「エビチリ」落書きは“犯罪”か、“アート”か… 器物損壊罪なら「3年以下の懲役」

弁護士JP編集部

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「エビチリ」落書きは“犯罪”か、“アート”か… 器物損壊罪なら「3年以下の懲役」
渋谷区で発見された「エビチリ」落書き(4月18日都内/弁護士JP編集部)

3月17日、太くて丸い字体のカタカナで「エビチリ」と壁に書かれた落書きの写真が、X(旧Twitter)に「このタイプの落書きでエビチリって書いてあることあるんだ…」とのコメントとともに投稿された。

その後、全国の日本各地のユーザーから「エビチリ」と書かれた落書き写真の投稿が集まり、「エビチリ」落書きは全国に存在することが明らかになった。

「エビチリ」という字面はユーモラスであるが、落書きであることには変わりない。法的な問題はないのだろうか。

渋谷や下北沢では落書き被害が急増

4月10日、フジテレビの情報番組「めざましテレビ」は「エビチリ」落書き問題を特集。渋谷駅周辺では29個も「エビチリ」落書きが見つかったという。

また、同番組では、深夜の下北沢駅周辺で男性が落書きを行っている現場も撮影した。テレビスタッフに声をかけられた男は、以下のように語った。

「自分は書きたい場所に書いているだけ。人の家だろうが、公共だろうが、国のなんちゃらだろうが。みんなそういうの思い思いに書いたりするのがアートなんで。それで成り立っている世界なんで」

下北沢一番街商店街では月に4~5回、落書きの被害に遭っているという。

番組内では、下北沢商店連合会の大木弘人会長が「とにかくやめてください。汚れますので。自分の家でやってください」と訴えていた。

また、下北沢東会(商店街)の金子健太郎会長も「他人のものを傷つけるのと一緒ですからね。迷惑条例違反でもあるし、落書きは自分のところでやれと」と、憤りを明らかにしていた。

ポールにも「エビチリ」の落書き(4月18日都内/弁護士JP編集部)

落書きは「犯罪」なのか、「アート」なのか

公共物に落書きする行為は、建造物損壊や器物損壊にあたる。

(建造物等損壊及び同致死傷)

第二百六十条:他人の建造物又は艦船を損壊した者は、五年以下の懲役に処する。よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。

(器物損壊等)

第二百六十一条:前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。

しかし、「めざましテレビ」のスタッフに取材された男が語ったように、近年では「落書きではなくアートだ」と主張する人も多い。

壁や建物、電車など公共の場所にペンキやスプレーで描かれる落書きは「ストリート・アート」や「グラフィティ」と呼ばれることもある。

2月まで東京都の森アーツセンターギャラリーで展覧会が開催されていたキース・ヘリングの作品もストリート・アートだ。また、2023年10月、小池百合子東京都知事は「あのバンクシーの作品かもしれないカワイイねずみの絵が都内にありました! 」と、都内某所の落書きと一緒に自分の姿を写した写真をXに投稿した。

へリングやバンクシーの作品が美術館や都知事にも認められる「アート」だとすれば、犯罪であるただの「落書き」との違いはどこにあるのだろうか。

海外での生活経験もある杉山大介弁護士に聞いた。

区役所や警察も「落書きは犯罪」と警告している(4月18日都内/弁護士JP編集部)

落書きも「表現の自由」?

落書きとアートの違いを分ける、法律上の明白な基準はあるのでしょうか?

杉山弁護士:すくなくとも法律の議論では、「アートだから無罪」という主張は基本的に受け入れられないと思います。

絵を表現する場所は、他人の家以外にもあります。他人の家や建造物に落書きする行為を「アート」と認めて法律で保護してしまうと、今度は家や建造物の所有者が持つ「財産権」が後退してしまいます。そこまでして落書きを保護する理由はないと考えられます。

器物損壊は、被害者からの告訴がなければ検察が起訴できない、親告罪です。落書きが犯罪として取り扱われないことが多いのは、器物損壊という程度にとどまっており、権利者が告訴せず事件化しないからに過ぎません。

落書きする行為そのものが適法であるということは、ほとんどないでしょう。

なお、ストリート・アート以外の分野で「芸術であるかどうか」が法律的に問われる問題としては、文学作品などにおける「わいせつ表現」があります。この場合については、文章中に占めるわいせつな表現の量や程度などを考慮しながら、違法か適法かを判断するケースがあります。

落書きを取り締まることと「表現の自由」の兼ね合いについて、法律上はどうバランスを取っているのでしょうか。

杉山弁護士:憲法では、その自由が認められるべき理由と、それが規制されることでどうしようもならなくなる程度についてを細かく分析しながら、「許容される自由」の程度を判断していきます。

ストリート・アートについては、他人の家や建造物を勝手に使わなくても、キャンバスに描いて展示したりネットで表示したりするなど、自分の描いた絵を他人に見てもらう手段は他にあります。

憲法的には「他人の家を勝手に使うことまで認める理由が見当たらない」と判断されることになるでしょう。

ただし、ストリート・アートの政治的な背景や歴史的背景をふまえると、政治権力が特定の落書きだけを問題として取り上げ、非親告罪である建造物損壊で狙いうちにするといった極端な事態が起こった場合には、憲法による保護が必要な場面もあるかもしれません。

とはいえ、一般的な落書きについては「自分の家や自分の持ち物でやりなさい」という結論になるでしょう。

  • この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。

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