「プレゼント」が届かない…フジテレビで発送先情報“紛失”騒動「個人情報」管理に問題はなかった?

中原 慶一

中原 慶一

「プレゼント」が届かない…フジテレビで発送先情報“紛失”騒動「個人情報」管理に問題はなかった?
応募者の個人情報「漏えい」は一切なかったという(白熊 / PIXTA)

テレビアニメ『ちびまる子ちゃん』が2022年に実施した企画で、プレゼントが発送されていなかった件について、先月フジテレビが経緯を説明、謝罪をした。

公式サイトによれば、「当番組の俳句企画と大喜利企画で、昨年6月から12月に作品が紹介された皆様へお詫びとお願い」として、番組で紹介した29作品について、

「個人情報保護のために使用している募集システムの設定不具合により、応募された方々のお名前やご住所等の情報が自動消去されていたことが判明し、作品が採用された一部の方にプレゼントをお送りできない状態となっています」と説明している。

同時に、改めて採用作品を掲載し、住所や連絡先を入力してもらうよう呼びかけている。夕刊紙記者はこう話す。

「フジテレビは今回の件で、個人情報の流出はなかったとしたとして、再発防止を徹底するとしていますが、個人情報管理のずさんさは言うまでもありません。しかし、これを報じたニュースのコメント欄には、『自分も他のラジオやテレビ、懸賞に応募して当選者として発表されたにもかかわらず、いまだに賞品がとどかない』といった例も複数書き込まれおり、案外こうしたケースは多いのではないかと思います」

個人情報消失・流出の際に企業のとるべき対応

今回のケースは、「システムの不具合で応募者の情報が消えた」というミスだが、個人情報の管理について、企業法務にも注力する三島広大弁護士はこう話す。

「『個人情報』を事業に用いている企業等を『個人情報取扱事業者』といいますが、その取り扱い方法等は個人情報保護法で細かく規定されています。今回のケースのように個人情報が消えてしまったり、あるいは流出してしまったりした場合のとるべき対応も定められています」

具体的には、個人情報を紛失してしまった際に、個人情報保護委員会とその個人に報告する義務があるケースは以下の四つだと言う。

①個人の人種、信条、病歴、前科などのセンシティブな個人情報である「要配慮個人情報」を漏えい、滅失、毀損(併せて「漏えい等」)したおそれがある場合

②クレジットカードの番号、キャッシュカードの暗証番号、通販サイトのログイン情報などのように、不正に利用されると財産的な被害が生じるおそれのある個人情報の漏えい等したおそれがある場合

③ハッキングのような不正アクセスなどによって個人情報が漏えい等したおそれのある場合

④1000人以上の個人情報が漏えい等したおそれがある場合

2020年には、楽天、楽天カード、楽天Edyの営業管理用サーバーが不正アクセスを受け、保管していた個人情報など最大148万6291件が流出した可能性があると発表された事件もあった。

こうした個人情報の管理の眼目は何か。三島弁護士が続ける。

「漏えい防止の観点からは、個人情報と外部のネットワークを遮断する、従業員による社外への持ち出しを禁止する等の措置が有効と思われますが、その方法も絶対ではありません。また個人情報の滅失、毀損については、特にデータとして保管する場合にはシステムの不具合のリスクがおのずから内在するものですし、バックアップをとると逆に漏えいするリスクは高まってしまうため、すべて防ぎきることは現実的には困難かと思います」

現在、マイナンバーカードの情報流出なども問題となっているが、個人情報取扱事業者にとって個人情報保護の問題は常につきまとう。

「昨今はSNSや通販サイトを通じ、容易かつ大量に個人情報を収集できてしまう。事業拡大やこれからネットを用いて事業を始めようとする方は、十分な管理体制の整備も必須となるでしょう。法的に報告義務が発生する場合は当然ですが、報告義務のない漏えい等であったとしても、個人情報が漏えい、滅失等してしまった場合には、いかに迅速に原因を究明し、漏えい等してしまった個人や社会への説明ができるかによって、企業としての評価が大きく左右されるのではないでしょうか」(三島弁護士)

そうした意味では今回のフジテレビの対応は、企業のリスク管理としては正解と見ることもできる。

個人情報漏えいを防ぎきることは現実的には困難だが…(Tomo-B / PIXTA)

プレゼント未発送は「詐欺罪」成立の可能性も!?

一方、「プレゼント発送」をめぐっては、かつては個人情報の紛失以前の悪質な事例も発覚している。プレゼント当選者数の水増しや、そもそも発送していなかったケースがそれだ。

秋田書店は、2013年に2010年5月から12年4月までの発売された月刊漫画誌で、読者プレゼントの当選者数の水増しが内部告発により発覚。また、2020年には晋遊舎で2016年以降に発売された『まちがいさがしフレンズ』などの雑誌プレゼントや複数誌にまたがるキャンペーンにおいて、プレゼントが未発送であったことが明らかになった。三島弁護士が続ける。

「両社はいずれも景品表示法により禁止されている“有利誤認表示”(一般消費者が、実際よりも有利な取引条件であると誤認する表示)や、“優良誤認表示”(一般消費者が、実際よりも優良な商品、サービスであると誤認する表示)を行ったとして措置命令が出されていますが、これらの表示を行ったこと自体は、景品表示法上何らかの罪に問われることはありません。

ただし、祭りのくじ引きの屋台などと同じように、あるプレゼントがもらえることがその雑誌等を買う主要な動機であるような場合で、実際にはそのプレゼントは誰にも送らないというような場合には、購入費用をだまし取ったことになり、詐欺罪が成立する可能性はあるかと思います」

しかし、「中小出版社ではこうしたケースはよくあるのではないか」と言うのは、元中堅出版社の社員。

「かつて男性誌や実話誌のプレゼントページでは、『当選者は発送をもって代えさせていただきます』としている場合、そもそも賞品などは存在せず、紙面に写真だけ掲載発送しないことがほとんどでした。秋田書店や晋遊舎のニュースを見て、どこも似たりよったりなんだなと思いましたよ。ただし、SNSが発達し、内部告発なども容易になった今は状況が変わっているかも知れません」

こうした事態について、三島弁護士は警鐘を鳴らしている。

「発送するとうたった通りに商品を発送すべきであることは当然ですが、その商品の内容や取引先の経営状況など、どうしようもない周辺事情によって発送できないこともあり得ます。消費者庁が発表する景品表示法に基づく措置命令の内容を見てみると、プレゼントの発送がされていなかったことそれ自体というより、発送するとうたっていた個数と実際に発送した個数の差異や、発送していなかった期間などが考慮されているようにも読み取れます。

プレゼントを発送できるか否かは、遅くとも発送期限頃には社内で明らかになるわけですから、発送できないという状況をいかに放置せず、真摯(しんし)に説明するかが、措置命令を受けるか、そして消費者からの信頼という意味でも重要です」

確かにこうした事態が表沙汰になれば、企業のイメージはガタ落ち。信頼は一気に失うだろう。

「特に、措置命令は社名を明らかにして発表、報道され、また複数の日刊紙に不当表示を行っていたこと等を掲載しなければならず、表示内容と実態がどれほど異なっていたかも明らかにされてしまうため、発送できていなかったことに悪気がなく、単なるミスだったとしても、取引先や消費者に与える悪印象は絶大です。説明しないまま措置命令を受け、隠蔽(いんぺい)していたなどと思われることのないような対応が重要かと思います」(三島弁護士)

  • この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。

編集部からのお願い

情報提供をお待ちしております

この記事をシェア