NHK「割増金」制度スタートで“訴えられる人”も増加? 「受信料払いたくない人」唯一の対抗策とは…

弁護士JP編集部

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NHK「割増金」制度スタートで“訴えられる人”も増加?  「受信料払いたくない人」唯一の対抗策とは…
NHKは「納得して受信契約のお手続きや受信料のお支払いをいただく」方針は変わらないとしている(撮影:弁護士JP編集部)

受信契約をしていなかったり、受信料が未払いの世帯・事業所に対して、未払い額の2倍の割増金を請求するNHKの「受信料割増金制度」が4月からスタートした。

制度の対象となるのは「不正な手段により受信料の支払いを免れた場合」と「正当な理由なく期限までに受信契約の申し込みをしなかった場合」で、受信料と合わせて通常の3倍の金額を請求されることになる。

NHKは制度導入のために、2022年10月に施行された改正放送法に基づいて、受信料の支払いに関するルールなどを定めた「日本放送協会放送受信規約」の変更を同12月6日に総務相に申請。大学教授や弁護士らが委員を務める「電波監理審議会」が規約の変更について「適当」とする答申を出したことを受けて、総務省が2023年1月18日に認可した。

規約変更についてNHKは、公式ホームページ上で「NHKの公共的価値や受信料制度の意義に共感していただき、納得して受信契約のお手続きや受信料のお支払いをいただくという、これまでのNHKの方針に変わりはありません」と掲示し、さらに割増金の対象についても「事由に該当する場合に一律に請求するのではなく、お客様の個別事情を総合勘案しながら、運用してまいりたいと考えています」と説明している。

しかし、これまでも受信契約をしていない、あるいは受信料が未払いの世帯・事業所に対し、支払い督促申し立てや訴訟を強気で行ってきたNHK。受信契約対象世帯のうち20%とも言われる「受信料を支払っていない人たち」にとって気になるのは、今後も支払わないままでいられるのかという点だろう。ビジネスと法規制の問題に詳しい江﨑裕久弁護士に聞いた。

受信料を支払いたくない…どうすればいい?

まずは今後も受信料を支払いたくないという人に向けて、合法的に支払わないままでいる方法があれば教えてください。

江﨑弁護士:法律が現行の解釈で適用される前提であれば、合法的に支払わない方法は、「受信設備を設置しないこと」のみです(※受信規約で定める免除、軽減の対象者は別)。

前提部分について説明すると、まずNHKの受信料をめぐる一連の裁判で、テレビなどの受信設備を設置した者にはNHKと受信契約を締結する義務があると判示されました(最高裁判決平成29年12月6日)。他方で、放送法は直接国民に受信料を支払う義務を課すものではなく、契約のない人に直接に受信料支払いの請求を行うことはいかなる意味でもできません。そのため、NHKが受信契約締結を拒否する人から受信料を請求するには、まず受信契約の成立を求めて裁判を起こす必要があります。

このような立て付けになっているため、割増金についてもNHKが請求するためには、あくまで受信契約が成立している必要があるのです。割増金の意味は、受信契約が成立した後、その契約の有効期間が「受信設備を設置した時点」までさかのぼり、その期間について割増金を請求することができるようになるというものです。

契約して未払い「おすすめしません」

テレビを持ちながら「未契約のままでいる」ことはリスクが高いのでしょうか。

江﨑弁護士:前述の通り、NHKは受信契約の締結を求めて訴訟を起こせることになっているので、そのリスクが残ります。ネット上には、契約した上で不払いにすることを勧める意見もありますが、これは私はおすすめしません。契約すれば法的に支払い義務は生じることになりますし、実際にNHKは訴訟を起こしています。最終的には支払わざるを得なくなると思います。

受信料を支払わないのであれば、やはりテレビの撤去が現時点では一番確実と言えます(理屈では撤去前の分では受信料が発生します)。ただし、NHKはテレビのチューナーがあるパソコンについてはワンセグの判決(※)を根拠に「受信設備がある」と評価しているので、その点はご留意いただきたいと思います。

(※)地上波テレビを見ることができる「ワンセグ携帯」を所持する場合、NHKと受信契約を結ぶ義務があるとした東京高裁の判決(平成30年3月22日)。

割増金制度スタートで訴訟リスクは高まる?

割増金制度スタートによって受信契約の締結を求める訴訟は、これまでと比べ増えると考えられますか?

江﨑弁護士:まだこれからの制度なので今後を注視する必要がありますが、一般的には回収できる額が大きければ大きいほど訴訟を起こす方にメリットが増えることになりますので、今後は事実上訴訟になるリスクは高まることになります。

今まで支払っていなかった人が、割増金制度スタートを機会に支払いを始めた場合、過去の請求分をさかのぼって請求されることはありますか?

江﨑弁護士:過去分についてすでに発生している請求額が請求されることはあり得ますが、請求をするかどうかはNHK側に委ねられていることになりますので、自主的に支払うことにした場合、NHKの判断で割増金が請求されない可能性はあります。なお、割増金の対象になるのは2023年4月以降の分のみなので、これ以前の部分について割増金が請求されることはありません(受信規約付則5条)。

NHKの次なる一手は“ネット受信料”?

「テレビのチューナーがあるパソコン」について、受信設備と見なされるということですが、チューナーがないパソコンでも「NHKオンデマンド」などの配信は見ることができます。今回の改正法でも受信設備とは見なされませんか?

江﨑弁護士:以前、「テレビを持っていない人」からNHKが受信料を徴収する可能性について答えた記事(https://www.ben54.jp/news/107)でもお伝えしましたが、あくまで電波で一斉に発信する「放送」とオンデマンドなどのネット配信は別です。改正放送法によっても、受信設備とは放送を受信するものに限られるという分類は維持されているように思います。従って、チューナーのないパソコンなどの機器は「現時点では」受信機器に該当せず、受信料は発生しないということになります。

「現時点では」ということは、将来的には導入の可能性があるのでしょうか。

江﨑弁護士:昨今のテレビ視聴人口の低下を受けて、NHKはネット事業にかじを切りつつあり、将来的にはネット視聴についても受信料(というのがすでに正確な用語ではありませんが)を徴収したいという考えを持っているのであろうとは思われますが、そのためにはやはり法改正が必要になると思います。

今回、法改正についても、割増金についても社会的に大きな論争がないまま、NHK側の言い分に沿った改正がなされた印象がありますが、もしこの点の法改正があるのであればNHKの社会的意義も含めて大々的に議論されるべきだと思います。

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