北海道・江差高看パワハラ事件「謝罪を受けなければよかった」道側の曖昧な“誠意”に遺族の憤り

小林 英介

小林 英介

北海道・江差高看パワハラ事件「謝罪を受けなければよかった」道側の曖昧な“誠意”に遺族の憤り
24年度の江差高等看護学院への入学者は4人(写真/小林英介)

「北海道の鈴木直道知事が会見で『誠意を見せる』と発言したのは一体何だったのか」

遺族はこう思っているはずだ。北海道・江差高等看護学院で起きたパワハラ自死事件。遺族側弁護士と北海道側の弁護士がやり取りする中で、新しい問題が出てきている。

知事謝罪も、道側弁護士「因果関係認められない」

江差高等看護学院の男子学生が自ら死を選んだのは2019年。第三者委員会が設置され、教員らのパワハラによって、男子学生が自死を選択したとして相当因果関係を認めた。そして23年5月に道保健福祉部の幹部が遺族に対して直接謝罪。北海道の鈴木直道知事も同月の会見で謝罪した。

その後、遺族側弁護士が道側に対してパワハラと自死に相当因果関係があることを前提として、賠償請求を行った。これに対し、道側の弁護士は、「ハラスメント行為と自死との相当因果関係は認められない」旨の回答を遺族側弁護士に送付したのだった。

和解提案も「できない」、「謝罪を受けなければよかった」遺族の悲憤

本稿記者の取材に応じた遺族側弁護士によると、道側弁護士から「死亡という結果に対する賠償は難しい」との回答を受けたという。再考を求めたが、同じ回答を受けたとした。それならばと思い、遺族側弁護士は道側の弁護士に道が認めている部分の和解を提案した。しかし、それすらも「できない」と連絡を受けた。

「こんなことであれば、謝罪を受けなければよかった」

遺族側弁護士が連絡する度、遺族は泣きながら話すという。遺族側弁護士が報道機関に提供した資料には、次のような文章がつづられていた。

「道側の一連の対応は、遺族側からすれば誠意がなく、遺族側が精神的に参ってあきらめるか、今回の事件を長引かせ世間の関心が無くなるのを待っているようにも思える内容」

そして、道側の弁護士に対して「昨年5月15日に行われた道から遺族への謝罪が、何に対する謝罪であったのか、第三者委員会の調査書の具体的にどの部分の謝罪であったのか」について、今月月4日から1か月以内に書面で回答するよう求めている。

「誠意」とは何なのか、道はあいまいな答弁に終始

4月9日。北海道議会常任保健福祉委員会。この日、質問に立った平出陽子議員(民主)が道側に迫った。

「自死した学生の代理の弁護人が、事件に関して、『話し合いは事実上決裂したも同然である』との文書章を発表した。道側は(交渉が)決裂したとの認識か」

問いに対し、道保健福祉部の担当者は、「遺族側代理人からは協議の打ち切りといった話はいただいていない」「4月4日付の連絡文書では、引き続き道の対応が求められている。遺族側代理人の協議は続いているものと認識している」と答弁した。

続いて、「誠意」の意味を問いただした。鈴木知事は昨年の会見から度々「誠意」との言葉を使っているが、具体的な内容には言及していない。

「第三者調査委員会調査書の結論部分にある、最終的な要因については確定できないが、 少なくとも本学院における学習環境が要因になったものと認定でき、自死との相当因果関係は認められるとの記載など、調査書全体の内容を踏まえ、道の法的責任や賠償範囲などについて代理人などと検討を行ってきたところ。現在、遺族側代理人弁護士と道の代理人弁護士との間で文書や電話により協議を重ねているところであり、遺族側のご意向などを伺いながら、丁寧かつ誠意を持って対応してまいる」

道側はあいまいな対応に終始した。

高看への入学者4人、パワハラ事件の影響も?

道が明らかにした24年度の江差高等看護学院への入学者はたったの4人で過去最少。定員は40人で定員割れとなっている。定員が少なくなりはじめたのは入学者数が30人だった17年からで、翌年は23人、19年は16人、20年には19人と少し増えたものの、21年から11人、8人など減り続けており、パワハラ事件が火に油を注ぐこととなった。

鈴木知事は、本当に「誠意を見せたい」と思っているのだろうか。遺族が抱く不信感は、募るばかりだ。

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