「なかよし」少女漫画原作者の強制わいせつ事件発覚…出版社の対応は妥当か?

中原 慶一

中原 慶一

「なかよし」少女漫画原作者の強制わいせつ事件発覚…出版社の対応は妥当か?
回収された「はらぺこペンギンカフェ」(講談社・ワイドKC)第1巻

女子小学生にわいせつな行為

講談社の少女漫画誌「なかよし」で連載されていた「はらぺこペンギンカフェ」および「とむとじぇりーナナイロ」を終了し、単行本の回収も始めたことが14日、同社の公式サイトで発表された。

同社は〈「なかよし」連載 『はらぺこペンギンカフェ』等の終了及び著者との契約破棄についてのお詫びとお知らせ〉という文書を掲載。

それによれば、両作品の共同製作者「きゃらきゃらマキアート」の原作担当の男性が、今年春から夏にかけて、女子小学生にわいせつな行為をしたとして5月に逮捕。男性は、強制わいせつなどの罪に問われ、11月25日、京都地裁に、懲役3年、保護観察付き執行猶予5年の判決を受け、控訴せずに刑は確定したという。

「美少女戦士セーラームーン」も連載されていた老舗漫画誌が謝罪

「なかよし」は1954年創刊。現存する漫画雑誌では日本最古の歴史を誇り、70年代後半は「キャンディ♡(※黒ハート)キャンディ」が大ヒット。発行部数は180万部に達した。さらに80年代以降も、「美少女戦士セーラームーン」など、数多くのヒット作を生み出していた。

ほのぼのした絵柄が印象的な「はらぺこペンギンカフェ」は19年3月号から、アニメ「トムとジェリー」のスピンオフ企画の「とむとじぇりーナナイロ」は21年8月号から連載が始まっており、「はらぺこペンギンカフェ」は単行本第1巻も発売されていた。

講談社の公式サイトの文書で以下のように平謝りだ。

「小学生・中学生等の皆様を対象読者とする同誌において連載中であった著者が、このような事態を起こしてしまったことにつきまして、断じて許されない卑劣かつ悪質な行為であると考えます。被害者やその保護者、関係者の皆様に深くお詫び申し上げますとともに、読者のかたがたに謝罪いたします。まことに申し訳ありませんでした」

講談社の公式サイトに掲載された文面(https://www.kodansha.co.jp/news.html)

作品の発表・発売の禁止は表現の自由を侵害?!

知的財産権問題などの対応も多い折田忠仁弁護士も、今回の出版社側の対応は「至極妥当だと思います」としてこう話す。

「そもそもエンタメ作品は人を喜ばせ、夢や楽しみを与えてくれるものです。その観点から、また行われた犯罪の性質から見ても、メジャーな少女漫画誌に同作者の作品が掲載され続けるという状態は極めてよろしくない。もし、これが謝罪だけで、作品は掲載され続けられたとしたら、コンプライアンス的に大問題です」

厳しい対応は当然という訳だが、その一方で、こうした措置は、作者の「表現の自由」には抵触しないのか。折田弁護士は、「教科書検定問題」を引き合いに出しながら続ける。

「かつて『教科書検定制度』が『表現の自由』を侵害し、憲法が禁止している『検閲』に当たるのではないかと問題になったことがありました。しかし裁判所の判例は、〈教科書検定が『思想内容等を審査するものである』と認めながら、たとえ検定に不合格になっても一般図書として出版することができるのであるから、発表の禁止を目的とするものではなく検閲にあたらない〉としています。

今回の件に照らして考えれば、同作者は、今後、『なかよし』の連載やコミックスの販売はできませんが、自費出版としてネットやコミケなどでは販売はできます。つまり表現の自由が規制されるという判断には当たらないでしょう」

「作品に罪はない」は通用しない

一方、昨今のエンタメ界では、漫画にかかわらず、音楽やドラマ、映画でも〝犯罪を犯した人〟〝過去に重大なコンプライアンス違反を犯した人〟の作品が封印される傾向がある。

先の東京五輪の開会式で、楽曲の作曲を担当していた音楽家の小山田圭吾氏(52)が、学校時代に障害のある同級生をいじめていたことが発覚し、大騒動に発展した末、開会式直前に辞任したことは記憶に新しい。「多様性と調和」を謳っていた東京五輪の理念に大きく反していたためだ。

「今回の件も、小中学生を相手にしている同誌だったからこその措置だが、今後、同氏が『きゃらきゃらマキアート』ではなく、〝過去〟を封印したうえで、名前を変えるなどして、他のエンタメ業界で活動することは不可能ではない。しかし素性がバレてしまった業界では、現実的に復帰は厳しいのではないか」(出版関係者)

前出の折田弁護士は続ける。

「『作品に罪はない』という考え方もありますが、昨今の社会的状況から、重大な犯罪を犯した人物が関わっている作品を封印しようとする風潮は、現代のコンプライアンスの視点から見れば、仕方のない流れかと思います。人を喜ばすエンタメ作品に、わいせつ犯やひきにげ犯が関わっていたとわかったら、やはり厳しいです」

伝統ある人気漫画雑誌に泥を塗ってしまった格好の今回の事件。「月に変わっておしおきよ!」では、とても済まされない事態だ。

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