『死刑囚表現展2023』が開催 植松聖死刑囚ら283点の作品が展示

弁護士JP編集部

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『死刑囚表現展2023』が開催 植松聖死刑囚ら283点の作品が展示
「愛(なんでも溶かす薬)」(画:藤井政安〈東京拘置所〉)

この感性や色彩感覚はどこから生まれてくるのか。作品群を見た時の印象をひと言で表現することはとても難しく、正直に言えば作品自体に感想を持つことにも若干のためらいがある。ただ、それらはどのような形であれ、心の深層部が揺さぶられることは間違いない。

日本国内の拘置所に収監されている死刑囚(確定・未決問わず)によって創作された、文芸・絵画作品の公募展覧会『死刑囚表現展2023』が11月3日(金)から開催される。

今年で19回目を迎える展示会。死刑囚の公募作品は選考委員による選考会を経て、アイデア賞、特別賞といった各賞は決められ、全作品が展示される。今回、その出展作品の一部を講評とともに紹介したい。

詩歌、絵画、イラスト、立体作品などバラエティーに富んだ作品群が並ぶ。応募本数に制限はないため、数多くの作品を送ってくる応募者もいるという。秋葉原無差別殺傷事件の実行犯・加藤智大元死刑囚もそのひとりであったが、昨年7月26日に刑が執行され2022年の応募作品が遺作となった。

変わり種の出展作品も

今年の応募者は文芸部門13人、絵画部門15人(※両部門へ重複している応募者含)。10月9日、表現展に先立ち公募作品の選考委員による講評が行われた。選考委員は彫刻家・小田原のどか氏、精神科医・香山リカ氏、アートディレクター・北川フラム氏など6名。

ちなみに選考委員の批評は辛辣(しんらつ)なものも含めすべて応募者に送られ、めげて翌年から応募を取りやめる者もいれば、きちんと受け止めて作風が変わっていく死刑囚もいるとのことだ。

『参 無理心中』植松聖(東京拘置所)
『伍 死刑制度』植松聖(東京拘置所)

「バランスが良くて、すごく力のある人」と北川氏が評したのは、昨年に続いて3回目の応募となった植松聖死刑囚(相模原障害者施設殺傷事件)の5点の作品。

昨年は、文章作品に対しては「こういう差別用語的なものを平気で、平気かどうかはわかりませんけれども使っていることに、私は彼の作品に関しては、絵は別として、文章としては全然だめだと思う」(文芸評論家 川村湊氏)と厳しく評されたが、今作品群は、小田原氏も「わっと書いたように見えるんですけど、全くそうではなくて、とても構造的に書いていらっしゃる」と評価している。

『命―弐〇弐参の壱』風間博子(東京拘置所)

冤罪を主張している風間博子死刑囚(埼玉愛犬家連続殺人事件)の作品は毎回評価が高い。

今回も「ストレートというか直球で良いなと思う」(政治学者・作家 栗原康氏)「完成度の高い作品の中で表現するということをご自分も多分楽しんでチャレンジしている」という評価の一方、「風間さんの絵には、言葉で理解されるような共通性に寄り添ってものをいうということに対して抵抗がある」(北川氏)という意見もあった。

『自画像』金川一(福岡拘置所)
『いそっぷどうわにでてくるうさぎ』金川一(福岡拘置所)

第1回から応募を続けている金川一死刑囚(熊本主婦殺人事件)の自画像や「ウサギとカメ」をモチーフとした絵作品は、「連作で見ることに見どころがたくさんある」(小田原氏)と評されている。

『日本の花・大相撲(力士取り組み《右上手投げ》)』井上孝紘(福岡拘置所)
『手作りタトゥーマシーン・手彫り用ノミの作り方』 ① 井上孝紘(福岡拘置所)
『手作りタトゥーマシーン・手彫り用ノミの作り方』 ② 井上孝紘(福岡拘置所)
『手作りタトゥーマシーン・手彫り用ノミの作り方』 ③ 井上孝紘(福岡拘置所)
『手作りタトゥーマシーン・手彫り用ノミの作り方』 ④ 井上孝紘(福岡拘置所)
『手作りタトゥーマシーン』完成品

運営委員会に作成を依頼、設計図が寄せられたという変わり種が井上孝紘死刑囚(旧姓:北村 大牟田4人殺害事件)の作品のひとつタトゥーマシンだ。運営委員のひとりが、三日間をかけて設計図にある指定のものを発注し、作り上げたという。

『村の郵便局・役場』猪熊武夫(東京拘置所)

猪熊武夫死刑囚(山中湖連続殺人事件)の絵も、独特のトーンが印象的だ。「作風が一貫していて、表現したいことがはっきりしている」(小田原氏)。

「同じ人間であるということを認識することができる」

死刑囚の存在は、同時に事件に巻き込まれた被害者、その遺族の方々のことにも思いがおよぶこととなる。表現展開催については、SNSなどでしばしば議論が巻き起こる。

「表現展で提出された来場者のアンケートの中で、「死刑はなくてはいけない」といった内容を書く人たちはやはり一定数いらっしゃいます。(SNSなどで)そういった議論があることも理解できます。ただ、これだけが生きがいであるという死刑囚が何人もいます。

一生懸命文字や絵の創作に向き合うことによって、自分の人生や事件をいま一度とらえ返す機会にもなっている。だからといって簡単に反省するということではないのですが、彼ら、彼女らの作品に外側の人たちが触れることによって、同じ人間であるということを認識することができる。それだけでも意味があると思っています」

表現展の運営会の深田卓さんは開催の意義について話す。会場で回収したアンケートの内容、マスコミの取り上げたニュース、批判も含めた反響については前出の批評同様、応募した死刑囚にすべて伝えるようにしているという。表現展の作品は、死刑囚がいる閉ざされた空間と“外”をつなぐ唯一と言って良いコミュニケーションツールともなり得ているのではないだろうか。

「私は死刑制度には賛成ですが、毎年ここへは来ています」

昨年(2022年)の総来場者数は2485人と、コロナ禍の最中にも関わらずその前年(900人)から比較して3倍弱に増えた。SNSでの発信などもあり、若年層の来場も増え、「そういった広がりは良かった」と前出の深田さんも毎年大きくなる反響を感じているという。幅広い年齢層が、実際に会場に赴き、それぞれの感想を残していく(以下 『死刑囚表現展2022』来場者アンケートの一部より抜粋 ※原文ママ)

『死にたくないという想いは、普通の人々と同じで、死刑囚の方々も思っているのだと感じた。悲惨な事件が起きた時、その事実だけに反応し、なぜそのようなことが起こってしまったかを考えない人がほとんど。他人事ではない。声を上げることすらできない人が社会にはたくさんいる。それは普通に街を歩いていては気付くことができないこと。ただ、自分の家族が殺されたら、死刑をのぞむかもしれない。とても難しい問題』(20代)

『全作品に感銘と感動しました。才能あるのに間違ったのですね』(70代)

『殺された人を無視して、静かな環境で絵を描いたりすることの違和感をとても感じる。きっと充実している時間を持っているのだろう。殺された人にはその時間はないのに。粛々と刑の執行を望みます』(50代)

『死刑囚それぞれの絵を見て、とても不安定な気持ちになりました。罪への意識は、根底ではそう感じていないのではと感じられることもあり、複雑な感情です。見る機会がありよかったです』(30代)

『もう何度か足を運んでいます。私は死刑制度には賛成ですが、毎年ここへは来ています。賛成派でも反対派でも、定期的にこういう場に足を運び色々考えることに意義があると思っています』(40代)

『価値観が少し変化した。素晴らしい才能と、その裏にある狂気。しかし何を持って“狂気”を定義するのか考えさせられた。私は高校教師をしている。とても考えさせられた』(30代)

『死刑囚表現展2023』は、11月5日(日)まで開催される(入場無料)。

死刑囚表現展2023
主催:死刑廃止のための大道寺幸子・赤堀政夫基金
共催:死刑廃止国際条約の批准を求めるFORUM90
【会場】
松本治一郎記念会館5階会議室(東京都中央区入船1‐7‐1 ※エレベーターで5階に上がる)
【開催日時】
11月3日(金)13:00~19:00
11月4日(土)11:00~17:30
11月5日(日)11:00~17:00
※小田原のどか(死刑囚表現展選考委員)ギャラリートーク 11月4日(土)18:00~

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