安倍元首相殺害 山上容疑者“発射”の罪 「銃刀法」普通の人も陥る“悪意ない”違反とは

中原 慶一

中原 慶一

安倍元首相殺害 山上容疑者“発射”の罪  「銃刀法」普通の人も陥る“悪意ない”違反とは
令和3年における拳銃の押収数は全国で295丁にのぼる(Josiah / PIXTA)

7月8日に安倍晋三元首相が街頭演説中に銃撃されて死亡した事件。殺人容疑で送検された山上徹也容疑者(41)は現在、11月末まで鑑定留置中で、刑事責任能力の有無を見極めた上で起訴するかどうかが決定される。殺害に「自作の銃」が用いられていたことから、殺人容疑の他に「銃刀法違反」や「武器等製造法違反」容疑での立件も視野に入れているという。

山上容疑者は調べに対し、「銃は今年の春ごろに完成した」と話しているが、襲撃に使用された銃は、金属製の筒2本を粘着テープで固定した構造で、一度に6発の弾丸が発射できる仕組みだった。山上容疑者の自宅からは、他にも複数の自作の銃が押収されており、科学捜査研究所(科捜研)では、詳しい構造や殺傷能力も確認する方針だ。

「銃刀法違反」による量刑は考えにくいが…

しかし、刑法では「犯罪の手段や行為が複数の罪名に触れる場合は、もっとも重い刑で裁く」と規定しているため、殺人罪(「死刑または無期もしくは5年以上の懲役」の量刑)などが適用された場合は、銃刀法違反による量刑などは考えにくいという。犯罪や刑事事件の対応も多い杉山大介弁護士はこう話す。

「銃刀法そのものの観点から量刑を検討されることは考えにくいと思います。というのも『殺人』という、より重い結果が生じており、そちらの量刑評価の中で拳銃の使用態様などが検討されるからです。ただ、街中で拳銃を2発発射すれば、仮に銃刀法だけの問題だったとしても、執行猶予なしの懲役3年を超える量刑評価になるかと思います」

原則禁止となったクロスボウ(ボウガン)の所持

明らかに殺人の意図をもって銃を使用した山上容疑者は別として、一般の人にも関係してくる「銃刀法」とは一体、どんなものなのか。ここで、そのポイントを整理しておこう。

「『銃刀法(銃砲刀剣類所持等取締法)』とは、一般市民による銃や刃物の所持を規制するための法律です。届け出による許可を得た場合以外は銃砲・クロスボウ・刀剣類の所持や譲渡、携帯などを禁止しています」(杉山弁護士)

その規制の対象となるものの定義は以下の通り。

【銃砲】
「銃砲」拳銃、小銃、機関銃、砲、猟銃その他金属性弾丸を発射する機能を有する装薬銃砲および空気銃(圧縮した気体を使用して弾丸を発射する機能を有する銃のうち、内閣府令で定めるところにより測定した弾丸の運動エネルギーの値が、人の生命に危険を及ぼし得るものとして内閣府令で定める値以上となるものをいう(2条1項)

【刀剣類】
刃渡り15センチメートル以上の刀、「やり」および「なぎなた」、刃渡り5.5センチメートル以上の剣、「あいくち」ならびに45度以上に自動的に開刃する装置を有する飛び出しナイフ(刃渡り5.5センチメートル以下の飛び出しナイフで、開刃した刃体をさやと直線に固定させる装置を有せず、刃先が直線であって峰の先端部が丸みを帯び、かつ、峰の上における切先から直線で1センチメートルの点と切先とを結ぶ線が刃先の線に対して60度以上の角度で交わるものを除く)をいう(2条2項)

【クロスボウ】
引いた弦を固定し、これを解放することによって矢を発射する機構を有する弓をいう(3条1項)

令和4年3月15日施行の銃刀法の法改正により、クロスボウ(ボウガン)の所持も原則、禁止された。

罰則については、拳銃を違法に所持していた場合は、「1年以上10年以下の懲役」、クロスボウの場合は、「1月以上3年以下の懲役または50万円以下の罰金」などと細かく規定されている。

「ちなみに、鉄砲については、発射すると無期または3年以上の有期懲役というもっとも重い法定刑が設けられています」(杉山弁護士)

法改正によりクロスボウの所持も原則禁止となった(写真:弁護士JP)

キャンプ道具“積みっぱなし”で刑事事件の対象に?

拳銃やクロスボウはともかく、一般の人にとっても、うっかり銃刀法違反を犯してしまうケースもあるという。キャンプなどで使用されるナイフの所持などがそれだ。

「銃刀法では、『刀剣類』は刃渡り15センチメートル以上の刃、剣は刃渡り5.5センチメートル以上となっています。つまり、アウトドア道具として使う大型のサバイバルナイフなども刃体の長さが6センチ以上のものに関しては、「剣」として『業務その他正当な理由』なく持ち歩くことが禁止されています。そのため、キャンプの道中でないにもかかわらず、そうした道具を車に積みっぱなしにしているのが発見されたことにより、刑事事件の対象となったケースもありますので、注意が必要です」(杉山弁護士)

この場合、法定刑に基づけば「1月以上2年以下の懲役、または30万円以下の罰金」に処される可能性もある。

杉山弁護士は「昨年、ノコギリが銃刀法違反となるかが問題となった例もあります。結果としてそのケースでは〝無罪判決〟となりましたが」と話しているが、刃物を取り扱う際には、十分な注意が必要だ。

キャンプブームの今、サバイバルナイフを手にすることもある初心者は、銃刀法の規制についても頭の片隅に置いておいた方がよさそうだ。

  • この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。

編集部からのお願い

情報提供をお待ちしております

この記事をシェア