ジャニーズ性加害問題「被害者の会」設立も…“次の一手”に立ちはだかる「壁」とは?

中原 慶一

中原 慶一

ジャニーズ性加害問題「被害者の会」設立も…“次の一手”に立ちはだかる「壁」とは?
ジャニーズ事務所による「心のケア相談窓口」は開設されたが…(yu_photo / PIXTA)

ジャニーズ事務所の前社長、ジャニー喜多川氏(2019年没)による「性加害問題」の話題が続いている。

元ジャニーズJr.のカウアン・オカモト氏が、実名&顔出しで告発したことに続いて、平本淳也氏、二本樹顕理氏、吉岡廉氏、橋本康氏、中村一也氏、そして元「忍者」の志賀泰伸氏などの告発が続き、ジャニーズ関連の「#Mee To運動」の勢いは止まるどころか、ますます激しくなりそうな勢いだ。スポーツ紙芸能担当記者はこう話す。

「5月14日に、現社長の藤島ジュリー景子氏の謝罪動画を公開しました。性加害に関しては『あってはならないこと』としながらも、叔父のジャニー氏がやってきたことは、『知らなかった』の一点張りで、責任は回避しています。これがさらに世間の反発を呼び、非難はさらに高まりました」

ジャニーズサイドは、相談窓口の設置については言及したが、プライバシー保護を理由に、第三者による調査委員会の設置は拒否。

しかし、その後、世論の反発を受け、林真琴・前検事総長や精神科医で全国被害者支援ネットワーク理事などを務める飛鳥井望氏などの、外部の3人の専門家による「再発防止特別チーム」を設置すると発表した。

インターネットで集めた署名を各党に提出

そうした中、ジャニーズサイドからのなんら対応がないことに業を煮やした“告発組”の平本淳也氏、二本樹顕理氏、吉岡廉氏の3人は、5月末、「ジャニーズ被害者の会」を結成する意向があることを写真週刊誌「FLASH」で言明。

3人は、6月5日、子どもの性被害を防ぐため児童虐待防止法の改正を求め、インターネットで集めた約3万9000人分の署名を各党に提出。保護者だけでなく保護者以外の大人による性加害も「児童虐待」にあたるとことなどを求めていた。

これを受けて、立憲民主党は改正案を衆議院に提出したが、政府・与党は「児童虐待防止法と今回の事案は性格が異なる」として、今の国会での法改正を見送る方針だと報じられた。今後、「ジャニーズ被害者の会」は、どういう“次の一手”をとりうるのか。

当面の目標は“真相”の究明?

かつて、ジャニーズ事務所と文藝春秋社による、いわゆる「ジャニーズセクハラ裁判」(2004年結審)について、自身のブログで考察したこともある穂積剛弁護士はこう話す。

「被害者の会を設立して何をやるかは、私の方ではわかりかねますが、もしかすると、会社に対して損害賠償請求するということはありうるところだと思います。もっとも、法的には時効の問題が一番の壁になるだろうと予想されますが。被害者の会としては、賛同する被害者を募った上、まずは真相究明を求めるというのが当面の目標になるんじゃないでしょうか」

確かに、本サイトが4月14日に配信した記事【ジャニー氏「性加害」 裁判所が“真実性”認定も…「逮捕」へ至らなかった“ある理由”】でも解説されているように、「強制わいせつ」「強制性交」で刑事告訴しようにも、時間がたちすぎており、被害者の証言だけで、物証がないことが最大のネックになっている。損害賠償請求の際にも同じことが起こるだろう。

「仮に被害者が賠償請求するということになった場合、それが報道されるのが事務所としては一番イヤでしょうから、示談で済ませるということは考えられるでしょう」(穂積弁護士)

ジャニーズ事務所は現在、「告発者が相次いで、損害賠償金や示談金を求める人が次々と起こることを恐れているようだ」(芸能プロ関係者)というから、慰謝料などを請求されることは避けたいと考えているようだ。穂積弁護士が続ける。

「しかし、慰謝料や示談金の相場がいくらかというのは、ケース・バイ・ケースとしか言いようがないので、やっぱりわからないですね。エンターテインメント業界の相場は分かりかねますが、被害の程度や頻度といったものにも個人差があり、個別の事案によって変わってくると思われます」

さらにそこにはやはり「時効」の問題が立ちはだかる。となると、慰謝料請求も現実的には難しく、ウヤムヤということになってしまう可能性もあるが…。

「損害賠償請求に関して、現実的にあり得るとしたら、現在の事務所に対する法的構成でしょうか。例えば会社の代表者(の不法行為)について会社法350条(不法行為責任)と〈契約上の〉安全配慮義務違反(契約責任)を問うことができ得るかもしれませんが、どちらにしても違法行為と代表者の職務との関連性は必要となります」(同)

「タレントに罪や問題などがあるわけではない」

一方、テレビ局やスポンサーは、現在のところこの問題に関して、ジャニーズ所属タレントの出演中止や契約の打ち切りなどの動きは見せていない。

TBSの佐々木卓社長は5月31日に行われた定例会見で、事務所が再発防止策などを発表したことに触れ、「それが今後ちゃんと進んでいくのかどうかが大事」と推移を注視していくと説明。NHKなど、他の民放各局のスタンスも、概ね〈性加害は許されるものではないが、事務所の対応を注視していきたい〉といった趣旨のものに終始している。ジャニーズ事務所所属のタレントがCM出演するスポンサー企業も概ね同回答。

5月25日の会見でテレビ東京の石川一郎社長が「タレントに罪や問題などがあるわけではない」という発言したことに象徴される通り、実質的にこの問題はスルーされつつあるのが現実だ。

いずれにしても、被害者の会および被害者OBは、すでに故人となっている、ジャニー喜多川氏に対しては、具体的に個人的な責任を追及しようもないので、この問題については、事務所側が向き合うしか解決の方法がない。

現実的に被害を訴える人がいる限り、ジャニーズ性加害問題は、まだ着地点が見えないのが現実だ。

取材協力弁護士

穂積 剛 弁護士

穂積 剛 弁護士

所属: みどり共同法律事務所

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