「ゆるすぎる」ホワイト企業を若手が辞めていく原因 上司が見落としがちな「認識のずれ」とは?

二野瀬 修司

二野瀬 修司

「ゆるすぎる」ホワイト企業を若手が辞めていく原因 上司が見落としがちな「認識のずれ」とは?
居心地は悪くないのに、なぜか心が穏やかにならない…(Fast&Slow / PIXTA)

いかなる企業も、いまやコンプライアンスを遵守することは“世界標準”。そう認識していながら、日本ではいまだ古い価値観を振りかざし、組織や会社を貶める愚行を働く企業人が絶滅することはない。

本連載では、現場でそうした数々の愚行を目にしてきた危機管理・人材育成の4人のプロフェッショナルが、事例を交えながら問題行動を指摘し、警告する。

第8回は、大手都銀を経て、経営コンサルタントへ転身した、ファイナンスや人事制度構築等のプロ・二野瀬修二氏が、ホワイト企業なのに若手が辞めていく組織のメカニズムについて解説する。

若手層の離職に頭を悩ます企業が増えている。

といっても、職場にパワハラ、長時間労働等が蔓延する、いわゆるブラック企業だけの話ではないから深刻だ。

意外にもブラック企業とは真逆に位置するホワイト企業でも、水準の差こそあれ、若手層の離職が課題になっている。

居心地の良さがなぜ、定着につながらないのか

企業の人事担当者は、会社の将来を担う若手層のリテンション(離職防止)のため、人事制度改定や、ハラスメント防止法(労働施策総合推進法)等の対応を積極的に行っている。それでもなぜ、居心地のいいはずのホワイト企業から若手が去っていくのか…。

こんな調査結果がある。

先日、ある企業が行った、若手層(20代~30代)の仕事の価値観や、働く意識の調査。テーマは「職場のゆるさ」についてだ。

結果は、「職場がゆるい」と感じることがあるとした若手はおよそ3割。なぜゆるいと感じるのか?に対する理由は、「上司から明確なアドバイスがない」が最も多く、「雑用・重要でない仕事多い」が続いた。

職場がゆるい=きつくない、ある意味「ホワイト」な職場でも、「職場がホワイトすぎる」「仕事を通して成長実感がない」と捉え、結果、「職場のゆるさ」を理由に転職を検討する若手層が増えている。それが居心地のいいはずの会社から若手が去る理由のようだ。

もう少し深堀してみよう。制度変更やハラスメント防止などの仕組みが整備され、職場環境は健全に整備されている。しかし、そうした側面ではカバーしきれない企業風土に関しても、現在の若手層は懸念や不安を覚えており、それが離職の要因にもなっているようだ。

どうすれば離職を止められるのか

なんとも悩ましい問題といえるが、このような環境下、こうした層の離職を改善させることはできるのだろうか?

これに関して、私が関与させていただいている企業の人事担当者や、他方面で活躍している人事コンサルタントに状況を聞くと、以下のような一面が浮かびあがってきた。

一概には言えないものの、どうやら一部の若手層が「雑用、重要でない」と捉えている仕事を、人事担当者や、その上司・役員は、そのように捉えていない。つまり、「雑用が多い」→「実は雑用ではない」、「重要ではない仕事」→「実は重要である仕事」ということもあるようだ。結局、上司や会社の認識と若手層との間での認識のずれが発生してしまっているのだ。

上司や会社としては、「この仕事をこのタイミングで行えば、結果としてこれが得られる。そして次にこのようになって欲しい」というプランが相応にあるが、それを十分に伝え切れていない、もしくは、伝えていても正確にそれが伝わっていない…。

このずれが積み重なり、大きくなることで、若手層の満足度は下がり、最終的に「離職」という選択肢につながっている一面があるようだ。

答えは人事制度の改定や、法律の整備の範疇にはない

これらが、人事制度の改定や、法律の整備の範疇ではないことは明らかだろう。大事なことは、会社側や上司と部下のコミュニケーション、信頼関係であることは明らかだ。

この時代、どんな企業も人材不足にあえいでいる。手伝って欲しい先輩や、部下により広い範囲で業務を行って欲しいと考えている上司が大勢だ(但し、これはあくまで日本企業のメンバーシップ型の人事制度の話で、ジョブ型の場合は除く)

以前に比べ、ビジネスモデルの変化していくスピードが速く、若手が速い成長を求めるのはやむを得ない現実は確かにある。ただし、ビジネススキルアップのスピードをあげることと、ビジネスでの経営の根幹にかかわる視野を広げる能力のスピードをあげることは、必ずしもイコールではない。

つまりいかにビジネススキルアップのスピードをあげても、ビジネスのおかれた環境や経営状況を的確に捉え、さらに言えばそこに関わる人員やプロジェクトをマネジメントする能力は、必ずしも比例してあがるわけではないように見受けられる。

この能力はやはり、若手よりも経験を積んだ中堅以上の層の方が長けていると思われる。だからこそ、それを上手く伝承していくことは重要であり、この能力こそが、ビジネスモデルの変化が速い時代でも普遍的に使える能力であり、ビジネスパーソンが今後のキャリアで重視すべきものであるといえる。

上司と部下の在り方を今一度検討してみることも有益

私は人事制度構築に関するコンサルティングもお手伝いさせて頂いているが、上司と部下がここまで育成に関心があり、その後のキャリアにまで気に掛けるのは日本企業の特徴であり、世界的に見ても稀有であると感じている。

若手の離職率低下のため、人事制度の再構築、社内規定の整備、ハラスメント防止に関する法的側面の研修等のご相談を多々受けるが、仕組みに手をつけることは当然重要。だが、その前にまずはその土台となる、日本企業に根付く上部・部下の関係を振り返っていただくことも同じように重要と考えている。

私どもは、制度構築のみならず、このような日本企業が有する伝統的なよさを伸ばすサポートもさせていただいている。少子化が進み、今後若手も減少していくことが避けられない中、いま一度、人にフォーカスし、上司と部下の在り方、コミュニケーション手法について検討してみることも有益ではないだろうか。

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