ドンキ新型テレビ「地上波映らない」NHK受信料支払い義務はある?

弁護士JP編集部

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ドンキ新型テレビ「地上波映らない」NHK受信料支払い義務はある?

12月10日、ドン・キホーテからテレビチューナーを搭載しないテレビ「AndroidTV機能搭載チューナーレス スマートテレビ」が発売された。

昨今の動画コンテンツの楽しみ方、視聴スタイルの変化から、同社では2019年に「チューナーレス液晶テレビ」を発売。今回はフルハイビジョン画質、インターネット接続、Android OSを搭載し、より快適に動画を楽しめる製品へとアップデートがなされた。

最高裁判決「受信料の支払い義務あり」

チューナーレス、つまり地上波放送が映らないテレビの出現に、早くもSNSでは「この手の商品をNHKがどんな大喜利で対抗してくるのか」「こんなこともあろうかとNHK+というネットでも放送が見れる仕組みを作ったのだ、つまり受信料払え」など、NHK受信料の徴収がどうなるかについての心配が広がっている。

放送法第64条によれば、「放送の受信を目的としない受信設備」であればNHK受信料を支払う義務はない。しかし、12月2日には最高裁で「NHKが映らないようフィルターを付けたテレビにも受信料を支払う義務がある」との判決が出ており(いわゆる「イラネッチケー訴訟」)、チューナーを搭載しないドン・キホーテのテレビに対する受信料の扱いについても関心が集まった形だ。

開発背景に「NHK受信料を支払いたくない」需要? ドン・キホーテの回答は

ちなみに、発売元のドン・キホーテに「NHK受信料を支払いたくない」需要の開発への影響について問い合わせたところ、「影響しておりません。『チューナーはなくても問題ない』という顧客の意見があったことを反映し、2019年に『チューナーレス液晶テレビ』を発売させていただきました。今回は、当該商品をもとに改良いたしました」との回答があった。

江﨑裕久弁護士「TV電波の受信可能性がないものは除外される」

先の最高裁判決をふまえ、あらためてNHK受信料についての法律的な見解を江﨑裕久弁護士に聞いた。

12月2日の最高裁判決で、NHKは逆転勝訴しました。なぜ1審(地裁)の判決が覆り、2審以降(高裁、最高裁)ではNHKが映らないテレビにも受信料支払いの義務があるという解釈になったのでしょうか。

江﨑弁護士:最高裁は中身の審査をせず却下の決定をしたようなので、高裁の判決内容を見たところですが、①「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者」という放送法第64条第1項の規定の解釈について、簡潔に言えば高裁は「見られる可能性がある」機器、地裁は「実際に見られる」機器であると判断しています。

また、②NHKが受信できるように復元可能かについて、高裁は復元可能、地裁は復元が容易ではないと事実認定も異にしています。

深掘りすると、2017年12月6日の最高裁判決でも、税金とは別に国民に受信料を負担させることにNHKの財政的基盤があり、放送法第64条の規定はそのために受信契約の締結を強制するものであると述べており、最高裁及び高裁はこの判断に整合的な解釈を取ったものとみられます。

今回発売されたドン・キホーテのテレビには、そもそも地上波放送を受信できるチューナーが搭載されていません。12月2日の最高裁判決から考えて、このテレビに受信料の支払い義務はあると思いますか。

江﨑弁護士:上記の高裁の判決内容のみから考えれば、NHKを含む一切のTV電波の受信可能性がないものは除外されるという結論が整合的と見えます。

ただ、前述の判決はあくまで電波を受信できるかどうかが争点だったため、電波以外の方法での視聴について明確な基準が示されているとは言えません。今後、例えばNHKの動画を視聴できるものについても受信機器に該当するなどと、拡大的な解釈がなされる可能性は否定できません。

なお、上記の判決はそもそも、こういったネット時代において、TVの普及が政策目的であった時代に制定された法令の正当性が無くなっているのではないかという議論に、真正面から答えたものではないように思いますので、今後この議論がなされていくべきなのかもしれません。

イギリスやドイツなどでは、国営放送がネット配信をしていることを根拠に、テレビの有無にかかわらず受信料を徴収する動きがあるといいます。NHKも2020年より配信サービス「NHKプラス」を開始していますが、先生はドイツ留学の経験からどのように見られますか。

江﨑弁護士:ドイツは日本と似ており、税金とは別に国営放送の受信料を国民が負担するという制度があります。かつては日本と同様、受信機器の設置の有無に基づき徴収していたようですが、ネット時代への移行に伴い、すべての住民に負担金として課されています。

ちなみに、私個人は当時アパート暮らしで、おそらく大家がまとめて支払っていたと思います。ただ、ドイツにおいて国営放送は一つではない(ARDとZDFがある)ためか、日本のようにNHKという一法人に払っているというよりテレビ視聴そのものの対価として、比較的その負担も受け入れられているようです。

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