現役自衛官セクハラ訴訟 「迷走してる」原告弁護団が指摘する国側の主張

弁護士JP編集部

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現役自衛官セクハラ訴訟 「迷走してる」原告弁護団が指摘する国側の主張
弁論後会見を開いた弁護団の武井由起子弁護士、佐藤博文弁護士、田渕大輔弁護士、金正徳弁護士(3月25日都内/弁護士JP編集部)

航空自衛隊で働く現役の女性自衛官が、同僚であるベテランの男性職員からセクハラ被害を受け、自衛隊側に申告するも適切な対応が取られなかったとして、国に対し慰謝料など約1100万円を求める裁判の進行協議(非公開)と第6回の弁論が3月25日、東京地裁で行われた。

原告の女性は那覇基地に着任した2010年から、身体的特徴や性行為に関する発言を繰り返しされるセクハラ被害に遭い、2013年に上司に報告。以来10年にわたって、自衛隊・防衛省のさまざまな機関に被害を申し立てたが、一向に適切な対応がとられなかった。

25日に行われた弁論で、原告側は法廷内のテレビ画面に、「自衛官の人権弁護団」が独自に実施した自衛隊内のハラスメント可視化を目的としたアンケートの結果や防衛省による特別防衛監察の結果を映しながら主張を行った。

「自衛官の人権弁護団」が行ったアンケートでは、隊に対してハラスメントの申告をした被害者の6割が、相談を理由に退職強要や減給、昇任留保など「不利益扱い」を経験していたことがわかった。

原告弁護団は「隊内でハラスメント被害者が声をあげることが難しい現状や、セクハラを訴えても隊や防衛省が適切な対応をせずに被害者側が不利益を被る実態がある」と述べ、これらの結果が「原告の主張とも合致する」と訴えた。

一方、国の主張については公開の場で聞くことはできなかった。防衛省は弁護士JPの取材に対して、「個別でお伝えできることはなく、主張等は裁判で明らかにしていく」と回答した。

「組織的なハラスメントの撲滅はできない」理由

弁論後に行われた記者会見で、弁護団の田渕大輔弁護士は、国側の書面での主張について次のように説明した。

「国は、隊内で具体的な安全配慮義務を負う『履行補助者』を隊長レベル以上の幹部に持っていこうとしている。班長レベルなら現場で起こっていることはリアルタイムで知っているはずだが、通常現場にいない幹部が『履行補助者』になれば、『セクハラが起きていたことを知らなかったから、防止措置を取らなくても責任がない』と言い逃れできると考えて、主張しているようだ。

しかし、班長の目の前でセクハラ被害が起こっても、班長は『履行補助者』ではないから責任がない。何もしなくていい、と主張できるとしたら組織的なハラスメントの撲滅はできない。当然、幹部も現場に問題の報告を上げさせて、組織全体としても対応することが必須だが、現場で起きていることはまず現場が責任をもって対応するべきだ」

その上で、田渕弁護士は国側の主張を「逃げの一手で、迷走している」と指摘。「(進行協議では)裁判官も釈然としない雰囲気をかもしだしていた」と話した。

12か所から放置された原告のセクハラ

原告の女性はセクハラを受けてからこれまで、①班長、②セクハラ相談員、③法務班、④セクハラホットライン(防衛省人事局)、⑤航空幕僚幹部セクハラ相談室、⑥防衛省・自衛隊公益通報窓口、⑦総隊司令官、⑧河野克俊統幕長(当時)、⑨防衛監察、⑩法務省、⑪人事院、⑫特別防衛監察など12か所にセクハラ被害を訴えている。

しかし、隊長からは「加害者にも家庭がある」、セクハラ相談員からは「我慢するしかない」などと言われるなど、12か所すべてが適切な対応を行わなかったという。

また、原告は2016年に、那覇地方裁判所で加害者を被告とする訴訟を提訴。しかし、那覇地裁は、「仮に違法であっても国家公務員である加害者個人(被告)が不法行為責任を負うことはない」として、女性の訴えを退けた。加害者は、隊内で戒告処分を受けた。

当時、加害者側も原告の訴えは事実無根として反訴したが、裁判所は「原告の尻や胸等の身体部位に関する発言や性行為に関する発言等は職場における発言内容として不適切」「社会的に相当な程度を超えて原告の人格権を侵害する違法なセクハラ発言に当たると判断される可能性は十分にある」として請求を棄却した(加害者は控訴するが、福岡高裁那覇支部が棄却)。

現在の裁判で原告は、加害者個人の責任ではなく、加害者を雇用する国の「安全配慮義務違反」を問うている。次回期日は6月17日。非公開の進行協議と弁論が行われる。

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