プライベートでの「不適切なSNS投稿」が勤務先に発覚…「クビ」になるのはどんな場合か?

弁護士JP編集部

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プライベートでの「不適切なSNS投稿」が勤務先に発覚…「クビ」になるのはどんな場合か?
プライベートでのSNS投稿には細心の注意が必要(※写真はイメージです。webweb/PIXTA)

裁判官の岡口基一氏が、4月3日、プライベートでのSNS投稿を理由に弾劾裁判で罷免された。弾劾裁判による罷免は、裁判官の地位を失うだけでなく、今後最低5年間は法曹資格を失い、弁護士としての活動もできないという重大な効果をもたらす。そこで気になるのは、一般のサラリーマンがプライベートでSNS上に不適切な投稿をし、それが勤務先に発覚した場合に、勤務先からの処分等、どのような不利益が生じうるかということである。

公務員と一般サラリーマンとでは「完全に別」

まず重要な大前提として、裁判官のような公務員と、一般サラリーマンとでは、どのような点が異なるだろうか。企業法務とネット上の表現に関する問題に詳しい杉山大介弁護士に聞いた。

「公務員の懲戒処分と、企業における懲戒処分では、処分対象となる事由も、下すことができる処分の内容・程度もまったく異なります。

公務員の方が処分対象が広く、かつ、処分の内容も重くなっています。

これに対し、一般企業の場合、従業員に対する監督権限は、業務に支障をもたらすケースについて認められているものです。倫理的な指導を行ったりすることまで当然に許されるわけではありません。

今回の岡口裁判官の件も含め、公務員について話題になっている事案は、一般サラリーマンとは全く別のものとお考え下さい」(杉山大介弁護士)

そもそも岡口裁判官はすでに分限裁判により懲戒処分(戒告)を受けており、そのうえで、弾劾裁判にかけられていた。

岡口裁判官に関して問題とされた弾劾事由は、「職務の内外を問わず、裁判官としての威信を著しく失うべき非行があつたとき」(裁判官弾劾法2条2号)というものである。これは、あくまでも、裁判官という特殊な地位と職責に基づくものといえる。

一般サラリーマンのSNS投稿が懲戒処分の対象となる場合

では、一般サラリーマンがSNS投稿をして、勤務先から懲戒処分を受ける可能性があるのはどのような場合か。思い浮かぶのは、以下のようなケースである。

・勤務時間中の投稿
・勤務先の業務にかかわる暴露の場合(機密情報・顧客情報)
・投稿自体が犯罪行為になる場合(名誉棄損・脅迫)
・著しく不適切な場合(公序良俗違反、企業イメージを傷つける)

ただし、杉山弁護士によると、実際には、懲戒処分にまで至るのは、企業を危険に陥れるような相当重大な事態に限られるという。

「重要な考慮要素は、企業として監督が必要な事情があるかということです。

たとえば、所属企業がわかる形で、同僚や顧客の悪口を書き込む行為は、取引上の支障も生じるので、企業として監督が必要でしょう。

これに対し、政治的意見を表明することについては、基本的には企業が口を出せることではありません」(杉山大介弁護士)

サラリーマンの「懲戒処分」はよほどの場合に限られる(※写真はイメージです。show999/PIXTA)

懲戒処分の「相場」とは?どんな場合に「懲戒解雇」になるか

では、懲戒処分の相場・運用は実際にはどうなっているのか。懲戒処分は減給、出勤停止、懲戒解雇等が考えられるが、杉山弁護士によれば、特に出勤停止や懲戒解雇についてはきわめて慎重に運用されなければならないという。

「一般企業の場合、懲戒処分を発動できるのは、従業員がそのような重大な不利益を被ってもやむを得ないような場合に限られるということです。

たとえば、『1週間の出勤停止』でさえ相当に重い処分です。1週間分の給与収入を得られないというだけでも、従業員にとってはきわめて重大な不利益です。

『1か月超える出勤停止』ともなれば、解雇に値するくらいの事情が必要だといえます」(杉山大介弁護士)

もし、そのような事情がないのに懲戒解雇をすると、解雇権の濫用にあたり、解雇は無効となる(労働契約法16条参照)。

では、懲戒解雇が認められるのはどのようなケースなのか。

「懲戒解雇は、その人間を企業に存在させると直ちに重大な損害が生じるようなレベルでなければ、下すことができません。

たとえば、情報漏洩は、そのようなことをする人間がいるというだけで企業に重大なリスクが生じるため、懲戒解雇に繋がる可能性があるものです」(杉山大介弁護士)

杉山弁護士は、直近の具体例として、2023年11月、NHK職員が、取材メモを勝手に複製してインフルエンサーの「暇空茜」氏に漏洩したことを理由に懲戒解雇された事件を挙げる。

「この事件では、取材メモを当該インフルエンサーに漏洩すれば、インターネット上で拡散されることが容易に予見できたはずです。

また、取材対象に関する情報保護は報道機関において基幹的な価値があります。

そのような情報を外部に漏洩する人間は、会社に立ち入らせるだけでも危険です。したがって、懲戒解雇という処分を下したのは妥当と言えます」(杉山大介弁護士)

一般サラリーマンの場合、SNS上で不適切な内容の投稿をしたからといって、懲戒処分、特に出勤停止や懲戒解雇にまで至ってしまうのはよほどのことかもしれない。しかし、SNS上の投稿は拡散されやすく、愚痴や憂さ晴らしのつもりで軽い気持ちで書き込んだことが勤務先企業に重大な損害をもたらす可能性もゼロではない。

自身の業務や勤務先にいささかでも関連する投稿については、どのようなことであっても細心の注意を払うことが求められるといえる。

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