スーパーが突如閉店…独自プリペイドカードから「法律上」返金不可の“理不尽”は解消できる?

弁護士JP編集部

弁護士JP編集部

スーパーが突如閉店…独自プリペイドカードから「法律上」返金不可の“理不尽”は解消できる?
店に出向いて初めて知る「閉店」の事実に唖然…(EKAKI/PIXTA)

大阪や京都に4店舗展開するスーパーマーケットが、10月1日に破産申請を行い、突然閉店した。

地域に密着したスーパーのあまりに突然の閉店に、近隣住民は困惑。周囲のスーパーがあるエリアまで、5キロほどかかる住民もいるといい、いわゆる「買い物難民」の問題も表出している。

しかし一番の問題となっているのが、スーパー独自のプリペイドカード(電子マネー)の返金がなされないことだ。

プリペイドカードにチャージしたお金は戻ってこない?

報道などによると、カードの利用客の中には、数日前に入金したばかりで、数万円残額が残されているという人もいたという。一方のスーパー側は、「チャージ金の返金は法律上できない」と利用客らに閉店を告げる張り紙で通達しているのみである。

SNS上では「閉店すると分かっていてチャージを受け付けたのは”悪質な詐欺”なのではないか」とスーパーの対応を疑問視する声も上がっている。

プリペイドカードなど電子マネーのように、あらかじめお金を支払って、実際の買い物の際に決済する仕組みは「前払式支払手段」と呼ばれている。有効期限が6か月を超えているなど、一定の要件を満たす場合、「資金決済に関する法律」(資金決済法)の適用を受ける。

カードの発行・利用が廃止された場合は、有効期限内であっても利用できなくなるため、資金決済法の規定によって、カード発行者は一定の申し出期間(60日以上)を設け、利用者に未使用分の払い戻しを行うことが一般的だ。

しかし今回は、前出の通り「法律上」返金ができないとスーパー側が提示した。なぜ返金されないのか。カード利用客への閉店前の告知の義務などについて、消費者被害の対応を行う荒居聖弁護士に聞いた。

今回閉店したスーパーの張り紙には、カード利用客は「破産債権者」になるとありました。破産法においては、「破産債権者」には、財産上の請求権があると思います。なぜ今回”法律上”返金されないのでしょうか?

荒居弁護士:報道からは、今回のプリペイドカードの約款などの詳細は分かりませんが、たしかにカードにチャージをしている利用客は、スーパーに対して、未払分の払い戻しに関しての財産上の請求権があるものと考えられます。しかし、財産上の請求権があることと、スーパーからチャージ金額の返金が受けられるというのは別の話です。

張り紙にある「チャージ金の返金を行うことは法律上できません」というのは、「債権者平等の原則」が適用される場面であるということだと思います。

「債権者平等の原則」というのは、破産の際には、個人に限らず、法人もすべての債権者を平等に扱わなければならないというルールです。

スーパーの場合を例にすると、飲食料品メーカーや農家などの取引先、これまで融資をしてくれた銀行などの債権者がいると思います。その中で、カード利用客だけを優先してお金を返してはいけないということです。

「倫理上の問題はともかく…」

返金できなくなることが分かっていたのであれば、事前にカードを廃止したり、返金に応じたりすることもできたのではないでしょうか。破産する前に、店が客に対して(債務者が債権者に対して)説明する義務はないのでしょうか?

荒居弁護士:仮にスーパーが破産前に、電子マネーの発行・利用を廃止し、カード利用客が払い戻しを行ったとします。そのことが、他の債権者(取引先など)に優先して、カード利用者に払い戻しをしたと見なされた場合、スーパーの破産の手続き自体が認められなくなる可能性があります。そのため、倫理上の問題はともかく、利用客に説明するのは難しい状況にあった可能性があると思います。

利用客は「詐欺」として警察に相談、あるいは払い戻しを求めて裁判を起こすことはできますか?

荒居弁護士:まず警察への相談ですが、スーパーが消費者を意図的に欺いていたということがある程度明確でないと、警察は動いてくれない可能性が高いと考えます。

次に裁判ですが、破産をしなければならないスーパーに対して裁判を起こし、勝訴したとしても、その時点で破産が認められていれば、回収の見込みはありません。カード利用客の方のお気持ちは分かるのですが、裁判を起こすというのは現実的ではないと思います。

今後利用客に起こること…

閉店の張り紙には、カード利用客(破産債権者)に対して〈破産手続きにおいて対応がされる〉とありますが、実際に「破産手続きにおける対応」とは、どのようなものが考えられますか?

荒居弁護士:今後スーパーは、裁判所に破産の申立てをするものと考えられます。裁判所が破産手続きの開始決定をすると、裁判所は破産管財人(※)を選任し、スーパーの財産は、破産管財人が管理をします。その後、破産法所定の手続きに従って、債権者に配当(最終配当)が行われるのが原則となります。この場合、カード利用客も債権者となるので、債権者集会のお知らせなどの連絡が来ると思います。

ただ、配当可能額が1000万円未満の場合などには「簡易配当」という簡略化された手続きによる配当が認められています。このような手続きが取られる場合などには、カード利用客に対して何も連絡が来ないこともあり得ます。

(※)破産者の財産を換価して債権者に配当する「破産管財人」は、裁判所管内の弁護士が勤めることが多い。

取材協力弁護士

荒居 聖 弁護士
荒居 聖 弁護士

所属: ベリーベスト法律事務所 八王子オフィス

  • この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。

編集部からのお願い

情報提供をお待ちしております

この記事をシェア