一般道194km“暴走”で対向車の男性死亡…加害者が「危険運転」にならない“不条理”のワケ

弁護士JP編集部

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2022年09月14日 10:07

一般道194km“暴走”で対向車の男性死亡…加害者が「危険運転」にならない“不条理”のワケ スピード違反だけでは「危険運転致死罪」にならない(LIUSHENGFILM / PIXTA)

2021年2月9日深夜、当時19歳の元少年が大分市内の一般道を時速194kmで走行中に起こした死亡事故について、元少年に「危険運転致死罪」が適用されなかったことに疑問の声が上がっている。

元少年は市内一般道の交差点を時速194kmで直進していたところ、右折してきた当時50歳の会社員男性の車と衝突し、男性を死亡させた。元少年は「危険運転致死罪(※1)」の疑いで書類送検されたものの、大分地検は罰則がより軽い「過失運転致死罪(※2)」で起訴。これに異議を唱えた遺族は、今年8月14日に記者会見を開き悲痛な胸の内を語った。テレビ朝日の報道によると、その後、上級庁である福岡高検などに上申書を提出したという。

(※1)危険運転致死罪の罰則:人を負傷させた場合は15年以下の懲役、人を死亡させた場合は1年以上の有期懲役(最長20年)
(※2)過失運転致死罪の罰則:7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金

法律の設計上、スピード違反だけでは「危険運転」にならない

元少年が「危険運転致死罪」ではなく「過失運転致死罪」で起訴されたことについては、「時速194kmが『危険』ではなく『過失』なのか」「何のための制限速度だ」といった意見が多く見受けられる。しかし、大分地検の判断について、元検事の若佐一朗弁護士は「法律の設計上、スピード違反だけで『危険運転致死罪』とするのは難しい」と指摘する。

「危険運転致死罪が成立する要件の一つには、

  • その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為(『自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律』第2条2号)

が規定されています。『進行を制御することが困難』というのは、例えばカーブを適切に曲がり切ることができないような状況のことをいいます。

今回の事故では、時速194kmで走っていたことは特殊かもしれませんが、事故の原因そのものを見ると、対向右折と直進車の衝突事故であり、『進行を制御することが困難な高速度』で走行したから起こった事故とは言えないというのが、大分地検の判断だと思います」(若佐弁護士)

“加害者”が刑務所に入ることなく社会復帰することも…

「令和3年版犯罪白書」によると、交通事件により通常第一審で懲役または禁錮を言い渡された人の実刑率は「危険運転致死罪」が95.2%、「過失運転致死罪」が6.5%と大きく異なる。

2021年3月に福島県いわき市で6人が死傷した事故では、車を時速157kmで運転し「過失運転致死傷罪」に問われていた当時18歳の少年に「懲役3年、執行猶予5年」が言い渡され、実刑判決を免れている(※3)。

(※3)実刑の場合、確定後刑務所などに収監される。「懲役3年、執行猶予5年」のように執行猶予が付いた場合は、その猶予期間中は刑務所などに入る必要がなく、期間中に再び犯罪を行わなければ収監されることなく社会復帰できる

自分の大切な人の命を奪った加害者が、たった数年の刑期、もしくは収監すらされることなく社会復帰をすることになったとしたら、遺族としては不条理を感じざるを得ないのではないだろうか。

遺族の働きかけで新設された「危険運転致死傷罪」

大分の事件では遺族が上申書を提出したというが、過去にも事故遺族の働きかけによって法律が動いた事例がある。

例えば「危険運転致死傷罪」は、1999年に幼い姉妹が犠牲になった「東名高速飲酒運転事故」や、2000年に大学生2人が犠牲になった「小池大橋飲酒運転事故」の遺族らによる署名運動がきっかけとなり、2001年に新設された。

こうした背景がありながらも、適用のハードルが高いとされる「危険運転致死傷罪」。若佐弁護士は「『危険運転致死傷罪』には、車を使った死亡事案では一番重い法定刑が定められており、法律の設計上、それに見合う行為の悪質性が求められるというのが現状です」と指摘する。

今後、議論が活発化することで、適用ハードルの問題が解決することに期待したい。

  • この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。

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