統一教会は「いい人ばかり」だった 教団という“共同体”の人間関係に絡めとられた若者が語る「洗脳体験」

弁護士JP編集部

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統一教会は「いい人ばかり」だった 教団という“共同体”の人間関係に絡めとられた若者が語る「洗脳体験」
洗脳された人にしか見えない世界がある(弁護士JP編集部)

世間から「問題がある」とされている宗教に、なぜ入信するのだろうか。

多くの人にはピンとこない話かもしれないが、“内側”にいた人たちの証言からその体験世界をのぞけば、誰もが「狂信」する可能性にドキリとするかもしれない。

本連載では、宗教2世の「当事者」であり、問題に深く関心を持つ「共事者」でもある文学研究者が、宗教1世と宗教2世へのインタビューをもとに、彼らの「狂信」の内側に迫る。

第2回目は、21歳の若者が旧統一教会に入信してから脱会するまでの回想より、当事者が受けた「洗脳」を追体験する。

#3に続く

※ この記事は、文学研究者・横道誠氏による書籍『あなたも狂信する 宗教1世と宗教2世の世界に迫る共事者研究』(太田出版)より一部抜粋・構成。

「いい人ばかり」だった統一教会

みほさんが入信したきっかけは、街中でのアンケートへの協力だった。1000円で手相を見ると言われ、「ビデオセンター」に連れて行かれて、1万円で講習を受けることになった。勧誘した人々は統一教会の関係者だと名乗っていなかった。

みほさんは21歳で「世間知らずだった」と回顧する。

みほ キリスト教に対して、なんとなくいいイメージがあって、キリスト教系なら安心だって思ってしまったんです。講習の内容に耳を傾けていても、悪いことを言ってるようには感じなかった。「2DAYS」の講習に数万円、「4DAYS」の講習にもっと多くの金額を払ったけど、じぶんを勧誘してくれた人は、手紙を送ってきてくれたり、お菓子の差し入れまでしてくれたりで。講習に欠席したときは、申し訳ないって思って。いまから考えたら、「洗脳三昧」だったと思うんですけど。

 

どのような「洗脳」だったか、読者は想像がつかないだろうから、教典として使用される『原理講論』から引用してみよう。新たな救世主が韓国に出現するということは、つぎのように記されている。

イエスは、アブラハムの血統的な子孫たちに再臨されるのではなく、彼らの遺業を相続して実を結ぶ国に再臨されることを我々は知り、また、実を結ぶ国は、東方の国の中の一つであることも知った。古くから、東方の国とは韓国、日本、中国の東洋三国をいう。ところがそのうちの日本は代々、天照大神を崇拝してきた国として、更に、全体主義国家として、再臨期に当たっており、(略)当時、韓国のキリスト教を過酷に迫害した国であった(略)。そして中国は共産化した国であるため、この二つの国はいずれもサタン側の国家なのである。したがって端的にいって、イエスが再臨される東方のその国は、すなわち韓国以外にない。(『原理講論』、586ページ)

洗脳ののち“正体”を明かされた

救世主は東方(中東)よりもさらに東方(極東)に出現するとされ、日本は女神信仰の国かつ韓国を迫害した国、中国は共産主義国家だということで「サタン側」だとされる。その上で、朝鮮半島が政治的に分断されているという事実すら、韓国が救世主の国だということを強弁するために利用される。

イエスは、堕落世界を創造本然(ほんぜん)の世界に復帰されるために再臨されるのであるから、まず再臨されるはずの国を中心として、共産世界を天の側に復帰するための摂理をなさるということは確かである。それゆえ、イエスが再臨される韓国は神が最も愛される一線であると同時に、サタンが最も憎む一線ともなるので、民主と共産の二つの勢力がここで互いに衝突しあうようになるのであり、この衝突する一線がすなわち38度線である。すなわち、韓国の38度線はこのような復帰摂理によって形成されたものである。(『原理講論』、590ページ)

韓国と北朝鮮を分断する38度線で、じつは神とサタンの軍勢が民主と共産という世俗勢力として対峙(たいじ)しているというのだった。「洗脳」ののち、正体が統一教会だと明かされたが、みほさんは入会申込書を書いて、社会人として2年で貯めた50〜60万円を献金した。

脱会後に「たいへん」だったこと

ホームで共同生活を送り、『原理講論』を学んだ。昼は介護職として勤務し、夜は「伝道」に励んだ。6年か7年をそうやって過ごしたものの、親とプロテスタントの牧師による脱会支援が始まった。彼らは邪悪な「サタン」が遣わしているのだと感じたが、親から贈られた本を読んでみると、もしかしてじぶんはマインドコントロールにかかっているのかなと思うようになった。みほさんは教団に脱会届を内容証明で郵送した。

みほさんは統一教会という「共同体」の人間関係に絡めとられたが、教団が約束する「地上天国」という究極の共同体には、初めは関心が湧かなかった。それまでみほさんが生きてきた世界観から離れすぎた観念だったのだ。しかし講習を受けていると、なんだかじぶんもぜひ「地上天国」に行きたいと願うようになってしまった。子ども時代のみほさんはいじめられっ子で、他者と深く対話をする機会を持たなかった。統一教会に入ったら、まわりは「いい人ばかり」だった。やめるまでに、「いい人」たちのことが思いかえされ、ためらいは大きかった。

脱会後、「人間関係の作りなおし」という課題が待っていた。みほさんは社会人サークルに入り、野球チームを結成した。被害者家族の会のメンバーに加わり、さまざまな人から心のケアを受けた。しゃべる内容が教義に「汚染」されていたから、「もとの言葉を組みたてなおす」のがたいへんだったと語る。

第3回目に続く

  • この記事は、書籍発刊時点の情報や法律に基づいて執筆しております。
書籍画像

あなたも狂信する 宗教1世と宗教2世の世界に迫る共事者研究

横道誠
太田出版

内側からの狂信論 宗教、スピリチュアル、自己啓発、マルチ商法、 陰謀論、自然派カルト、ネトウヨ言説… 「真理」を求める人たちを、どうして軽んじられるだろうか――。 宗教2世(エホバの証人2世)として過酷な幼少期を経験し、現在、宗教2世のために自助グループの運営にも尽力する文学研究者の著者が、宗教1世(自らカルト宗教などに入信した人)と宗教2世10名にインタビュー。その証言や、幻想文学、そして自身や自身の母親の経験をもとに、「他人」としてではなく、「当事者」として、また問題に深く関心を持つ味方「共事者」として、「狂信」の内側に迫る。

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