日テレ「誰も知らない明石家さんま」で1年以上前の盗作を正式謝罪…その和解の内容は?
「和解は出来ず、裁判で争う形となりました」
昨年12月12日に放送された特番「誰も知らない明石家さんま 第7弾」(日本テレビ)の過去の放送で紹介したイラストが、第三者が無断で他人の作品を自分のものだと偽って番組へ応募したものだったと謝罪する一幕があった。
「明石家さんま画商」と題されたコーナーでの出来事。同コーナーは明石家さんまが全国のクリエイターの応募作品をプロデュースするというものだが、20年4月の放送で、「石田ゆきの 45歳」の作品として投稿された〝タバコをくわえた男性のイラスト〟は、第三者がイラストレーターのYUNOKIさんの作品を勝手に投稿したものだった。
YUNOKIさんは放送後、日本テレビに連絡を取り、訂正を求めたが、応じてもらえなかったという。21年2月にこうツイートしている。
〈昨年4月26日 #日本テレビ #明石家さんまの転職DE天職 で私「YUNOKI」の作品が「石田ゆきの45歳」の作品として無断で紹介された件ですが、私にとって完全に貰い事故だったにも関わらず相手方(日テレ&制作会社いまじん&盗作投稿者)との和解は出来ず、裁判で争う形となりました〉
〈和解が出来なかった1番の理由は、日本テレビ側が番組で私の作品を「石田ゆきの45歳」の作品として紹介した事を「間違いだったと訂正する約束をしなかった」ためです。私はこの間違いを無かった事にされるのはどう考えても納得いきません〉
YUNOKIさんの怒りは当然だが、その後、和解が成立し、12月12日の放送で正式な謝罪と訂正があったことを同日のツイッターで報告。〈あー…良かった…訂正されて嬉しい。涙出てきた〉と書き込んでいる。
著作権侵害訴訟は「費用倒れ」も少なくない
今では、「pixiv」の漫画ルーキーランキングにランクインするほどの実力のあるYUNOKIさんにとって、丹精込めて描いた作品を、第三者に勝手に自分の作品であるかのように公開されたら、たまったものではないだろう。知的財産権問題などの対応も多い折田忠仁弁護士は話す。
「自分の作品でないものを自作と偽って公開したり、販売したりすることは、原作品の複製を伴っていれば、著作権侵害即ち複製権侵害に該当しますし、原作者の氏名を隠匿することになりますから、著作者人格権(氏名表示権)の侵害にもなり、更に、ツイッターでのイラストの無断転用に関しては公衆送信権の侵害に、それぞれにあたります。
裁判上の和解では、和解条件を秘密とする条項が入っている場合が多々あり、具体的な内容は部外者には分からないことが多いのですが、今回の和解もその例外ではないようで、例えば和解金が支払われたかどうかもわかりません。
一般的に、日本の裁判実務においては、著作権侵害に基づいて損害賠償請求をしても、認容額は多額にはならないので、著作権侵害訴訟は〝費用倒れ〟(費用対効果が低い)になることが少なくないのが現実です。そのため、実際に裁判を起こす方は、〝お金の問題ではない〟ということで、自身の名誉やプライドを守るため、あるいは世間へのアナウンスも兼ねて権利を行使するというパターンも多いようです。」
YUNOKIさん自身、
〈私としては間違えて放送したことを訂正・謝罪をしてもらうことが一番の目的だったので、そこにおいては納得のいく結果となりました〉とツイートしている。
和解の成立を報告するYUNOKIさんのツイッター2)番組側(日テレ&いまじん)とは和解が成立しました。その結果、先ほど放送された「#誰も知らない明石家さんま」番組内で正式な訂正と謝罪をしていただきました。私としては間違えて放送したことを訂正・謝罪をしてもらうことが一番の目的だったので、そこにおいては納得のいく結果となりました。 pic.twitter.com/Y7XvoWInfH
— YUNOKI@2月コミティア (@yunokism) December 12, 2021
偽りの「天才作曲家」作品を販売したケースも
一方、これとは若干構図が違うものの、思い出されるのは、相手に請われるまま、自分の作品を〝全ろうの天才作曲家〟佐村河内守氏に差し出していた作曲家の新垣隆氏のケースだ。
2014年、新垣氏は、「週刊文春」誌上で、佐村河内氏の〝ゴーストライター〟として佐村河内氏に18年に渡り楽曲を提供していたことを告白。新垣氏は、佐村河内氏に頼まれて、断りきれずにゴーストを続けていたという。
「新垣氏は法廷に訴えることはしませんでしたが、これもある意味、新垣氏の著作権の侵害と見ることもできる。佐村河内氏は謝罪会見を開きました。佐村河内氏の作品だと疑うことなくCDを発売してしまったレコード会社も謝罪しました。」(夕刊紙芸能記者)
真摯な対応を怠ったテレビ局、制作会社の責任とは?
今回、同じく第三者の作品を誤って紹介してしまった日本テレビサイドに落ち度はなかったのか。今回の件を受け、番組では、〈応募の際は、「募集要項」をよく確認の上ご応募ください〉と念を押しているが……。前出の折田忠仁弁護士の話。
「原作者から盗作の申立てがあった場合でも、基本的に盗作(複製)した本人ではないテレビ局、制作会社に直接的な法的違背はありません。ただし、申立てに対する真摯な対応を怠ったという倫理的、道義的な問題はあったということです。
今回の件では、本当の作者から申し出があった時点で速やかに真摯な対応をしていれば、裁判にもつれこみ、1年以上たってから謝罪するという事態にはならなかったと思われますので、誠実に対応したといえるのかどうか、その過程もきちんと調査、公表すべきでしょう」
ちなみに、YUKIKOさんのケースでは、結局一度も法廷に出廷しなかった盗作した張本人とは、和解どころではなく、まだ訴訟は終わっていないというが、今月には判決が出るとYUNOKIさんはツイッターで報告している。
インターネットを使えば、誰もが手軽に絵画や音楽、文学などの創作物を公開できる時代。YUNOKIさんは〈盗作・無断転載が行われた場合でも泣き寝入りせずにしかるべき対処をすれば、それなりの結果になる〉として、泣き寝入りはしてはいけないと綴っているが、こうした問題は今後、誰でも身近に起こりうるだろう。
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