東京都で急増「アライグマ」に”接近要注意”のワケ…農作物への被害、死に至る感染症の媒介も

弁護士JP編集部

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東京都で急増「アライグマ」に”接近要注意”のワケ…農作物への被害、死に至る感染症の媒介も
東京都で増殖を続けるアライグマは適応力・繁殖力が高い(K,Kara / PIXTA)

東京都がアライグマ増殖に頭を抱えている。都民から寄せられる相談件数は右肩上がりで、区部における相談件数は2022年こそ前年より減少したものの、それでも4000件に迫る勢いで、8年前の約4倍となっている――。

アライグマはもともとはペット用に輸入された個体が逃げ出したり捨てられたりしたものが国内で繁殖し、野生化した。見た目がかわいく、遭遇した人も近寄ってエサを与えがちだが、雑食で環境への適応力や繁殖力が高く、無策ならどんどん増殖する。

農作物を食い荒らすなどの被害をもたらし、感染症を媒介することなどから「特定外来生物」に指定され、東京都も「アライグマ・ハクビシン防除実施計画」(令和4年度改定)で、その「根絶」を最終目標としている。

都が警戒する3つの被害

東京都が警戒するのは、大きく3つの被害だ。

  • 農林水産業や生活環境における被害
  • 生態系への影響
  • 人間への健康被害

上記のうち例えばアライグマによる農業被害は、2022年で900万円に迫る。少ないように思えるが、2014年は100万円に満たなかったことを考えれば、増加ペースは深刻だ。

アライグマによる農業被害面積と被害金額の推移(東京都HPより https://www.metro.tokyo.lg.jp/)

生態系への影響では、あきる野市日ノ出町の丘陵部で、絶滅危惧種のトウキョウサンショウウオの個体群が3分の1にまで衰退。その原因の一つにアライグマによる捕食があげられている。

最も直接的な被害であり、要警戒とされているのが人間への健康被害だ。愛らしい見た目から、遭遇するとペット感覚で近づく人もいるが、触れることで病原菌に感染するリスクがある。なかでも危険とされるひとつがエキノコックス症だ。

北海道のキタキツネが主な感染源として知られるが、アライグマも媒介する。ふんから手指、食物、水などを介して人に感染する。体内で嚢胞(のうほう)が発生し、ゆっくりと増大していき、周囲の臓器を圧迫。肝臓などに影響を与えていく。

ただし、その初期症状がでるまでに成人の場合、長ければなんと10年以上を要するという。そして、一度初期症状が出ると、そのまま放置した場合、約半年で腹水がたまり、重篤化すると死に至ることもある。

ペットへの感染リスクも

人間であれば触れず、近づかないよう警戒することで、ある程度感染も防げる。だが、ペットへの病原菌感染リスクもあり、例えばジステンパーやパルボウイルス感染症などを媒介する。そのため、近隣で目撃情報などがあった時点で、ペットを飼っている場合は十分に警戒する必要がある。

こうした被害をもたらすことから特定外来生物に指定されているアライグマは、「外来生物法」によって輸入、放出、飼育等が禁止されるなど、厳しい規制がかけられている。また、被害が生じる恐れがある場合でも必要と判断されれば、防除が許されている。それでもなお強い繁殖力などもあり、個体数は増え続け、都も年々その対策を強化しているのが実状だ。

対策強化で捕獲数も年々増加

東京都が策定する「アライグマ・ハクビシンの防除実施計画」に参加している自治体は22区22市2町で計46区市町まで拡大。区部に限れば千代田区以外、全区が参加しており、もはや東京都ほぼ全域にアライグマが入り込んでいるといえる。

捕獲状況は2022年に1282頭(ハクビシン、アライグマ)が捕獲され、そのうち110頭が区部での防除捕獲だった。これら防除実施計画に参加する区のひとつである足立区の担当者に取り組み状況を聞いた。同区では、2018年よりハクビシン・アライグマを、捕獲器(箱わな)を設置して捕獲する事業を実施しているという。

「昨年より、対策を拡充しました。それまでは捕獲器の設置は屋外のみでしたが、屋根裏や床下などへ侵入するケースも多く、屋内への設置も可能としました。利用回数も年度内2回までの制限がありましたが、制限をなくしました。何度でも利用可能です。また、屋内への侵入を防ぐ家屋の穴の閉塞作業にも助成金をだすことになりました」と足立保健所生活衛生課庶務係の担当者は説明した。

屋外にわなを設置しても、アライグマやハクビシンは家屋の屋根裏や床下を棲みかとするため、繁殖の抑止にはつながりづらいという。それにしても、ワナの設置を屋内にまで拡充し、利用回数の制限をなくすというのは、アライグマ等の繁殖力がすさまじく、街中への侵入がいかに深刻かを物語っている。

同区での捕獲器設置数は年々増加し、昨年度は117件で前年の56件から倍以上になった。それに伴い、アライグマの捕獲数も急増している。

2021年度が7頭、2022年度は9頭だったのが、昨年度は一気に33頭に増大。区内の荒川周辺でも目撃情報が増えているといい、特にアライグマの繁殖が加速していることが各データなどからも鮮明になっている。

被害を防ぐ「3つの法則」

前出の担当者は、「ホームページ(HP)上やチラシ配布等で区民に注意喚起もしていますが、怖いのは感染症です。寄生虫や細菌を保持していることがあるのでむやみにえさを与えないでくださいと呼び掛けています」としたうえで、「被害を防ぐには3つの法則があります。『エサ場にしない』『侵入させない』『住まいを与えない』です。見かけたら近づかず、すぐに連絡してください」と声を大にした。

かわいい見た目ながら、死に至る感染症リスクもあるアライグマ。わずか5cm程度の隙間でも侵入できるといい、繁殖への一歩となる屋内への侵入回避には徹底ガードが必要だ。足立区以外の区部でも個人向けに無償でわなの設置に対応してくれる自治体もあり、見かけたらまずは役場や警察に連絡するといいだろう。

すでにその繁殖ペースは危険領域にある。それくらいの危機感を持ち、ひとり一人が高い意識を持って“3つの法則”を実践する。そこまでしなければ、都が目標とする「根絶」にはほど遠いかもしれない…。

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