園児バス内置き去り死亡事故・理事長の会見に非難殺到 「炎上しない記者会見はない」弁護士が断言

弁護士JP編集部

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園児バス内置き去り死亡事故・理事長の会見に非難殺到  「炎上しない記者会見はない」弁護士が断言
記者会見での”炎上“は想定内と心得る(Graphs/PIXTA)

9月5日、静岡県牧之原市で通園バス内に3歳の女児が5時間にわたり取り残され死亡する事故が発生した。降車の際に確認を怠っていた点や女児が登園扱いになっていたシステムの不備など、バスを運営していた認定こども園のずさんとも言える管理体制が後から判明し、批判を浴びた。さらに油を注いだのが事故後に開かれた園側による記者会見だ。

「お宅が生まれる前からバスは動いていた」「閉園になるかもな」。時折笑みも浮かべた理事長兼園長の態度・言動もバッシングを受け、SNSなどネットを中心に大炎上を招いた。

今回の事件全体に関して、批判は真摯(しんし)に受け止め対応していくべきである。しかし、小規模な園の経営者。日頃から想定していない状況下で、「会見素人」が「世間が納得する」記者会見を行うことはかなり困難なハードルであるようにも思える。

昨今、企業、著名人が起こした事故・不祥事などで記者会見が開かれることが通例となっているが、不測の事態が発生した場合に、世間の厳しい目を回避する会見方法などはあるのだろうか。

”炎上“は想定内「いかに規模を軽減させるか」という視点

コンプライアンスなどの企業法務案件を多く対応する日笠真木哉弁護士はこう話す。

「何を言っても、報道する側は極端な話”炎上“させようと、相手がボロを出すことを待ち構えている。この状況では、個別具体の事案によりけりですが、記者会見の「炎上しない適切な対応方法」などはないに等しいでしょう」

まず、”炎上“は想定内としつつ、「いかに規模を軽減させるか」という視点で考えることが大切だという。その際、常に大事になるのが「初動」の対応だが、これも簡単ではないと日笠弁護士は続ける。

「民事上・刑事上の責任を考慮すれば、『会見の場で自分の責任を認めてよいのか』という問題が昔からあります。特に今回のような死亡事故の場合には、過失の有無や経営者としての管理責任など、今後の裁判の行方を左右しかねないセンシティブな要素が多くあります。事故の詳細が明らかになる前に民事上・刑事上の責任を認めることは得策ではありませんし、事前に弁護士からそのような回答をするように指示されることも少なくありません」

顧問弁護士の提案などから、民事上・刑事上の責任を念頭に置いているため、はっきりとしない弁解じみた会見になりがちである。しかし、責任を認めない弁解じみた会見を行えば、たちまち「大炎上」が待っている。他方で、徹底的に会見の「対策を講じる時間」を取れば、「会見が遅い」と炎上してしまうジレンマが発生する。

「ありきたりですが、とにかく早く、弁護士と同席で会見を開く」(日笠弁護士)ことがまず大前提になる。その上で具体的な対応を行うというのがしかるべき順番であるという。

結果に対する「道義的責任」は発生している

今回の記者会見の内容を抜粋したものが以下であるが、前出の前提に照らしてどのあたりに問題の本質があるのか。日笠弁護士に解説してもらった。

①(会見冒頭)
―――「このような大変悲しい事故が起こってしまい、その原因はわれわれの安全管理がきちんとできていなかったという点にあったことを認めた上で、まずは原因の究明に努めてまいりたいと思います」(※増田理事長兼園長)

「民事上・刑事上の責任を真正面から認めるのを避けるといっても、結果に対する『道義的責任』は発生しているのだから、それは潔く認める。そして、道義的責任に対して、誠意を見せ、心から謝罪をする。それと『法律上の責任』は分けて考える。とにかく亡くなった方、ケガをした方、迷惑を被った方に対して平身低頭謝罪する。冒頭でいえば、『大変悲しい事故が起こってしまい』という言い回しが人ごとのように聞こえますね」(日笠弁護士)

②(記者とのやり取り)
【記者】
―――気を付ける気持ちがあったにもかかわらず、今回の件が起きたのはなぜだと思いますか?

【園長】
―――「非常に残念なことになってしまい、非常に申し訳なく思っています。ちょうどその時に、後ろをちょっと見たんですよね。ドアのところを見て、運行記録に目がいってしまったというのが僕のミスだし、次のことが年齢的にひとつのこと忘れてしまうことがあり、申し訳なかった。いつも乗らないようにしているが、たまたま3人にお願いしたが断られてしまった、やむを得ず乗らざるを得なかった」

「注意すべきは記者の聞き方です。ここでは、『気を付ける気持ちがあったにもかかわらず』というように、枕ことばをつけて追及的な質問をし、発言者の『言い訳』を待ち構えています。これに即応して感情的になったり、自己保身的な発言をしたりしてはいけません。ここは『責められる場』なんだということを認識し、受け止める。

さらには、責められても誠意を持った謝罪をまず心がけるべきです。そういう意味では、『非常に残念なことになってしまい』も人ごとに聞こえますよね。まず、「自分ごと」として、道義的責任を認める。その上で、『今後の捜査には最大限協力していきたい。被害者・ご遺族に関しては、誠心誠意、謝罪だけではなく、金銭的・精神的な面でもできる限り誠意を尽くすつもりだ』という潔い態度が必要です」

「笑ってる」園長の“ギリギリ”な心理状態とは

記者会見では、後に刑事上・民事上の責任に関する裁判などが待ち構えている前提での発言が必要だ。さらに、そのリスクを軽減しながら、誠意ある態度を取る。ある意味、二律背反であり、非常に難しい。

「仮に(刑事上・民事上の責任を)認めたとしても、後で取り返しのつかないことにはならないとは思いますが、映像が残り、拡散する昨今では、より慎重さが求められます。記者会見の発言で付け加えると、その炎上が「民意になる」場合があるということです。裁判所や検察もそれをまったく無視することはできません。たとえば、量刑への影響などがあります。大きな社会現象になってくると、法律改正も含めて大きな問題点となり得るのです」(日笠弁護士)

人間の感情が束になれば、政治・司法をも動かすほどの影響力を持つこともある。やはり「炎上」を避けるのは不可能に近い。それらを理解した上での心構えについて、日笠弁護士は続ける。

「悪い結果が起きて、非難されてしかるべき立場での会見では、最初からマウントを取られていると覚悟しなければなりません。記者は「世論の代弁者」だと見做す。同じ土俵で勝負してはいけません。負け惜しみの捨て台詞を吐いたり笑顔を見せたりすれば、それは世論に対して行っているということです。今回『笑ってる』と言われた園長は、心理的にギリギリの状態です。追いつめられて、強がり、つい捨て台詞のようなものを吐いてしまったのではないでしょうか」

炎上を抑えるためのポイント

これまでの話を整理すると、記者会見における炎上を、できるだけ「小さい炎」に収めるためのポイントは以下となる。

  • できるだけ速やかに会見を開く
  • 「道義的責任」は認める(被害者に対する謝罪など)
  • 刑事上・民事上の責任については、「早急に解明していきたい」旨を説明する
  • 重大な過失が判明した場合には、それを受け入れる意思を表明する
  • 被害者に対して、「心理的・金銭的被害回復に全力をかける」旨を表明する

ただ、これらは事案が発生した場合の最低限の対処法。特に中小規模の企業が、不測の事態(事件、事故、それに伴う記者会見)に備えた、日頃からできる準備などはあるのか。日笠弁護士は次のように話す。

「コンプライアンスを含めたリスク管理・予防の徹底が基本です。しかし、中小規模の企業は資力などの余裕がなく、生産性のないところに費用を投入しようとしない場合が多いです。間接的に命を預かっている企業は常にリスク管理の必要性が高いにもかかわらず、です。

ただ、トラブルが発生した際のダメージは金銭的にも、レピュテーション的にも、想定以上です。おそらく今後、コンプライアンスの要請が緩くなることはなく、むしろ強くなっていきます。利益を確保するためにも、最低限の『予防法務』として、顧問弁護士をつけ、企業のモニタリングを依頼することは必要かつ、ますます重要になるでしょう」

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