検知器による「アルコールチェック義務化」…プロドライバーへの「規制強化」で飲酒運転は “ゼロ”に近づくか

弁護士JP編集部

弁護士JP編集部

検知器による「アルコールチェック義務化」…プロドライバーへの「規制強化」で飲酒運転は “ゼロ”に近づくか
飲酒運転根絶には「アルコール検知器だけでは甘い」という声も(show999 / PIXTA)

2023年12月1日からアルコール検知器によるチェックが義務化される。対象は、乗車定員が11人以上の自動車を1台以上、白ナンバー車(自家用車)を5台以上保有し、道交法で「安全運転管理者選任事業所」として規定されている事業所をもつ企業や団体。一般ドライバーは対象外だが、飲酒運転撲滅にどれだけの効果が期待できるのか…。

規制の強化による “効果”への期待は?

今回の飲酒運転に対する規制強化について、交通事故で多数の相談実績がある伊藤 雄亮弁護士はその背景を次のように解説する。

「21年に千葉で発生した、児童5人をはねて死傷させた飲酒運転事故が契機になっています。事故を起こした車が白ナンバー車だったことから、それまでの適用範囲から拡大された形です」。

こうした『飲酒運転に対する規制』は、痛ましい飲酒運転事故が発生するたびに強化されている。果たして、今回の措置はどの程度の効果が期待できるのか。

伊藤弁護士は、「1件でも事故が減少することに大きな意味があることは言うまでもありません。しかし、統計上目に見えて事故が減少する効果まであるのかは、現時点では何とも言えませんね」とあくまで冷静だ。

この発言を裏付けるデータがある。警視庁が毎年発表する、飲酒運転による、事業者用自動車の交通事故の統計だ。今回が「適用範囲の拡大」であるように、アルコール検知器の義務化は、トラックやバス、タクシーなどの運送業や旅客運送業業務用車両、いわゆる緑ナンバー向けに12年前の2011年5月から導入されている。その推移をみれば”ある程度の”効果”は予測できる。

統計的には”成果”は微妙だ(出典:警察庁「交通統計」 (公財)交通事故総合分析センター「事業用自動車の交通事故統計」)

統計によると、導入初年度となった2012年(H24年)が46件(表中黒線部分)、その後、毎年50件前後を推移し、2022年は37件だった。抑制できているともいえるが、「撲滅」を目標とするには、なんとも心もとない結果だ。国土交通省も「根絶に向け、引き続き飲酒運転を未然に防止するためのルール作り等の取り組みが必要」と結果を真摯に受け止めている。

ドライバーの “モラル”が最終的な飲酒運転防止策に

飲酒運転根絶には、「アルコール検知器だけでは甘い」という声もある。

過去には、アルコール・インターロック装置の活用が、警察庁や国道交通省主導で検討されたこともある。同装置は、車両に固定し、飲酒を検知するとエンジンを停止するもので、いわば飲酒運転強制阻止装置だ。欧州やカナダ、オーストラリアの一部では、同装置の設置を飲酒運転違反者の免停処分の代替措置として制度化もされている。

日本ではコンプライアンス遵守の観点から、一部企業が自主的に導入している状況だが、昨年は白ナンバー車への検知器義務化により、出荷台数が大幅に増加。アルコール検知システム等を開発・販売する東海電子株式会社(本社:静岡県富士市)によれば、この5年では最多となる249台を出荷したという。

今後、テクノロジーによる強制的な飲酒運転ストップやその法制化に期待もかかるところだが、やはり最後はモラルに行き着く。前出の伊藤弁護士は語気を強める。「厳しい言い方をすれば、すでに『飲酒運転はダメ』ということが幅広く周知されている。にもかかわらず、飲酒運転による悲惨な事故は未だになくなっていません。このことを踏まえると、今回のさらなる厳罰化でも、安全運転意識が変わるかどうかは何とも言えません」。

<飲んだら乗るな 乗るなら飲むな>。これはかつて一世を風靡したビールメーカーのCM内メッセージだが、ハンドルを握る者全員がこの意識を持たない限り、飲酒運転根絶への道は険しいだろう。

  • この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。

編集部からのお願い

情報提供をお待ちしております

この記事をシェア