「おとり広告」はお客“実害なし”にモヤモヤ… 「がっかり感」を解消する法的手段はある?

弁護士JP編集部

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「おとり広告」はお客“実害なし”にモヤモヤ… 「がっかり感」を解消する法的手段はある?
目玉の100円ウニ寿司は売り切れだった…(jazzman/PIXTA)

大手回転ずしチェーン「スシロー」の不祥事報道が続いている。

先日は、「マグロ」の産地偽装疑惑がデイリー新潮により報じられ(公式サイトは否定)、7月には、店内に「ビール半額」掲示があったにも関わらず、フェアが開始しておらず、ビールの通常料金を支払ったと思われる客の"告発”によりSNSを中心に炎上した。

今年6月には、景品表示法違反(おとり広告)で消費者庁から措置命令を受けている。

おとり広告は、景品表示法第5条第3号の規定に基づく告示である「おとり広告に関する表示」によって、『商品・サービスが実際には購入できないにもかかわらず、購入できるかのような表示』を「不当表示」として規定している。

スシローは昨年9月から12月にかけ、「新物!濃厚うに包み」「冬の味覚!豪華かにづくし」といった広告でキャンペーンを展開。しかし、実際には完売や在庫不足などを理由に商品提供できない状況を把握しながら、広告を出し続けていたことが発覚、消費者庁が6月に再発防止を求める措置命令を出していた。

企業側の表示規約違反に対しては、今回のように措置命令が出され、従わない場合には、『2年以下の懲役または300万円以下の罰金などの罰則』を受けることもある。

一方、消費者側は、「目玉商品」を目当てにお店に出向いたものの、その商品がないという“がっかり感”だけが残る。代わりの商品を頼むことに対して、どうにもふに落ちない人は少なくないだろう。この「気分」を、何らかの法的手段で解消することはできるのだろうか。

おとり広告と損害の「因果関係」が認められるか?

実は消費者も、おとり広告に対して消費者契約法4条が適用される余地が認められている(最高裁判例※)。しかし、実際に「消費者」が被害を訴えて裁判を起こす、というのは現実的なのだろうか。消費者被害なども対応する荒居聖弁護士は次のように説明する。

※不特定多数者に向けて表示行為がなされた場合に、おとり広告も消費者契約法4条の「勧誘」に該当する場合がある

「結論から申し上げますと、消費者が裁判を起こすというのは現実的ではないと考えます。

以下のケースを例にして、具体的に考えてみます。

例:【カニのお寿司の提供ができないにもかかわらず、カニのお寿司の広告を出し続けていたケース】

確かに、広告を見て、カニのお寿司を食べたいとお店に行った消費者は、カニのお寿司を注文することができなくて、がっかりすると思います。

しかしながら、このケースの場合、カニのお寿司と称して、『別のお寿司の提供がされたわけではない』こと、つまり『そもそもカニのお寿司を注文することができなかった』、という点がポイントになると思います。

消費者契約法4条は、『事業者が消費者契約の締結について勧誘する際に、不実告知などがあり、消費者が契約の申し込み又はその承諾の意思表示をしたときは、当該契約を取り消すことができる』とされています。

このケースの場合、注文時にカニのお寿司の在庫はお店になかったと思われるので、消費者はそもそもカニのお寿司を注文(契約の申し込み)することができず、契約の成立を認めるのは難しいと考えます。したがって、消費者契約法4条が想定しているケースには該当しません。

次に、上記のおとり広告自体が悪質(不法行為)で、その結果として消費者が損害を被ったとして『お店に対して損害賠償請求をする』ことができるか考えてみます。

上記のケースの場合、消費者は、カニのお寿司を注文することはできなかったので、消費者の損害を認めることはできません。

確かに「カニのお寿司だけを食べたい」と思って、交通費をかけてお店に行った消費者もいると思いますが、『おとり広告と交通費相当額の損害との因果関係を認められるのか?』 という(証明の)問題もあります。

仮に消費者におとり広告との間に因果関係の認められる何らかの損害が認められるとしても、数千円ないし数万円の損害のために裁判を起こすというのは現実的ではないと考えます」

「広告には誇張がある」を前提に

確かに消費者のおとり広告による"実害”はほとんど「ない」に等しい。それに見合う法的手段を講じることは現実的ではないということも理解はできる。ただ、悪質な「おとり広告」の横行が当たり前となるのは決して気分の良いものではない。消費者として、どのような対応が適切なのか。荒居弁護士は次のように話す。

「今回の騒動のポイントは、『広告としてどの程度の誇張が許されるか』という点だと思います。消費者が「広告にはある程度の誇張がある」ことを前提に、広告の内容に惹かれてお店に行くことは、企業側も当然認識していると思われます。

そうすると、今後も企業側としては、消費者庁から措置命令など出されないギリギリの内容の広告を出すなどして、消費者を惹き付けようとするはずです。ただ、企業側が広告の内容で「消費者の信頼」を裏切り続けると、当然、当該企業のお店に行くお客さんは減る可能性が高くなるでしょう」

広告を信じるのか、お店に行くかどうかなどは、最終的に「消費者の判断」によるところが大きい。真贋(しんがん)を見極めるための「目利き力」を養うことが、消費者にとって唯一の対抗策となるのかもしれない。

取材協力弁護士

荒居 聖 弁護士
荒居 聖 弁護士

所属: ベリーベスト法律事務所 八王子オフィス

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