東日本大震災でも“ペット論争” 受け入れ拒否で「飼い主」の命も…発生13年、“被災地”で「同行避難」訴え続ける理由

加藤 貴伸

加藤 貴伸

東日本大震災でも“ペット論争” 受け入れ拒否で「飼い主」の命も…発生13年、“被災地”で「同行避難」訴え続ける理由
体を拭いてもらい気持ちよさそうな被災犬(提供:特定非営利活動法人エーキューブ)

2011年に東日本大震災が発生してから11日で13年となるが、今年元日の能登半島地震など国内外で大きな災害が発生するたび、被災者だけでなく犬や猫などペットの避難状況にも注目が集まる。

東日本大震災の被害が大きかった宮城県仙台市に、災害時のペットと飼い主の安全な避難を目指し、避難所運営についての提言や飼い主への啓発活動を続けている団体がある。特定非営利活動法人エーキューブの後藤美佐理事長と千葉浩二事務局長に、同法人の活動について聞いた。

ペット同行避難に対する風当たりは強かった

仙台市は2005年の総合防災訓練で、災害時に飼い主とペットが一緒に避難する「ペット同行避難」の訓練を実施した。その際、市の動物管理センター、一般社団法人仙台市獣医師会などとともに訓練の中心となったのがエーキューブであった(同団体が法人となったのは2006年)。

その頃すでにエーキューブのスタッフとして活動していた後藤さんは、「今以上に、『犬猫よりも人の命が先』『避難所で犬と一緒に過ごすなんて考えられない』などの声も多く、活動に対する風当たりは強かった」と振り返る。

2005年以降毎年、仙台市総合防災訓練ではエーキューブが関わるペット同行避難訓練を行ってきた。東日本大震災以降は、行政主体の訓練から住民主体の避難所運営訓練や地震、水害、その他災害を想定した訓練を年間通して実施しており、ペット同行避難訓練については、各町内会などの訓練などで実施するようになった。

「動物介在活動」の団体として発足したエーキューブ

エーキューブは、動物とのふれあいを通して情緒的な安定やQOLの向上などを目指す「動物介在活動」に取り組む「エーキューブの会」として2002年に発足した。前年に仙台市と仙台市獣医師会が実施した動物介在活動のセミナーの参加メンバーから生まれた動きだった。

その後現在に至るまで、市内の高齢者施設などにおける動物介在活動や、犬とのふれあいを通して動物との関わり方を学ぶ子ども向けの活動などを手弁当で続けてきた(2024年3月現在、新型コロナウイルス流行の影響で高齢者施設の訪問は制限中)。ほかに、災害時のペット同行避難の啓発、仙台市動物管理センターが主催する保護犬の譲渡に関連する活動などを実践している。

後藤さんと千葉さんはそれぞれ2003年、2004年に動物介在活動のセミナーを受講して「エーキューブの会」のメンバーとなり、現在は特定非営利活動法人エーキューブの活動をけん引する。

エーキューブの後藤美佐理事長と千葉浩二事務局長(撮影:加藤貴伸)

東日本大震災後、被災ペットの支援に奔走

前述のようにエーキューブは2005年以降、災害時のペット同行避難の啓発にも力を入れてきた。2011年3月11日の東日本大震災ではメンバーの多くが何らかの被害に遭ったものの、災害時に活動する意識が共有されていたため、3月13日に最初の打ち合わせを行うなど動き出しは早かった。

メンバーはそれぞれ、生活拠点に近い避難所などをめぐり、ペットの避難状況を確認。同時に動物病院やホームセンターの営業状況などを調べ、インターネット上や避難所で情報を提供した。また全国から支援金・物資を募り、被災各地の犬や猫に必要なものを届ける活動を始めた。3月25日には仙台市動物管理センター、仙台市獣医師会とともに仙台市被災動物救護対策本部を設置し、被災動物の救護体制を整えた。

一方、市と連動した活動は対象が仙台市域に限られるため、エーキューブは単独で気仙沼方面など県内沿岸部各地の被災ペットの支援を始めた。津波被害の大きかったエリアには犬や猫だけを抱きかかえて逃げたという人も多く、犬用、猫用の物資は大いに喜ばれた。

エーキューブは震災以降、支援物資の保管、整理、配布などの作業のほか、被災動物の保護・譲渡に関する活動や、仮設住宅での犬のしつけ教室、仮設住宅に暮らす子どもたちを対象とする動物介在活動など、被災地の状況の変化に応じて活動の内容を充実させていった。

仮設住宅での動物介在活動(提供:特定非営利活動法人エーキューブ)

経験を糧に、次の災害に向けた啓発を強化

東日本大震災後の支援活動を経験したエーキューブのメンバーは、次の災害に向けた活動も強化している。

津波の被災地で「ペット連れだったために避難所に入れてもらえず、別の避難所に向かう途中に津波に遭って愛犬や家族を失った」「犬を避難所に連れて行けないからと危険な自宅で過ごさざるを得なかった」などの話を数多く聞いたという後藤さんと千葉さん。避難所にペットの居場所がないことが飼い主の命も危険にさらすことになる、と実感し、ペット同行避難の啓発の必要性を再認識した。

「震災後、仙台市の避難所運営マニュアルに『ペット連れ避難者への対応』のページが追加され、各避難所の運営にあたる人たちも対応の必要性を認識するようになった。私たちエーキューブが各地域でペット同行避難について説明するような機会も増えた。震災前と比べて理解が広がり、具体的に対策を考える地域も多くなってきた」と、後藤さんも千葉さんも手応えを感じている。

ペットを受け入れる避難所体制への提言のほか、「ケージで過ごせるように慣らしておく」「避難用のフードやペットシートを備蓄する」など、飼い主側への啓発も続けるエーキューブ。防災関連のイベントで呼びかけるなど、災害時に人とペットの命を守るための活動を地道に続けている。

  • この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。

編集部からのお願い

情報提供をお待ちしております

この記事をシェア