トラブル多発の「国際ロマンス詐欺」事案対応…「被害者代理人」の交渉現場に透けた “お粗末な”仕事ぶり

弁護士JP編集部

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トラブル多発の「国際ロマンス詐欺」事案対応…「被害者代理人」の交渉現場に透けた “お粗末な”仕事ぶり
被害回復が難しいとされるロマンス詐欺。だからといって、強引な交渉が許されるはずはない(nonpii / PIXTA)

国際ロマンス詐欺の被害回復に関するネット広告の内容に問題があるとして、大友道明弁護士(75)が所属の千葉県弁護士会所属から懲戒処分に向けた手続きを進められている。そうした中、弁護士JP編集部はある法律事務所のロマンス詐欺事案交渉時の録音データを独自入手。その内容は、事務所スタッフの慇懃無礼な対応であり、トラブルと紙一重といえる過度な決めつけによる圧迫系交渉となっている。

自信満々な文言で依頼者の期待を膨らませるネット広告

大友弁護士が問題視されたのは、「ご準備いただくものはございません。すべてお任せいただければ丸っと解決します」「全国から詐欺被害を撲滅いたします」「当事務所で駄目なら諦めください!」といった広告文言。同事務所に依頼すれば、あたかも詐欺被害を回復してもらえると信じかねない、自信満々の訴求内容だ。

もちろん、これらはそれ自体が景品表示法の「優良誤認表示」であり、弁護士職務基本規程、広告規程の禁止事項にあたる。加えて、詐欺被害者からも実際に苦情が多数あるといい、放置すればさらなる被害拡大につながりかねないーー。千葉県弁護士会はそう判断し、同事務所大友弁護士の懲戒請求の手続きに入った。

音声データでわかった「詐欺被害回復」の実態

では、実際のロマンス詐欺事案の弁護活動はどうなのか。弁護士JP編集部は別の法律事務所Aの事務員が、詐欺を働いたとされる女性と交渉する様子の音声データを独自に入手。その内容は、女性が困惑するほど強引なもので、「丸っと解決」とはほど遠い実態だ。

録音データに登場する女性はマッチングアプリのパパ活で相手をだましたとされる人物。男性はロマンス詐欺事案を請け負う、被害男性から依頼を受けた懲戒請求を受けている事務所Aのスタッフだ。以下に音声内容の一部を再現する。

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事務所スタッフ:(依頼者の)〇〇さまから聞いている話では、あなたが「2人の記念日を祝ってもらえないなら死にます」と言って金銭を受け取っていると。「死ぬ」は脅迫にあたり、いま、あなたは詐欺を行っている状況です。

女性:(物品のお願いを)強制だって捉えるなら欲しくないよ、と私は相手には言いました。

事務所スタッフ:そういったことを伝えていても、「死ぬ」というのは脅迫ととられる可能性がかなり高いです。相手から金銭を受け取ると◆◆さん(女性)自身も危険なんです。依頼者の男性は受け取ったものを返金してほしいと。そうすればこちらも銀行口座の凍結等はしません。

女性:代金については「強制だったらいらないよ」とはじめから伝えています。購入した品物を返品したのは、実際にお金だけもらって商品を買わないんじゃないかって疑われると思ったので。だから現金でなく商品を返品しますと。

事務所スタッフ:〇〇さまは(品物の)売却は望んでなかった。代金として渡しているので、渡したお金を返してほしいと。

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音声のやりとりは5分ほどだが、こうした内容が繰り返され、事務所スタッフが女性を詐欺犯と決めつけ、それに対して女性は相手男性との発言の文脈や経緯を説明しながら、解釈の違いを冷静に主張する展開となっている。

女性が被害者とされる男性に対して発した言葉自体は虚偽ではないようだが、事務員はその言葉だけを突破口に、女性の行為が詐欺にあたると詰め続ける。客観的にみても、圧迫系でやや強引であり、交渉相手への配慮や戦略性を著しく欠く内容だ。これらのやり取りについて、果たして法律的な問題などはないのだろうか。国際ロマンス詐欺に関する相談にも対応するM弁護士に話を聞いた。

音源を聞いた弁護士は「違法な交渉の可能性が極めて高い」と断罪

ロマンス詐欺の被害回復は難しいとされています。このような決めつけ型の交渉は有効といえるのですか。

M弁護士:ロマンス詐欺についてはそもそも詐欺を行っている主犯者までの特定が難しいと思います。振込先の預金口座の名義人に対する交渉では、決めつけ交渉が成功するケースも否定できないと思います。

事務員の言葉には脅しているようにも聞こえる言葉もあります。適切といえるのでしょうか。

M弁護士:少なくともこのケースであれば、女性の言い分にもそれ相応の言い分があると思います。男性事務員のいうような断定的な表現はできるはずがありません。

録音の音声を聞く限り、この事務所は依頼者からの情報をうのみにして、裏付けとなる証拠を精査せずに、口座凍結に踏み切ったものと思われます。このように、弁護士名義での口座凍結申請は直ちに凍結されることに着目して、よく精査せず口座凍結を行って、断定的口調や脅迫的口調を使って、大量に事件を処理するやり方をしており、悪質だと思います。

ロマンス詐欺に限らず、だまされた側にすれば、弁護士に依頼して解決を委ねることは最終手段ともいえる。そんな思いを踏みにじるようなお粗末な実態であり、下手をすれば、“冤罪(えんざい)”をも生みかねない…。

一部の悪徳業者による愚行だが、こうした実態もあることを念頭に、耳障りのいい広告等に惑わされず、より慎重に相談先を選定し、少しでもいい解決を手繰り寄せてほしい。

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