「残り人生あと何周?」 加藤智大元死刑囚が“最後”に望んだもの

弁護士JP編集部

弁護士JP編集部

「残り人生あと何周?」  加藤智大元死刑囚が“最後”に望んだもの
『死刑囚表現展』を運営する太田昌国さん(8月18日 永田町/弁護士JP編集部)

7月26日、東京・秋葉原で7人が殺害された無差別殺傷事件(2008年)で、2015年に死刑が確定していた加藤智大死刑囚の死刑が、東京拘置所で執行された。岸田内閣が発足、古川禎久法務大臣(当時)が就任後、昨年12月に3人の執行に続いて4人目となった。

日本弁護士連合会(日弁連)が「悲惨な体験をした犯罪被害者・遺族に対する十分な支援を行うことは、社会全体の責務」としながら、死刑執行に強く抗議、各団体も声明を公表するなど、死刑制度そのものに反対する声が上がった。

8月18日にも、「古川禎久法相による死刑執行に抗議する集会」が東京都内で開かれた。2005年以降開催されている「死刑囚表現展※」も支援する、「死刑廃止国際条約の批准を求めるフォーラム90」などが主催したもの。安田好弘弁護士(フォーラム90)をはじめ、精神科医の香山リカさんや評論家の太田昌国さん、作家の雨宮処凛さんらが出席し、会全体で抗議の意を表明するとともに、死刑執行の意味などについても発言がなされた。

※死刑確定者による作品展覧会

「ちょっと見たことがない“目”が印象的だった」

安田弁護士は今回の死刑執行について、「国家によるあからさまな「処刑」であり、極めて恣意(しい)的である」と主張。合理的な問題として、①職員による執行(上司の命令に部下が従った)②2回目の再審請求中であった ③執行について事前告知がない(非人道的) 点などをあげて強く批判した。

幼少期から母親による虐待を受け、事件発生当時(2008年)は派遣労働者として職を点々としていた加藤元死刑囚。集会では、犯行の遠因にもなったとされる「格差と貧困」による社会からの孤立に関しても語られた。

事件当初から加藤元死刑囚の裁判を傍聴していた作家の雨宮処凛さんは、当時「不安定雇用」問題を取材していた。「典型的な『ロスジェネ』」(雨宮さん)が起こした犯行であるが、その根本定的な問題は今も変わらないどころか、ますます深刻化しているのではないかと話した。

大阪クリニック放火殺人事件や京王線刺傷事件(ジョーカー事件)など、孤立と貧困が遠因とされる「死刑になりたい」事件(拡大自殺)が近年目立つ状況も指摘。雨宮さんの元には加藤元死刑囚と同世代の人々から、自殺を仄(ほの)めかしたり、「拡大自殺」に類する事件を起こしたい旨の内容が書かれた、「かなり自暴自棄」のSOSメールが届いているという。

裁判で見た加藤元死刑囚の印象、死刑執行について次のように語った。

「彼は必ず傍聴席に対して深々とおじぎをしていたたが、感情の読めない、ちょっと見たことがない「目」が印象的だった。ただ、(そんな印象も)変わる可能性があったのに、(執行により)絶たれてしまった」(雨宮さん)

雨宮さんは「(事件の遠因ともされた)非正規雇用の問題は悪化している」と話した(8月18日永田町/弁護士JP編集部)

「屈折」からの「変化」も見られたが…

加藤元死刑囚は2015年以来、「死刑囚表現展」へ絵画や文章など出展作品の応募を続けていた。

それら作品を通じて関わりがあったのが元選考委員で精神科医の香山リカさん。秋葉原殺傷事件以降、攻撃を自分自身ではなく、他者も巻き込んで行う「拡大自殺」がクローズアップされてきた背景を説明。これら(「拡大自殺」願望)の傾向は、香山さんの診察室を訪れる人々からも見受けられると話した。

加藤元死刑囚の「死刑囚表現展」への応募作品も当初の屈折したものから、内面を吐露して事件を捉えなおそうとする姿勢や連帯を感じさせる変化が見られたという。本当の意味で『罪の意識』を持つのか、拡大自殺を防ぐ大きなヒントが彼の中にあり、これを知る貴重な機会を逸してしまったとも語った。

「(死刑執行は)『かわいそう』というレベルでなく、『損失』なのではないか。変化が訪れていたにも関わらず突然の中断にはショックを受けた。残念で怒りを感じる」(香山さん)。

診療所からオンラインで参加した香山さん(8月18日 永田町/弁護士JP編集部)

「人生ファイナルラップ」

2008年から死刑囚表現展を運営する太田昌国さん(死刑廃止のための大道寺幸子展赤堀正夫基金運営委員会)も、近年の作品では、他者を拒絶してきた加藤元死刑囚が自分の思いを吐露、連帯の意志表示が見えたと話した。

以下は2018年の応募作、「人生ファイナルラップ」と題されたラップ調の詩の一部である。

母の夢は絵に描いた餅
京大は俺には無理な口
押しつけられたスタート位置
~中略~
残り人生あと何周?
不満はない安い月収
気にしていない顔の美醜
望んだのは居場所の補修
路面蹴とばすリアタイヤ
漂流(ドリフト)してたら溝ないや
きついカーブで上げたギア
判断ミスの狭い視野
このクラッシュかなりデンジャー
~中略~
首に食い込む錆びたワイヤー
迎えられないニューイヤー
後はよろしく葬儀屋
~後略~

加藤元死刑囚がこれまで応募し出展された「作品」が紹介された(8月18日 永田町/弁護士JP編集部)

加藤元死刑囚の“希望”

今年(2022年)、フォーラム90が福島みずほ議員(社会民主党)とともに確定死刑囚へのアンケートを実施、加藤元死刑囚からも返信があった(3月23日)。

【事前告知がよいか どのくらい前が望ましいか】という質問に、「言葉による『告知』は不要です。私は、いわゆる『ラストミール』を希望します」と答えている。

現在の死刑確定者は106人(8月26日現在※執行停止中も含)。その中から応募があった文芸作品や絵画作品を展示する、『死刑囚表現展2022』は10月に行われる予定だ。執行前、加藤元死刑囚も「唯一と言っていい生きがい」(アンケートの返信より)として作品を応募している。

  • この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。

編集部からのお願い

情報提供をお待ちしております

この記事をシェア