ジャニーズ、ビッグモーター… 2023年を揺るがしたアノ不祥事に共通する “根本原因”とは【組織運営のプロ4人が徹底解析!】

弁護士JP編集部

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ジャニーズ、ビッグモーター… 2023年を揺るがしたアノ不祥事に共通する “根本原因”とは【組織運営のプロ4人が徹底解析!】
2023年の日本はおどろおどろしい不正が目立った(都内、弁護士JP編集部)

ジャニーズを皮切りに、宝塚、ビッグモーター、日大など、コンプライアンス違反に起因する企業・組織の悪辣な実態が次々と明るみになった2023年。人事および組織運営のプロとして、数多くの企業や組織を内部からもみてきた目には、こうした不祥事はどのように映ったのか。4人のプロフェッショナルに、組織が腐敗する元凶やそのパターンなどについて考察しながら、激動の1年を振り返ってもらった。第一回は、不祥事の背景になにがあったのかを解析する。(全4回)

包み隠されていたものがあふれ出した1年

正しい論調はどんなものかを再点検する時期に来ていると新井氏

ジャニーズを皮切りに、フタの下で充満していた”臭いもの”がどんどん世の中にあふれ出した印象の1年でした。

新井健一(以下新井):ご多分に漏れずコンプライアンス上の問題企業、不祥事がたくさん取り上げられました。なかには本当に社会を震撼させるような、場合によっては国際問題になるような事案、事例も多く見受けられました。

企業活動においては営利とか人気や評判等が重要視されてきたのがこれまでです。一方で、その背後にあるものは良くも悪くも包み隠されてきました。

例えば企業の不祥事の場合、内側ではその企業の周り、タレントであればその周りにファンがいて、おかしな論調でもそれが当たり前のように通ってしまうことも。そうした歪みを、「では正しい論調はいったいどういうものか」と、例えば法律もしくは憲法を携えて、いま一度再点検する、そういう時期にいま、来てるんじゃないかなと。

応急手当として膿を出すのではなく、抜本的に膿を出し切り、健全体として身を清め、ビジネスや事業と向き合わないと、未来はないということですね。

新井:できる限り客観的な視線で、そうしたことをリセットなり整理をする。あえてそうしたプロセスを経ることが、ひいては例えばAIやロボットとの協業といったこれから当たり前になる潮流の中で、企業がどういう立ち位置で向き合うべきなのかを考えることにもつながっていく。そんなことを実感した1年でした。

おかしなことをおかしいと言えるような組織体に軌道修正をする、いままさに過渡期にあると。二野瀬様はどうでしょうか。

二野瀬氏は利益がらみでない事案が多かった印象と2023年を振り返った

二野瀬修司(以下二野瀬):全体感ということでは、例年と少し違うタイプの不祥事が多かった印象です。ジャニーズをはじめとして特徴的だったのは、その領域が暴力だったりハラスメントだったり、また薬物関係(日大)など多岐にわたっていました。例年だと基本的には利益の水増しのようなプロフィットがベースにある不祥事が多いですから。

もうひとつのポイントとしては、大企業や大組織で目立ったということ。トップだとか、経営層の意識が高ければ、コンプライアンスなりはなんとか守られていく。そうした通念上の考え方から、少し“ずれ”が生じてきているのかなと感じざるを得ませんでした。つまり、通常の一般社員だとか、そういったところまで目くばせをしていかないと組織として健全さを維持できない。今後はそのようなケースが増えてくるのかなと。

”外”からの刺激がベールを剝がした

ジャニーズでいえば結局は海外のメディア報道が崩壊のトリガーになりました。その意味では「グローバル」という言葉も随分前から言われていますが、適応できなければ取り残される時代になった…。

覆い隠されていたものが世に出てきたタイミングだったと一松氏

一松亮太(以下一松):私が感じているのは、いろんな方向からバックスピンして、覆い隠されていたものが世の中に出てきたタイミングだったのかなということです。

今年ということでは少しずれてしまいますが、東京五輪招致をめぐる資金の使い方だったり、ジャニーズにしても何十年も前から言われていたことがようやく明るみ出てて来たり、宝塚なども割と聖域的なところで誰も触れられなかったりしたものが報道されたり…。

SNSで一般の人たちも発信力を持ち、例えばインフルエンサー的な方の力を借りて海外に発信し、それが海外から取り上げられて、というようなこともありました。その結果、「アノ時のアノことはやっぱり事実だったんだ」みたいなことが一気に世の中に出てきたのが2023年だったのかなと思います。

着実に浸透していたグローバル化が、実はもう日本を飲み込んでしまっていて、”ゆでガエル”状態になっていた…。

マスコミが報道しづらい事案が多かったと振り返る角渕氏

角渕渉(以下角渕):私はこのメンバーの中で一番長く”コンプライアンス”を見てきました。その上で今年の特徴を挙げるとすれば、マスコミが報道しにくい事案が多かったのかなと。つまり、マスコミが当事者に忖度をせざるを得なかった。ジャニーズやビッグモーターしかりですね。それが2023年の不祥事の特徴といえるのかなと感じています。

ただ、これはたまたま今年出てきたというだけの話で、決してトレンドということではないとも思います。

どの事案も今年になって初めて発覚したものではなく、”周知の事実”でしたからね。

角渕:結局のところ、人間のやらかすことにはかなりの部分で共通性が高く、古い事件も最近の事件も基本的には本質は同じなんです。

例えばコンプライアンスの世界ではクラシック事例といっていいのが雪印乳業(※1)です。あの事件は、いま同じようなタイプの事件が起こったとしても全く不思議はないんです。上司への報告が遅延することが自分の責任なのかを考えた時に、自分の責任ではないとしてしまうような話です。

これも今年の話ではありませんが、昨年の日野自動車の事件も同じようなメカニズムです。

※1 2000年6月に関西を中心に発生した、旧雪印乳業製の乳製品による集団食中毒事件。被害者数(有症者数)は約1万4780人にも上り、国内では戦後最大規模の集団食中毒事件に

ある特定の状況になれば、人間のやることは結局、同じになる。

角渕:最近、”教科書”として見直しているのは本当に古い話なんです。7万人以上の死者を出し“史上最悪の作戦”とも呼ばれるインパール作戦(※3)と、大胆過ぎるデータ改ざんを行った日野自動車の事件(※2)。2つは80年近い時間差があるものの、非常によく似ています。

どちらも根底にあるのは、「できないとわかっているけど、やれないとは言えない」ということです。
作戦を考える人やその実現をどうするかを考える人たちからみると、「とてもじゃないけど、これはできない。だけどやらなきゃいけない」。そういう状況下で、上の人がやれと言ったら、やれることにしてしまう。しかし、結局やりきれなかった…。

その結果、インパール作戦の場合は大勢の人が死にました。日野自動車のケースでは最終的にはごまかすという方法で対応しなければいけなかった…。

※2 1944年、当時イギリス領だったインド帝国のインパールを攻略しようとした日本軍の作戦
※3 エンジン認証に関する不正行為。同社が2022年3月に公表した。

無理でもやるしかない。その結果が、企業では不正という形で表出した。

新井:ジャニーズに戻りますが、あの問題は相当前から蔓延し、多くの人が知っていた。ところが、実態として世の中に出てくるまでにこれだけの時間がかかってしまった…。

小説の「コインロッカーベイビーズ」ではシステムに抗い、破壊する意思が大きなテーマになっていました。あの本が一世を風靡した1980年から、ある意味で警鐘はならされていたにもかかわらずです。

角渕さんのお話にもありましたが、人間は大きな重しみたいなものを設定されてしまうとそれに抗えない…。例えば戦争だったり、あとナチスドイツですね。反抗などとうてい許されない組織のムードが醸成される。

いまの時代にあてはめても、なんらかの圧によって組織に押し込められると、もう抗えなくなる。たとえその状況が自分たちにとって不利益な環境であっても、そこでなんとか生き延びようとする。

しかし、そうした行為そのものがコンプライアンス上の大きな問題を招きかねません。そういう状況にある企業はいま、第二、第三のジャニーズおよびビッグモーター、宝塚予備軍といえ、かなり危うい状況にあるといえるのではないでしょうか。

#2へ続く

【プロフィール】

新井健一
経営コンサルタント、アジア・ひと・しくみ研究所代表取締役 早稲田大学卒業後、大手重機械メーカー人事部、アーサーアンダーセン(現KPMG)、ビジネススクールの責任者・専任講師を経て独立。人事分野において、経営戦略から経営管理、人事制度から社員の能力開発/行動変容に至るまでを一貫してデザインすることのできる専門家。著書は『働かない技術』『いらない課長、すごい課長』(日経BP 日本経済新聞出版)など多数。

一松亮太
経営コンサルタント、株式会社KakeruHR代表取締役。大手生命保険会社、銀行系シンクタンク、教育系スタートアップを経て独立。現在は、業務プロセス構築、人事制度構築等のコンサルティングに従事。その他、企業向けの研修講師として多数登壇。

角渕渉
経営コンサルタント・産業カウンセラー/アクアナレッジファクトリ株式会社代表 ソフトウェアハウス、国内系コンサル会社を経て、大手監査法人グループのKPMG あずさビジネススクールで講師をつとめる。2007年にアクアナレッジファクトリを設立。「確かな基礎力に裏打ちされた『変化に柔軟に適応できる人材』の育成」をテーマに、各種ビジネススキル教育、マネジメント教育の研修講師として活躍中。

二野瀬修司
経営コンサルタント、株式会社ウィズインテグリティ代表。大手都市銀行、人材育成・組織開発を専門とする企業を経て独立。現在は、ファイナンスや人事制度構築等のコンサルティングに従事する他、企業向けの研修講師として多数登壇。

書籍画像

それでも、「普通の会社員」はいちばん強い 40歳からのキャリアをどう生きるか

新井健一
日経BP 日本経済新聞出版

「――まず、本書の結論から述べておく。日本企業の会社員は最強だ。

それは、VUCAの時代、AIが人類から仕事を奪うと言われるこの時代においても変わらない。

むしろ、今後ますます日本人、日本企業の会社員はよき働き手として重宝されるだろう。
本書ではこのことを徹底的に検証していく。」(本書の内容より)

これから、日本企業の会社員が磨くべき、2割の「+α」とは?
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