自転車の「ベル」鳴らされ歩行者男性“ブチギレ”動画に賛否…“被害”女性「やっかいな人」への対応に問題はない?

中原 慶一

中原 慶一

自転車の「ベル」鳴らされ歩行者男性“ブチギレ”動画に賛否…“被害”女性「やっかいな人」への対応に問題はない?
“被害”を訴えた女性の対応にも賛否はあるようだが…(※写真はイメージ Ryuji / PIXTA)

歩行中、自転車のベルを鳴らされたことに腹を立て、怒鳴りまくる男性の動画がネット上で話題になっている。その女性が6月19日にツイッターにアップした動画によれば、経緯はこうだ。

女性は自転車で子どもを病院に連れて行く途中、狭い通路だったため、歩行者の男性に対し注意喚起のため一度ベルを鳴らした。すると、それにブチ切れた男性に前カゴを掴まれ、大声で怒鳴られる。動画は約2分。顔がはっきりわかるかたちで、初老の男性が女性と口論になり、興奮して怒鳴り散らす様子が公開されている。

「ちょっとどいてくださいって言えよ!」

女性「どけどけじゃなくて、普通に通りますよということで鳴らしただけじゃないですか!」
男性「じゃあ通りますって言やあいいじゃん。声出して。違うかあ! オイ、それで●#$%&×!(判別不能)」
女性「どう喝ですか、それ? 脅しですか? 子どもの前でそんなこと言わないでもらえます?」
男性「だからさあ、なんで声出さねえんだよ。ちょっとどいてくださいって言えよ!」
 ※ここで子どもが泣き出す声が入る
女性「どうしてくれるんですか! 泣いちゃったじゃないですか!」
男性「早く呼べよ、警察を。バカ!」
女性「泣いちゃったじゃないですか。どうしてくれるんですか。この子まだ2歳ですよ」
男性「(一瞬ひるんだ表情を見せつつも)それがどうした!」
女性「2歳で、大の大人から、どう喝を受け、この子の精神に関わったらどうするんですか!」
男性「だから警察を呼べって言うんだよ」
女性「ええ、呼びますよ。呼ばしてもらいますよ」

その後、女性は近くにいる人に「すいません、助けてもらってもいいですか。この人に言いがかりをつけられて…」と助けを求め、男性をながめる別の男性の声が入る。

その間も子どもは泣いたままだ。ただならぬ様子に、立ち止まる人も写りこんでいる。そこで動画は終わる。

動画をアップした女性のツイッターの本文部分には、〈自転車のベルを一度流しただけで切れる キ*** 目をご覧ください 本物です 皆さん 近寄らないようにしましょうね〉とある。

このトラブル、最終的には通行人や警察の仲介を経て親子ともに無事だったようだと報じられているが、小さな子どもを病院へ連れていこうと急いでいたところ、トラブルとなった母親の恐怖心は想像に難くない。

「自転車側にも非があった」のかは慎重な判断が必要

その一方、SNS上には、ベルを鳴らす行為やスマホで撮った動画で相手の顔を晒(さら)す行為に対し、母親にも非があるのではないかとする意見も散見されている。

自転車のベルの取り扱いについては、道路交通法第54条第2項に規定がある。

『車両等の運転者は、法令の規定により警音器を鳴らさなければならないこととされている場合を除き、警音器を鳴らしてはならない。ただし、危険を防止するためやむを得ないときは、この限りでない』

母親は「狭い通路だったため歩行者の男性に対し注意喚起のため一度ベルを鳴らした」としているが、この母親の行為は、本当に“危険を防止するためやむを得ない”状態で行われたものだったのか。

交通事故などのトラブル(特に被害者側)に注力している伊藤雄亮弁護士はこう話す。

「実際の状況を見た訳ではないので詳細は分かりかねます。状況次第ではありますが、該当する可能性は十分にあり得ると思います」

一方、自転車は車道を通行することが原則だが、このケースでは歩道を走行していた可能性が高いと考えられる。歩道はもちろん「歩行者優先」。そこでベルを鳴らす行為について、母親に非があるのではとする意見も多い。

「その可能性も否定はできませんが、自転車の通行が認められている歩道も多数存在しますので、本当に自転車側に非があったのかどうかは慎重な判断を要します。ただ仮に自転車側に非があったとしても、前カゴをつかみ、子どもが泣いている中で、女性が前に進めない状態にして怒鳴りつける行為は問題でしょう。

身体への直接の暴力はないので傷害罪には該当しないでしょうが、『不法な有形力の行使』として暴行罪(刑法204条)に該当する可能性はあります」(伊藤弁護士)

自転車は車道通行が原則だが歩道通行NGではない(弁護士JP)

やっかいな人は“避けて立ち去る”

さらにトラブルの様子を動画で撮影し、ネット上で公開するという母親の行動にも賛否はあるようだ。伊藤弁護士が続ける。

「投稿の内容にもよりますが、例えば相手のプライバシー権を侵害したものとして、民事上の損害賠償責任を負う可能性がありますし(民法709条)、場合によっては名誉毀損(きそん)罪(刑法230条)が成立する可能性も否定できません。たとえ相手に非があったとしても、その可能性がなくなるわけではありません」

伊藤弁護士は、「SNS等を通じた拡散行為については、かなり慎重になるべきだと思います」と話す。

しかし、どちらに非があったとしても、われわれは、街中で他人と思わぬトラブルになるリスクとは常に背中合わせだ。〈歩きスマホをしていて体が当たったとか当たらなかった〉とか、〈満員電車で押したとか押してない〉とか、さらには〈どちらが先に列に並んでいたか〉などなど…。そうした場合、すぐにトラブルや誤解が解消すればいいが、今回のケースのように、相手が「頑迷で危害を加えてきそうな人物」だった場合、どう対処するのが賢明か。

「理想としては、可能な限り“避けて立ち去る”ことを最優先し、それが難しい緊迫した状況に追い込まれたならば、警察に通報する等の手段に出るべきでしょう。単なる法律上のリスクを回避するのみならず、トラブルから身の安全を守るという観点からも、これが最も望ましい対処法だと思います」(伊藤弁護士)

困った時はやはり警察に通報か。“やっかいな人”との無用のトラブルはできるだけ避けたいものだがーー。

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