災害発生時「ペット同伴」避難をスムーズに行うには? 国・行政「家庭動物」“ルール改善”進むも足りない意識

榎園 哲哉

榎園 哲哉

災害発生時「ペット同伴」避難をスムーズに行うには?  国・行政「家庭動物」“ルール改善”進むも足りない意識
能登半島地震被災地でもペットの保護が行われている(写真提供:ピースワンコ・ジャパン)

石川・能登半島地震から約1か月が経とうとしている。依然として被災地で厳しい避難所生活を送っている人々とともに、家族同然のペットについても受け入れ可能な避難所が限られているなど、その取り扱いについても報じられている。

ペットを飼っている人が被災した時、あるいは被災に備えて、どう行動するべきなのか。動物虐待防止の啓発に取り組むNPO法人「どうぶつ弁護団」の理事長を務めるなどペット・動物関連の法律にも詳しい細川敦史弁護士に話を聞いた。

避難ペットとりまく被災地の動き

長期化を余儀なくされる避難所等での生活。ペットの飼い主にとっても厳しい時期が続いている。石川県はそんな飼い主らに向けて「ペットに関する相談窓口」を設け、電話相談を受け付けている。

また1月21日には、避難所である「いしかわ総合スポーツセンター」に併設されたトレーラーハウス内に「ペット飼育スペース」を設置。

ペットの毛などによる避難者のアレルギー発症を防ぐため、避難所とは完全に分けられた同スペースでは、「自分でえさやり・水やり、ふん等の処理、ケージ内の清掃、散歩(犬の場合)、緊急時の連絡等ができる」、「狂犬病ワクチン(同)・混合ワクチンの接種、ノミ・ダニ駆除が済んでいる」ことなどを条件に犬と猫に限って受け入れている。

石川県獣医師会では1月15日から、およそ1か月をめどにペット(犬、猫、うさぎ、小鳥)の一時預かり支援を始めた。131匹(犬49匹、猫65匹、うさぎ2匹、鳥15羽)=1月21日現在=が動物病院で保護されている。

ペット・家畜の法的な位置づけは?

2011年3月に発生した東日本大震災から、ペットとの被災・避難生活等の問題がクローズアップされ始めた。避難生活の中、ペットと一緒に避難所に入れず、車中で過ごした被災者がエコノミークラス症候群で体調を崩したり、亡くなったりするケースもあった。

また、特に福島第一原子力発電所の事故の影響で帰還困難区域に指定された地域などでは、取り残されたペットや家畜などをどうやって助けるかが課題となった。エサ不足で死んでしまうペット・家畜がいたほか、不妊去勢手術を受けていない状態で放浪、繁殖すれば、生態系や野生動物にも影響を与えかねない。

当時、緊急時の動物の取り扱いを定めた法律はなく、細川弁護士は「大枠の対応方針でさえ定められていなかった」と振り返る。

現場が混乱した経験を踏まえ、環境省は2013年8月、『災害時におけるペットの救護対策ガイドライン』を作成し公表。さらに熊本地震(16年4月)発生から2年後の18年3月には、その改訂版『人とペットの災害対策ガイドライン』を発行した。また20年5月には、国の防災基本計画の中に「家庭動物」の文言が盛り込まれ、「避難所における家庭動物のための避難スペースの確保等に努める」ことなどが明記された。

一方で、細川弁護士はこの約10年間を振り返り「(国や行政の)ルールレベルでは変わってきていて、改善はされているが、ペットの法律上の位置付けは東日本大震災後も変わらない」と指摘する。

ペット・家畜などの動物は民法上の「動産(不動産以外のすべての物、財産)」として扱われるが、いすやテーブルといった家具などとは異なり、命があり無機物ではない。

「民法の中では動産でしかないが、特殊な動産だと言える」(細川弁護士)

羽田空港で1月2日に起きた日本航空機と海上保安庁機の事故では、「貨物」として運搬されていたペット2匹が犠牲となった。

ペット同伴「防災訓練」のすすめ

筆者もかつて、実家で柴犬を飼っていた。上京した後も帰省した折には散歩に連れて行き、晩ごはんの残りを与えていた。家族の一員と感じていた。

法的には人間ほど守られないが“命”を持つペット。災害が起きた際、飼い主としてどのように守ることができるのか。

細川弁護士は、避難したり、避難所に連れて行くときのために、「ペットがキャリーケースを嫌がらないよう普段からキャリーケースを見せたり、出入りさせておくことも必要でしょう」と語る。

また、前述した東日本大震災時の例のように、避難所に入れないペットと共に車中泊した飼い主が体調を崩すこともある。細川弁護士は「ペットとの避難を考えることは同時に、飼い主自身を守ることにもつながる」として、自治体等で行われる防災訓練・避難訓練の際にも、ペットを同伴させることを勧める。

このような習慣によって、飼い主への意識づけとともに、ペットを飼っていない住民に対して、犬や猫が避難所などにやってくる可能性があることを周知させられる。

「ペット同伴の防災訓練が全国各地で当たり前のように実施され、報道の必要もないくらいに普通の光景になることを期待したい」(細川弁護士)。

ためらわずに防災訓練に連れて行く少しの勇気が、自身と共に大切な“家族”をきっと守ってくれる。

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