「世界一危ない」日本の公共トイレ “性犯罪の温床”リスクを専門家が指摘するワケ

弁護士JP編集部

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「世界一危ない」日本の公共トイレ “性犯罪の温床”リスクを専門家が指摘するワケ
性犯罪の現場となった大井町駅前の公衆トイレ。品川区の設計コンペで最優秀賞を獲得したが…(11月10日/弁護士JP編集部)

成人男性が、見知らぬ女子児童にトイレの場所を聞くのはアリか、ナシか。

先日、神奈川県警の防犯メールで「外出中の女子児童が、見知らぬ男に『トイレこの辺にありますか。』等と声をかけられる事案が発生しました」という情報が配信され、これに対して「純粋にトイレに行きたかっただけなのでは…?」とコメントをつけたツイートが炎上し、大きな議論を呼んだ。

警察が公表した“意味”とは

全国の警察や自治体が公表する不審者情報を日々集約・配信している「日本不審者情報センター」代表の佐藤裕一さんによると、「『トイレの場所を尋ねた』という声かけ事案は、特に珍しいものではない」という。

「たしかに、純粋にトイレの所在を尋ねたかっただけということもあるかもしれません。しかし、全国の不審者情報に日々触れている私たちとしては、警察が公表すると判断した“何か”が、セリフの前後にあるのだろうと感じます。警察が公表した以上は『大丈夫だろう』という方向性ではなく、『もしかしたら…』という捉え方をしておいたほうが良いのではないでしょうか」(佐藤さん)

日本のトイレが“世界一危ない”理由とは

トイレを悪用した犯罪は、これまでもたびたび発生している。2011年に熊本市のスーパーマーケットで、当時3歳の女児が当時20歳の男に多目的トイレへ連れ込まれ、わいせつ行為の末に殺害・遺棄された痛ましい事件など、性犯罪の温床となっていることもたしかだ。

立正大学で「犯罪機会論(犯罪の機会を与えないことで、犯罪を未然に防ぐという考え)」を研究する小宮信夫教授は「物理的な構造からすると、日本の公共トイレは世界一危ない」と指摘する。

「日本の公共トイレは基本的に、犯罪者に犯罪をあきらめさせるための『ゾーニング』ができていません。

身の回りのトイレを見ていただければ分かるのですが、ほとんどの場所で、男女トイレの入り口が近く、多目的トイレは男女共用になっています。それぞれの入り口が1本の動線上に並んでいるので、男性が女性の、女性が男性のトイレに近づいても、周りの人が違和感を覚えにくいのです。

盗撮するにしても、男女共用の多目的トイレなら誰にも怪しまれずにカメラを設置できるのは言うまでもなく、女性用トイレに侵入してカメラを置くことも、男女トイレの入り口が近ければそう難しくはないでしょう」(小宮教授)

熊本で3歳の女児が殺害されたスーパーマーケットのトイレ。手前から女性用、多目的、男性用と1本の動線上に並んでいる(提供:小宮信夫教授)

「みんなで一緒に使おう」は日本特有の精神

小宮教授は、日本のトイレが危険な構造になっている理由について、これまで世界90カ国以上のトイレや公園などを分析してきた経験から以下のように指摘する。

「日本では、トイレも公園も『みんなで一緒に使いましょう』という発想で作られています。しかし欧米では『“みんな”はそれぞれ違うから、できるだけ細かく多様性を確保しよう』と、真逆の発想で設計されているんです。

この背景には、日本が島国であり、一度も侵略されたことがないという歴史があると考えられます。国境も地続きでないため、“日本列島”“日本人”“日本民族”と、いわば『マジョリティー(=みんな)』が非常に分かりやすい構造だったのです。

昔から『村八分』『非国民』という言葉があるように、“みんな”に入れなければ排除されてしまうという意識が根底にあるのではないでしょうか」(小宮教授)

“革新的”な公衆トイレが誕生も、1年後に性犯罪が発生

また小宮教授は、安全性を置き去りにして“ファッション”的なデザインが称賛される風潮にも危機感を持つ。

「近年、性別にかかわらずみんなで一緒に使用できるトイレが各地にできていますが、安全性について十分に議論しないまま安易に作るべきではないと思います」(小宮教授)

たとえば、大井町駅前(東京都品川区)の公衆トイレは2020年9月、区の設計コンペを勝ち抜いた革新的なトイレに生まれ変わり、「ジェンダーフリーといった、これからのトイレのあり方について提案がなされている(コンペ講評より)」と評価された。従来の公衆トイレが持つ「暗い」「汚い」「怖い」といったイメージも払拭され、「明るく清潔感があり利用しやすい」といった声も多く聞かれた。当然、安全面に配慮する意図もあったと思われる。

しかし、そのわずか1年後の2021年10月には、20代の女性が面識のない男にこのトイレへ押し込まれ、わいせつ被害に遭う事件が発生している。

大井町駅前の公衆トイレ。塔状の男女共用トイレが6棟並ぶ(11月10日/弁護士JP編集部)
防犯カメラが24時間作動しているが…(11月10日/弁護士JP編集部)

「たしかに、ジェンダーフリーなどの観点から『ゾーニング』に異論を唱える声があるのは知っています。しかし実際に『犯罪』が起きている以上、まず確保すべきは安全性なのではないでしょうか」(小宮教授)

“危ないトイレだらけ”の現状「自衛するしかない」

小宮教授は、都市デザインや防犯対策について「本来は国や自治体が『犯罪機会論』に基づいたガイドラインを作るべきですが、富山県や藤沢市など一部の自治体を除けば、この考えはほとんど導入されていないのが現状です」と言う。

では私たちは、外出先でどのように身を守れば良いのだろうか。小宮教授は「ファッショナブルなトイレでも『安全だ』と思い込まない」「子どもを1人でトイレに行かせない」の2点を挙げる。

「犯罪の危険度は『入りやすさ』『見えにくさ』の2要素が重なったところで非常に高くなります。私は『景色解読力』と呼んでいますが、トイレに限らず、公園や路上など、ご自身やお子さんが普段行くような場所に2つの要素がどれくらい潜んでいるのか、日頃から点検する癖をつけることが大切です」(小宮教授)

小宮教授のYouTubeチャンネルでは、景色を「解読」するポイントも紹介されている

「その上で、犯人は同じ動線をたどってくるということ前提に、トイレを利用する際にはスマホやイヤホンに意識を奪われたままではなく、後ろからついてくる人はいないか、もしついてくる人がいればその人をやり過ごしてからトイレに入るようにするなど、十分警戒してほしいです。設計自体が犯罪機会論を取り入れておらず危険である以上、現状はそうやって自衛するしかありません」(小宮教授)

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