考えられない不祥事を生む”魔物”の正体… 抗えない企業内部の“圧”はどのように醸成されるのか?

弁護士JP編集部

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考えられない不祥事を生む”魔物”の正体… 抗えない企業内部の“圧”はどのように醸成されるのか?
ビッグモーターの不正は普通では到底考えられない内容だった…(SASA / PIXTA)

ジャニーズを皮切りに、宝塚、ビッグモーター、日大など、コンプライアンス違反に起因する企業・組織の悪辣な実態が次々と明るみになった2023年。人事および組織運営のプロとして、数多くの企業や組織を内部からもみてきた目には、こうした不祥事はどのように映ったのか。4人のプロフェッショナルに、組織が腐敗する元凶やそのパターンなどについて考察しながら、激動の1年を振り返ってもらった。第二回では、どうすれば不祥事は防げるのかについて、検証する。(#2/全4回)

チェック機能があってもなぜ、重大な不正は防げなかったのか

できないことをやらせる。なにがなんでも数値目標を達成させる。過度な売上至上主義ともいえるこうした体質を改め、不祥事を起こさないためにどうすればいいのでしょうか。

二野瀬 まず、コンプライアンスとハラスメントは別物ではないと認識することが肝要です。

企業によっては、ハラスメントは総務系の部署の所管、コンプライアンスは法務系部署の所管であることがあります。その場合、ハラスメントは総務系の部署が社員に周知、コンプライアンスは法務系の部署が社内周知、と「コンプライアンス」と「ハラスメント」が一つの企業内で別で々の事象として扱われることになります。

なぜ2つを線引きすることが問題かというと、どちらかが遂行されたとしても問題が起こらないわけではないからです。どういうことかというと、例えば、業績面での過度なプレッシャー、パワーハラスメント等により、やむなく、不正行為を行ってしまった。逆に言えば、ハラスメントによって、遵守されるべきコンプライアンスが無視されてしまった。こうした法令遵守どころではない「圧」が、社員を不正に走らせるケースが本当によくあるんです。

過度なハラスメントが法令順守を崩してしまう行為につながることもある。そうだとすれば、双方を連動して周知させなければ意味がない。

コンプライアンスとハラスメント分けて考えないことが重要と二野瀬氏

二野瀬 その意味でビッグモーターの事例は問題が大きいなと。金融機関に在籍していた経緯もあり、保険金の不正請求には怖さを感じました。

保険が絡むとなれば、しっかりと整備されたチェック体制を潜り抜ける必要があります。ですから、そもそも想定し得ないですし、一個人でなせる業ではなく、組織的な問題といえるかと思います。

例え過度なパワハラがあったとしても、チェック機能は別のものであり、最後の砦なハズですからね。

二野瀬 そこをもすり抜け、超えていったというのは、想像を絶するような相当な圧力なりが、組織に圧し掛かっていた…。結果として、コンプライアンス意識は希薄になったということかと思います。

日本が壊れてしまうような、信用を地の底に落とすような由々しき問題だった。

二野瀬 そうしたことを許す組織体制にも問題がありますが、基本的に組織としてあるべき姿が後回しになり、体制なり機能ではカバーしきれなかったのかもしれません。

経営体制が抜本的に変われば、自浄作用が働く可能性も

そうなるともう、予防とか改善という次元ではない。

二野瀬 そう言えるかと思います。ただ、今後、経営体制の変更等で、その考え方自体がそもそも変わっていくのであれば、それは逆にいうと自浄作用ではないですが、組織の体制として、そして社員も含めた考え方として変わっていく可能性は大いにあるのではないでしょうか。

根本から変わるなら、自浄作用が働く可能性はあると。全体が一つの方向を向き、ある意味の思考停止になるという指摘を当連載でもされていた一松さんは、このケースをどのように捉えていますか。

一松氏は「個人が本当に悪人ということはおそらくない」という

一松 あの記事にも書かせていただいたように、やはりいろいろなことが起こるにあたって、個人が本当に悪人ということはおそらくそうない。ただ、それら一つひとつが積み重なり、意思決定が捻じ曲げられる。あるいは、そこに強烈なリーダーがいて、外部からもプレッシャーが圧し掛かってくる。成果であったり、納期であったり…。そういったさまざまな要因・要素が組み合わさり、抗えない圧となり、結果的に歪な組織状態が形成されてしまったということなのかなと。

そうなると、それぞれは誰のため、なんのための隠ぺいであり不正なんでしょうか。

一松 私自身の企業での業務経験も照らしながら考えてみると、その組織にいるためとか、自分の居場所を守るためとか、本意ではなくても、従わなければそこに居づらくなる風潮が全体で作られてしまうことも影響を与えているのではないでしょうか。そうなると判断が狂ったり、麻痺したりすることはあるかもしれません。

組織が大きくなるほど、よりそうしたしがらみからは逃れられにくくなる気がしています。私自身、組織の一員だったころはかなりもがき、苦しんだ経験があるので。

#3へ続く

【プロフィール】

新井健一
経営コンサルタント、アジア・ひと・しくみ研究所代表取締役 早稲田大学卒業後、大手重機械メーカー人事部、アーサーアンダーセン(現KPMG)、ビジネススクールの責任者・専任講師を経て独立。人事分野において、経営戦略から経営管理、人事制度から社員の能力開発/行動変容に至るまでを一貫してデザインすることのできる専門家。著書は『働かない技術』『いらない課長、すごい課長』(日経BP 日本経済新聞出版)など多数

一松亮太
経営コンサルタント、株式会社KakeruHR代表取締役。大手生命保険会社、銀行系シンクタンク、教育系スタートアップを経て独立。現在は、業務プロセス構築、人事制度構築等のコンサルティングに従事。その他、企業向けの研修講師として多数登壇。

角渕渉
経営コンサルタント・産業カウンセラー/アクアナレッジファクトリ株式会社代表 ソフトウェアハウス、国内系コンサル会社を経て、大手監査法人グループのKPMG あずさビジネススクールで講師をつとめる。2007年にアクアナレッジファクトリを設立。「確かな基礎力に裏打ちされた『変化に柔軟に適応できる人材』の育成」をテーマに、各種ビジネススキル教育、マネジメント教育の研修講師として活躍中。

二野瀬修司
経営コンサルタント、株式会社ウィズインテグリティ代表。大手都市銀行、人材育成・組織開発を専門とする企業を経て独立。現在は、ファイナンスや人事制度構築等のコンサルティングに従事する他、企業向けの研修講師として多数登壇。

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