「初回無料」のネット通販“詐欺まがい”も…「特定商取引法」改正で消費者トラブルは解消される?

弁護士JP編集部

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「初回無料」のネット通販“詐欺まがい”も…「特定商取引法」改正で消費者トラブルは解消される?
改正法では最終確認画面で消費者を「勘違いさせるような」表示を禁止している(beauty-box/PIXTA)

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インターネット上の通販サイトなどの文言に惹かれ申し込みをしたら、知らぬ間に「定期購入」契約となり、簡単に解約ができない事態に…。このようなトラブルが増える中、6月1日に「改正特定商取引法」が施行された。

消費者庁によれば、通信販売(ECサイト等)における「定期購入」に関する消費生活相談件数はここ数年で増加(2017年~2020年にかけて約3.5倍増)。2021年は4万6734件と減少傾向に転じたが、依然として高い水準である。商品別では、「健康食品」の相談が減少している一方で、「化粧品」関連は増加しているという。

「定期購入」に関する消費生活相談件数の推移(商品別)(出典:「令和4年版 消費者白書」消費者庁)

これらを背景とした改正により、インターネットの通販業者は、購入の最終確認画面に金額や解約方法などの表示が義務付けられるようになる。消費者保護の観点から、従来のような誤解をあたえる記述は禁止され、冒頭のようなトラブルの防止や、トラブル発生時の迅速な解決が期待されている。

消費者の「勘違い」による申し込みの取り消しが可能に

特定商取引法は、1976年に「特定の商取引」を行う事業者による違法・悪質な勧誘行為を防止、「消費者の利益を守ること」を目的に制定された法律だが、時代の要請に従う形で定期的に改正が行われてきた。

今回の改正の項目はいくつかあるが、「消費者」側の視点で注目すべきポイントについて、企業法務を多く手がける、折田忠仁弁護士に聞いた。

改正「特定商取引法」によって、「消費者」側の観点からどのようなメリットがもたらされるのでしょうか。ポイントと併せて教えてください

折田弁護士:今回の改正では、業者側の「申込期間が不明瞭」「最終確認画面の表示項目の義務がなかった」点の是正が求められます。

1.申込期間が不明瞭であった

改正前の特定商取引法では、商品の購入が可能な期間の表示が明確に義務付けされていませんでしたので、「いつまで買うことができるのか」を明示せずに商品を販売できました。それ故に、購入できる期間について曖昧な表現を用いることで、消費者に「すぐに買わないと間に合わない」といった誤解を生じさせることができました。

改正後の特定商取引法では、広告表示義務の一環として「申込期間についての定め」を追加しました(法第11条第4号)。これにより、いつまでなら買えて、いつ以降は買えないのかを明示しなければならなくなりました。

たとえば、特定の季節にしか販売しない「季節商品」や一定の販売期間を決めた「期間限定商品」などを販売するには、その申し込み期限を明示する必要性が生じました。この結果、消費者は期間限定商品についてはその申込期限を知ることができ、その期限まで慌てずに購入するかどうかを熟慮して決めることができるようになります。

2.最終確認画面の表示項目の義務がなかった

通販で商品の購入を確定する「最終確認画面」は、「購入商品、その価格、支払い時期・方法等」を最終的に改めて確認するためのものですが、改正前の特定商取引法では、最終確認画面にいかなる項目を表示するのかについて明確な定めがありませんでした。

それ故に、毎月定期購入の商品を、あたかも1回限りの購入であるかのように装い販売し、月額の支払いを請求するという「詐欺まがい」の販売が多発していました。

改正後の特定商取引法では、購入直前の最終確認画面に以下の6つの項目を記載する義務を定めました(法第12条の6第1項、第11条第1号乃至第5号)。

①分量
商品の数量・購入回数・購入期間の表示が必要です。定期購入契約の場合は「各回の分量」と「総分量」を表示する必要があります。

②販売価格
消費者が複数の商品をまとめて購入した場合、個々の商品の販売価格(送料を含む)だけでなく、支払総額も表示する必要があります。定期購入契約の場合は「各回の代金」と「代金の総額」を表示することが必要です。

③支払い時期・方法
代金の支払い時期・方法を表示する必要があります。定期購入契約の場合は初回の支払い時期だけでなく、「各回の代金の支払い時期」を表示することが必要です。

④引き渡し時期
定期購入の場合には、初回に商品を引き渡す時期だけでなく、「各回の引き渡し時期」も記載する必要があります。

⑤申し込み期間
商品の申し込み期間が設定されている場合(一定期間を経過すると商品を購入できなくなる場合)には、その期間を記載する必要があります。

⑥申し込みの撤回・解除に関する事項
商品購入の申し込みの撤回や解除について、条件・方法・効果などを表示する必要があります。具体的には、返品や解約の連絡方法、連絡先、解約の条件などについて、「顧客に見えやすい位置」に表示することが必要です。

その他にも改正後の特定商取引法では、最終確認画面で消費者を勘違いさせるような表示を禁止しており(法第12条の6 第2項)、消費者の勘違いにより購入の申し込みなどをした場合には、その申し込みを取り消すことができるとしています(法第15条の4)。

このように、改正法は消費者フレンドリーな内容となっており、消費者にとってメリットは大きく、元々消費者保護のための法律ですから、デメリットは特に見当たりません。

今回の改正は主に事業者向けの義務となっていますが、「消費者」としては、本改正を受けて通販業者(ECサイト)を利用する際、留意すべき点などありますか

折田弁護士:改正法の内容を満たしているECサイトかどうかを判断できればベストですが、そのためには特定商取引法を知らなければいけないので、一般消費者には非常にハードルが高いと思います。

Amazon、 楽天、Yahooの三大プラットホームで出店している店舗なら比較的安全と思われますが、それでもトラブルは散見されます。偽ブランド品を売っている店舗も多いです。

一番重要なポイントを挙げろといわれたら、やはり「解約と返品」について消費者に分かりやすく記載しているかどうかではないでしょうか。この点を明瞭に記載している店舗は比較的良心的だと思っています。

表示を見落とすなどして誤って契約を申し込んでしまい、(不当な)請求などが来た場合に「消費者」としてどのような対応が適切でしょうか。被害を最小限に食い止めるための対応策や相談先について教えてください

折田弁護士:先述のように、改正後の特定商取引法では、最終確認画面で消費者を勘違いさせるような表示を禁止しています(法第12条の6 第2項)。消費者の勘違いにより購入の申し込みなどをした場合には、その申し込みを取り消すことができるとしています(法第15条の4)ので、これが原因で誤った場合は、申し込みを取り消せることになります。その他にも法律上取り消せる原因がある場合があります。

これに対し、完全に自分の落ち度である場合は、無条件に一定期間内に取り消せるクーリングオフの適用があるか、店舗側が無条件での返品を認めてくれていなければ、申し込みを取り消せる法的な理屈はありません。

いずれにしても、疑問を感じたら、弁護士にまたは消費者庁所管の消費者ホットライン(188)で相談すると良いでしょう。ただし、消費者ホットラインは非常に混みあっており、なかなかつながらないと聞いています。

  • この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。

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