「30年放置された」“家政婦”のブラック労働 3万通の署名提出で国が実態調査を約束

弁護士JP編集部

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「30年放置された」“家政婦”のブラック労働 3万通の署名提出で国が実態調査を約束
厚生労働省の職員に書名を手渡す支援者ら(11月9日 都内/弁護士JP編集部)

一週間にわたる泊まり込み勤務の末に亡くなった家政婦(家事使用人)の女性=当時68=の過労死が認められない問題で、遺族と支援者らは11月9日、女性の労災認定と家事使用人への労働基準法の適用を求め、要望書と約3万5000筆の署名を厚生労働省に提出した。

女性は2015年5月、訪問介護・家事代行サービス会社の斡旋(あっせん)により、寝たきり高齢者の利用者宅に一週間泊まり込みで働いた後、急死した。労働基準監督署が労災を認めなかったことから遺族らが国に対して裁判を起こしたが、東京地裁は訴えを棄却した(9月29日)。現在、遺族らは控訴している。

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「家事使用人」は労基法適用されず

個人に雇われて家事をする「家事使用人」には労働基準法が適用されず、法に守られていない状況だ。

「家事使用人」を適用外とする労基法116条2項をめぐっては、1993年にすでに当時の労働相(現・厚生労働相)の諮問機関が撤廃を提言していたものの、30年近く経った今も議論が深まっていない。裁判では、訪問介護・家事代行サービスの斡旋により働いていた女性が、個人家庭との直接契約で働く「家事使用人」にあたるかが争点となっていた。

提出された要望書では、労基法の改正とともに、国際労働機関(ILO)で採択されている家事労働者の権利を守る国際条約への批准を求めた。厚労省側は、労基法の改正について「慎重に検討する」と述べるにとどまったが、家事労働者の働き方については実態調査を行うと回答した。

加藤厚労相「問題意識は共有している」

なお、10月27日の衆議院の厚生労働委員会において、石橋通宏委員はこの問題を取り上げ、加藤勝信厚生労働相に「家事労働をしている“労働者”のみなさんにもきちんと労基法が適用されるよう、大臣のイニシアチブで対処していただきたい」と投げかけている。

これに対し、加藤厚労相も「家事使用人については、通常の労働関係と異なった特徴を有し、国家による監督・規制といった法の介入が不適当であるといった考え方から、労基法の適用から除外されている。ただ、(石橋)委員の問題意識は私も共有させていただいている。

家事使用人の実態そのものは長らく見てきていないので、まずはその調査を行いたい。その実態を踏まえ、労働者の保護の観点から、どういった対応が必要なのか検討していきたいと思っている」と述べ、現状調査の実施などへ積極的に取り組む姿勢を見せている。

当事者「緊張感の中で働いている」

署名提出後に国会内で開かれた集会では、遺族の夫(75)、弁護士、ジャーナリスト、家政婦として働く当事者らが実態を訴え、前出の石橋委員ら参加した国会議員が耳を傾けた。

ジャーナリストの竹信三恵子氏(和光大学名誉教授)は、「家事は簡単な仕事と見なされ、家事労働者は軽視されている。しかし、家事労働の多くは密室で行われ、監視する人がいないなど、過労死が引き起こされる要因が多くあり法の保護が必要だ。

各家庭との個人契約であれば労基法の適用を免れる現行法では、ギグワークをはじめ新しい仕事の形態で働く労働者も同様に守れない。労基法116条2項を変えなければいけない時期にきているのではないか」と訴えた。

左から竹信三恵子氏、土屋華奈子さん、指宿昭一弁護士、明石順平弁護士(11月9日 都内/弁護士JP編集部)

個人で家政婦として働く土屋華奈子さんは、「家政婦はいわゆる主婦(夫)とはまったく違う仕事だ。要望に合わないという理由で作った料理を捨てられたり、トイレは近所の公園のものを使えと言われたりする。“いつ何を頼まれるかわからない”という緊張感の中で働いている」と実態を紹介。

その上で、「家事労働は同僚がいることの少ない孤独な仕事でもある。同業者であっても、他の人がどのように仕事をしているかわからない。住み込みや泊まり込みでも家のトイレやお風呂を使わせてもらえていない場合や、休憩・睡眠などが十分に与えられていない可能性もあると思う。国の実態調査ではそういったことも調べてほしい」と要望を訴えた。

今後の動き

今回遺族を支援し、労働・貧困問題に取り組むNPO法人「POSSE」の佐藤学氏は、裁判と並行して今後も署名活動を続ける意向を話した。また、署名提出時に行われた厚労省との意見交換において、質問への回答が得られていない部分があるとし 、今後も厚労省に働きかけを行っていきたいと語った。

控訴審は、2023年1月24日 から開始される予定だ。

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