行政代執行とは|実施される要件と回避方法を解説

行政代執行とは|実施される要件と回避方法を解説

弁護士JP編集部 弁護士JP編集部

実家を相続し、遠方の誰も住んでいない家を所有しているような場合、適切に管理するのは容易ではありません。空き家を放置していて、行政代執行の「代執行令書」などが届くリスクを避けるには、早めの対応が欠かせません。

本記事では、行政代執行の特徴や具体例、回避する方法を解説します。

1. 行政代執行とは?

行政代執行とは、法律によって命じられた行為や、法律にもとづいて行政から命じられた行為を履行していない義務者に対して、行政が本人に代わって実行することです。一定の要件を満たした場合に実施できる、と「行政代執行法」第2条に定められています。費用負担は行為義務者が行います。

例えば、道路などの公共の場に私物が長期間放置されている場合、個人が自身の利権のみを主張して近隣住民の利益を害していると認められれば、強制撤去などが行われます。

戦前には、行政上の強制執行を規定した「行政執行法」が一般法として存在していましたが、1948年に廃止されました。同年、行政執行法に代わって施行されたのが行政代執行法であり、現在、行政上の代執行を規定している一般法です。

(1)略式代執行との違い

所有者が特定できる場合に行われる強制執行が行政代執行であるのに対し、略式代執行は所有者が特定できない場合の措置で、「空家等対策の推進に関する特別措置法」が根拠になっています。

所有者が特定できない空き家などで倒壊の恐れがある場合には、略式代執行で除去・改修などの措置が取られます。略式代執行では費用はいったん行政が負担します。執行後に所有者が判明した場合には、行政が負担していた費用が所有者に対して請求されます。

財産管理人制度を使い、行政が不在者財産管理人または相続財産管理人の選任を申し立て、認められた場合には、土地を取得・売却して費用に充てることも可能です。

2. 行政代執行を実施するための要件

行政代執行は、行政代執行法第2条に定められた要件をすべて満たしている場合に実施できます。満たすべき要件は以下の通りです。

  1. 法律によって直接命ぜられたか、法律にもとづいて行政が命じていること
  2. 義務者本人以外に他人が代わって履行できること
  3. 命ぜられた行為を義務者が履行していないこと
  4. ほかの手段では、命ぜられた行為を履行することが困難なこと
  5. 命ぜられた行為を履行しない状態が著しく公益に反していると認められること

行政代執行は、要件を満たしていれば必ず行われるというものではありません。例えば、埼玉県空き家対策連絡会議が2019年に公表した「行政代執行マニュアル」には、行政代執行法にもとづく代執行の事例は極めて少ないことが明記されています。また、行政代執行は個人の財産に対して直接措置を講ずるため、慎重な対応が必要であると説明されています。

行政代執行は実施を義務付けられているものではありません。ただし、公益を大きく侵害していると判断される場合には、実施が義務であると考えられています。1974年に大阪地裁で出された「西宮市造成地擁壁崩壊事件」に対する判決では「重大な被害が発生する可能性がある場合には、行政には代執行の義務がある」と述べられています。

(参考:「行政代執行マニュアル」(埼玉県空き家対策連絡会議))

(1)行政代執行の具体例

これまでに行政代執行が行われた事例としては、

  • 道路にまで伸び、通行人などの安全を脅かしていた木の枝の除去
  • 所有者が不明で、倒壊する危険性が高い空き家の解体
  • 敷地外にまで散乱し、悪臭被害の原因になっていた家のゴミの撤去

などがあります。空き家が実際に倒壊してしまった場合、近隣住民に大きな被害を与えます。放置することが不適切な状態にある空き家のことを「特定空家等」と呼びますが、2020年3月31日までの累計で、特定空家等に対する行政代執行と略式代執行とを合わせた件数は260件でした。

(参考:「空家法施行から5年、全国で空き家対策の取組が進む~空き家対策に取り組む市区町村の状況について~」(国土交通省))

(2)行政代執行の流れ

行政代執行は、実施されるまでに行政が所有者に対してさまざまな働きかけを行います。危険な空き家などであれば、解体を促したりします。それでも所有者が改善の方策を取ることなく、行政代執行法に照らしてやむを得ないと判断した場合に実施されます。

【特定空家等の行政代執行までの流れ】

  1. 行政の調査で危険な空き家として判断され、特定空家等に指定される
  2. 所有者に空き家の管理に関して助言・指導が行われる
  3. 履行までの期間を設定し、期間を過ぎると代執行を行う旨、文書で勧告される
  4. 猶予期間を過ぎると、勧告よりも強い命令が出される
  5. 所有者が履行しない場合には、相当の履行期限を設定して行政代執行の戒告が行われる
  6. 履行期限経過後も未履行の際には「代執行令書」で代執行の時期などが通知される
  7. 行政代執行(建物の解体・除去)が行われる
  8. かかった費用は所有者に請求され、支払えない場合には資産が差し押さえられる

3. 行政代執行を回避する方法はある?

所有している空き家に行政代執行が行われると、自分で費用の安い業者に依頼することができず、費用が高額になることがあります。ニュースになることもあり、周囲から悪い印象を抱かれるリスクもあります。行政代執行の実施を避けるためには、早めに対処する必要があります。

(1)売却する

行政代執行を回避する第一の方法が空き家の売却です。管理にかかる手間や費用もなくなり、解体費用も不要です。特定空家等に指定されてからの売却は難しくなるため、適切に管理しながら、業者に売却を依頼します。

(2)解体して更地にする

空き家を解体し、更地にする方法もあります。解体・更地にかかる費用の目安は、木造一戸建ての場合で1坪4〜5万円ほどです。30坪の住宅であれば、120〜150万円程度の費用がかかります。空き家の解体に助成金を出している自治体もあります。助成金を受けながら空き家を解体できれば、費用面での負担を軽減できます。

行政代執行が行われる前には、勧告や命令などの書類が段階的に届きます。勧告などの書類が届いた場合には、そのまま放置することなく早めに対応する必要があります。対応方法がわからないまま代執行が行われ、情報公開や高額の費用請求をされないためにも、法的に適切な対応のアドバイスが受けられる弁護士へ相談することをおすすめします。

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法的トラブルの解決につながるオリジナル記事を、弁護士監修のもとで発信している編集部です。法律の観点から様々なジャンルのお悩みをサポートしていきます。

  • こちらに掲載されている情報は、2023年09月05日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

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