川口市・蕨市の「在日クルド人」に対する名誉毀損を問う訴訟が提起 SNSで増幅される「ヘイト」を訴える
3月11日、在日クルド人を中心とする14名(うち法人が2社)がジャーナリストの石井孝明氏のSNS投稿によって名誉毀損・信用毀損を受けたとして、損害賠償を請求する訴訟を提起した。
「不信感と憎しみ」を煽るSNS投稿を訴える
19日、原告側代理人の岩本拓也弁護士と5名の原告が、訴訟に関する記者会見を行った。
本訴訟の原告の内訳は在日クルド人が12名、夫がクルド人である日本人女性が1名、在日クルド人が経営する法人が2社。いずれも、石井氏がX(旧Twitter)に掲載した投稿により被害を受けたとして、訴訟に参加した。
請求額は合計で500万円。岩本弁護士は、14名に対する名誉毀損への請求額としては低額であるが「お金目的の訴訟ではない。人権侵害を問いたい」という。
埼玉県の川口市や蕨(わらび)市に暮らす在日クルド人に関するSNSの投稿やネット上のコメントは、2023年の前半から急速に増え出した。そのなかには誹謗中傷も多くある。
「今、在日クルド人に対して行われていることは、事実か否かの検証がなされていない多くの投稿によって、在日クルド人と日本人の間の不信感と憎しみを徒(いたずら)に煽るものであり、無用なトラブルを生み出す危険があるため、提訴に至りました」(会見資料より)
テロリスト関係者と断定、犯罪者と示唆…数々の投稿
川口市・蕨市に暮らす在日クルド人のなかには、実際に犯罪に手を染める者もいる。原告らは「問題行為を起こしたクルド人を擁護するつもりは毛頭なく、日本の法に従って粛々と取り締まればよいことと考えております」との立場を表明。
「ただ、資料に示すとおり、すべての在日クルド人が違法行為に及んでいるかの(ような)投稿や、在日クルド人やその組織がテロリストであるかの(ような)投稿は、明らかに度を越したものであり、敢えて日本人が在日クルド人を敵視するよう仕向けているとの疑いすらもっております」(会見資料より)
原告らが訴えた、石井氏による投稿の具体例は下記のとおり。
・複数の原告を名指しでテロリスト関係者と断定する投稿。
・クルド人の春の祭り「ネウロズ」をテロリストの集会であるかのように読ませる投稿。
・川口市の犯罪増加の原因がクルド人であるかのように読ませる投稿。
・「放尿、不潔、争いなど、恥と思わない田舎者」「現代の文明、文字をスマホと車とネットしか知らん」「共生なんてできるわけない」「小学校教育も受けていないエイリアンに見えます」などの罵詈雑言。
・「あの羊飼いが元々多い民族が、秩父の河原で山羊を解体して食っているという垂れ込みが多々あります」と真偽不明の情報を拡散。
「子どもたちがいじめに遭っている」在日クルド人たちの訴え
会見には、一般社団法人日本クルド文化協会の事務局長のワッカス・チョーラクさんや、同協会の代表理事のシカン・ワッカスさんも参加した。
「日本は、国際連盟で人種差別撤廃を訴えた世界最初の国です。礼儀正しく、清潔で思いやり深い日本人を、我々クルド民族だけでなくアジアの民族もみながアジアのリーダー国として日本を尊敬していると思います。頼りにしている民族は、我々クルド民族だけではありません。」(ワッカス・チョーラクさん)
原告らがとくに問題視しているのは、SNSの投稿が原因で、在日クルド人の子どもが学校で同級生から「国に帰れ」と言われるなどのいじめ被害を受けるようになったことだ。
クルド人男性と結婚した日本人女性は、学校の放課後に夫の親戚の子どもと一緒にいるところを写真にとられ、「学校にちゃんと通わせていない」と書かれたという。
また、会見に参加したクルド人男性は、住所や経営する会社の名称・所在地を拡散される被害を受けた。
「私たちクルド人としては、石井さんに何もしたことがない。なぜ子どもたちの写真を撮ったり、デマを流したりするのか。すごく心配だ。“なぜクルド人だけ?”ということも、すごく大きな疑問として抱いている」(原告のクルド人女性)
「川口市・蕨市のクルド人問題」の背景事情
2月18日、右派系団体「日の丸街宣倶楽部」が蕨駅前で「自爆テロを支援するクルド協会は日本に要らない!」と題するデモ行進を行い、それに対して日本人やクルド人などが集まったカウンター・デモが行われた。
同日、石井氏はこのカウンター活動の一部を映した動画を含む投稿を引用リツイートしながら、「おい、クルド人、29秒から「日本人死ね」と言っていないか」と投稿。これは「病院に行け」という発言を聞き間違えたものではないかという指摘が相次いだが、石井氏の投稿は拡散され、3月19日時点で1万4000件以上のリツイートがされている(引用リツイート含む)。
日本では2016年にヘイトスピーチ解消法(本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律)が制定されたが、禁止規定や罰則はない。
また、一部の自治体では独自にヘイトスピーチ規制条例が設けられているが、そのうち罰則規定があるのは、現時点で川崎市の「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例」のみだ(50万円以下の罰金)。
会見の2日前の3月17日にも、川口駅前で「日の丸街宣倶楽部」による街宣行動とカウンター・デモが行われた。
会見では、一部の新聞が「川口市民からのもの」とされる真偽不明の通報を、真実性を検証せずにそのまま報道しているという問題も指摘された。
今回の訴訟は、川口市や蕨市に限らず、日本全体の多文化共生政策に一石を投じるものとなるだろう。
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