在の立証とかよりは楽になります。ただ、今回のドラマでは、この主張もできる事情はありませんでしたね。そこで、「過誤又は過失の不存在」が争点となりました。

5. (重大な)過誤又は過失がないことの抗弁

JADA規定10条5は、「個別事案において、競技者が「過誤又は過失がないこと」を立証した場合には、その立証がなければ適用されたであろう資格停止期間は取り消されるものとする。」としています。取り消しということは、資格停止がなくなるということです。今回のドラマでは、4か月に変更でしたよね。つまり適用された規定が異なります。

JADA規定10条6は、「重大な過誤又は過失がないこと」に基づく資格停止期間の短縮を認めており、10条6-1-2は、「検出された禁止物質(乱用物質を除く)が汚染製品に由来したときには、資格停止期間は、競技者又はその他の人の過誤の程度により、最短で資格停止期間を伴わないけん責とし、最長で2年間の資格停止期間とするものとする。」としています。こちらが適用されたのだとわかりますね。

注意しなければいけないのは、あれだけ丁寧な立証を行っても、あくまで、「過誤または過失はゼロではない」と評価されているということです。汚染製品由来という主張が、JADA既定の中ではあくまで重大な過誤または過失がないことの例として分類されているため、そこの評価も規定の中で済んでおり、裁定機関の裁量でもなさそうです。スポーツ選手に課されたアンチドーピングの義務の重さがわかりますね。

6. 丁寧な事実調査が結局は大事

法的に整理すると、何をすればどういった効果が生じるという点が、かなり詳細に規定されているのがドーピング規制です。つまり、何をすべきかというゴールは立てやすいと言えます。ただ、それを徹底するのは難しく、今回のドラマの登場人物たちが行っていた調査は、弁護士から見ても脱帽ものの丁寧さでした。山村紅葉演じる弁護士は、おかげで楽できていましたね(笑)。

私も過去に、薬物関係で故意を否認できた事案があるのですが、やはりどれだけ普段から違法性を回避しようとしていたか、それを立証できるかがポイントになりました。そちらの話も、別の機会にしようかと思います。

杉山 大介
杉山 大介 弁護士

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