猛スピードのバイク“すり抜け”接触事故でも「車側」の“過失割合”が高くなるワケ

弁護士JP編集部

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猛スピードのバイク“すり抜け”接触事故でも「車側」の“過失割合”が高くなるワケ
車を運転していてヒヤッとすることも(xiaosan / PIXTA)

9月10日17時頃、茨城県牛久市の路上で車が右折しようとしたところ、道を譲ろうと一時停止していた対向車の影から猛スピードですり抜けてきたバイクと衝突する事故があった。

事故の瞬間をとらえたドライブレコーダーの映像がTwitterなどで拡散されると「すり抜け怖い」「バイクスピード出しすぎ」と、ライダーに苦言を呈する声が多く投稿された。しかし、交通事故に詳しい伊藤雄亮弁護士は「今回の事故におけるバイクの過失割合は20~25%と判断される可能性が高いと想定されます」と指摘する。

9月10日17時頃、茨城県牛久市の路上で発生した事故の図(弁護士JP編集部作成)

「交差点以外の場所」ならバイクの過失はさらに軽くなる

なぜ、今回の事故におけるバイクの過失割合は20~25%と想定されるのでしょうか。

伊藤弁護士:対向車線からすり抜けてきたバイクと右折車両が接触事故を起こした場合、過失割合は自動車70%:バイク30%になるのが基本です。

ただし、それは事故が交差点で起きた場合の話であって、映像を見る限り、今回は駐車場やガソリンスタンドのような“道路外”への右折時に事故が起きています。そのような場合には、バイクの過失が軽くなるのです。

通常、交差点には右左折や横断をする車が溢れているため、直進する側のバイクもそういった車が現われることが簡単に予測できます。しかし、それ以外の場所で“道路外”に出るために右左折や横断をする車は、交差点に比べればさほど多くないはずです。よって、直進する側のバイクが予測をすることが困難になるため、5~10%ほど過失割合が下がるとされています。

事故の映像を見て「猛スピードですり抜けてきたバイクが悪い」と言う人もいます。そもそも、車の過失割合のほうが高いのはなぜでしょうか。

伊藤弁護士:映像を見る限り、車から見れば、対向車線が渋滞していることは明らかだと考えられます。よって、その横からすり抜けてくるバイクや自転車の存在には注意しなければならない、ということになります。

たしかに、Twitterやヤフコメなどには「あんなに猛スピードで来られたら無理だ」といった声も多く見られます。しかし、「車両側がすり抜けを予測しつつ注意して運転しなければならない」という原則については教習所でも口酸っぱく指導されることですので、「無理です」では通用しないことも多いでしょう。

バイクのすり抜けによる事故は多発しており、非常に危険な行為ですが、法的に禁止されていないのはなぜでしょうか。

伊藤弁護士:そもそも、道路交通法には「すり抜け」というキーワードが存在しません。もし法律ですり抜け行為そのものを規制するのであれば、その定義(どこまでがすり抜けで、どこからがすり抜けではないのか)から考えなければならず、残念ながら法律が追いついていないのが現状です。

しかし、だからといってバイクがすり抜け行為を無制限でできるのかと言われれば、決してそうではありません。

例えば、道路交通法第38条は「追い抜きをしてはいけない」「前の車に従って動かなければならない」という規制をしています。

  • 3 車両等は、横断歩道等及びその手前の側端から前に三十メートル以内の道路の部分においては、第三十条第三号の規定に該当する場合のほか、その前方を進行している他の車両等(軽車両を除く。)の側方を通過してその前方に出てはならない。

ただしこれは、横断歩道やその手前30m以内に限定されたものであって、映像を見る限り、今回の事故には当てはまらないと考えられます。

しかし今回の事故においても、車に比べたら割合が低いとはいえ、バイクの過失がゼロでないということは、何かしら違法性があるということです。渋滞している以上、渋滞している車の前から来る他の車の存在に注意しなければならないのは当たり前であって、法律的に言えば「前方注意義務」「安全確認義務」を尽くしているわけでは決してありません。そういう意味では、バイクも法律に違反していると言えるでしょう。

車がどれだけ注意を払ったとしても、バイクが猛スピードですり抜けてきた場合は事故を防ぎきれないのではないかと思います。もし裁判になった場合、車側が争う余地はあるのでしょうか。

伊藤弁護士:どれだけ注意しても状況が予測できなかった、回避する方法がなかった(=結果回避可能性がなかった)という場合には、車の過失を問わないという判断もあり得ると思います。

事故後、警察はドライブレコーダーや周辺の防犯カメラなどから証拠を集めて捜査を進めます。それによって、たとえばバイクや自転車がどれだけ注意しても絶対に見えない死角から突然飛び出してきた、急ブレーキをかけても物理的に絶対に間に合わない速度だったことなどが分かれば、車側は「結果回避可能性がなかった」と主張することができます。今回のような事故であっても、バイクのスピードを含めた事情次第で、そのように主張できる可能性はあります。

法的な観点から、ドライバーがバイクのすり抜けから身を守るためにできることを教えてください。

伊藤弁護士:基本的には教習所で教わったことと同じで、「渋滞している場合は対向車線からすり抜けてくるバイクや自転車によく注意しなければならない」ことを肝に銘じる必要があります。それでも事故が起こってしまった場合には、先ほど説明した「結果回避可能性」の問題になってくると思います。

また事故後は、どちらに非があるかにかかわらず、ただちに警察に通報し、相手がケガをしていた場合は救護をしてください。もしそれをしなかった場合は、たとえ事故そのものに責任がなかったとしても、別の罪に問われる可能性が出てきてしまうので注意が必要です。

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