ドラマ好きな弁護士が、あえて突っ込んで楽しむ『石子と羽男』5 ~お隣さん問題~

ドラマ好きな弁護士が、あえて突っ込んで楽しむ『石子と羽男』5 ~お隣さん問題~

『石子と羽男』(8月12日放送)の第5話は、大きなニュースにはなっていないものの、常に存在し続けるお隣さんの問題でしたね。

私も2021年12月に、テレビ朝日放送のモーニングショーで、隣のゴミ屋敷問題に絡んで取材を受けたことがあります。こういう話題では、そもそも「法律問題」になるのか、また「法律的な手段が使えるとして状況を改善できるのか」といった問題が出てきます。そして、その取り扱い領域は、いくつかの段階を経て広がってきました。つまり、お隣さんの法律問題は、今も発展途上にあります。

今回はドラマの話の背景にあった、お隣さん問題の歴史、発展の流れを追ってみたいと思います。

1. 木の章 ~民法が用意した所有権の調整規定~

物語は、家の木の枝が別の人の敷地に入り込んでいるというところから始まりました。

法律と裁判は、歴史的にも人々の利益調整を大きな役割としてきました。武士たちや農民たちの土地争いを裁くシーンは、鎌倉殿の13人でも出てきていましたね。そのような代表的な問題ですので、わが国でも民法に、所有権者同士の調整を目的とした条文が最初から組み込まれました。それが、民法209条から238条に規定されている相隣関係です。

ラインアップは、「土地に至るための道は使わせてあげなさい」といった現在でも通じるものもありますが、水流に関する期待が多いのも特徴です。何となく、田畑がイメージされているとわかりますよね。そして、羽男くんが引用していたのが、『民法233条』です。この条文、トリビア的に面白いところもあり、「枝葉」は相手に切らせることができる一方、「根」は自分で切ることができます。木の問題を処理するのに、他人の土地に立ち入らずに行うにはどうするのかというのを、具体的に考えた結果だと思うと、立法者の議論が想像できて面白いです。

上記は今やただのトリビアですが、具体的な人の動きをとらえてまで最良のバランスを求めて行く姿勢は、その後、お隣さん問題の発展の中でも磨かれていきます。

2. 温泉の章 ~民法が規定していなかった調整弁としての権利濫用論~

民法はお隣さんのために配慮すべきカタログをちゃんと用意していたのですが、その限界は昭和の初期からすでに生じました。

宇奈月温泉事件(大判昭和10年10月5日)は、黒部川上流から宿まで温泉を引いていたところ、その途中の土地を購入した人間が土地に勝手に温泉を通す設備を撤去しろと求め、嫌なら高額で土地を買い取れと裏で仄(ほの)めかした事件です。

民法には、自分の土地に温泉を通してあげなさいというルールは存在しなかったため、民法だけからすると請求者は所有権を行使しているだけということになるはずでしたが、「権利濫用」であるとして請求は棄却されました。

この場合は、請求者の悪質さも大いに作用したわけですが、同時に今までの利用形態や現状変更に必要な費用など、お隣さん同士の利益衡量(りえきこうりょう※裁判や法律の解釈にあたり、対立しているお互いの利益を比較して、どちらをとるかを決める)もされた点で、重要な先駆けになりました。

法律に明記してなくとも、法律がお隣さんの調整のために介入する道筋が広がったのです。

3. 光と音の章 ~受忍限度論の誕生~

日本は関東大震災の反省もあってか、建築基準法によって高層建築物の建設を長らく制限していました。ところが、高度経済成長と人口増加の中で土地と建物が不足してきた日本は、昭和45年にはついに31mの高さ制限を撤廃するに至ります。そのような高層建築ラッシュの時代に、「日照権」を争う訴訟も起きました。高い建物が建てられたことで、自分の土地の光が奪われていると訴える人が出てきたのです。

これも、所有権的に言えば、お互いの土地をそれぞれ自由に使っているだけであり、法が当然に介入すべき場面とは言えません。そこで、被害が「受忍限度」を超える時には権利濫用として違法となるという判例も出てきました。この「権利濫用として」と挟んでいるのは、宇奈月温泉の頃の議論の名残です。同時期に問題となった騒音の事件でも、あくまで受忍限度を超える時には違法と、権利濫用を挟まずに論じられます。

そしてこの受忍限度を超える、辛坊ならん程度に至っている場合に違法性を認めるというロジックを、今回の話でも羽男くんは前提としていました。お隣さんであれば、音くらいは聞こえてきますし、問題なし。一方で夜中に執拗(しつよう)に音を聞かされるのまでは想定されておらず、受忍限度を超えるといった仕分けが、羽男くんの中にあったわけですね。

4. 臭の章 ~進化し続けるお隣さん問題~

受忍限度を超えるかという基準から、さまざまなお隣さん問題での訴訟が現在でも起きて来ています。私が興味をひかれた裁判例のひとつが、同じマンションの住人に対して起こした、猫のうんちの臭いが受忍限度を超えるものであり、不法行為に基づく損害賠償請求を認めるだけでなく、猫への餌やりについて差止めを認めた事件です(平成20年(ワ)第2785号)。マンションの住人が複数で訴えた結果、合計70万円くらいの損害賠償額も認容されてもいます。

木の枝や根、温泉の管などの現物から、光、音とより抽象的なものが問題としてとらえられ、ついに生活臭まで法律により捕捉されるようになったと、私は画期的に思いました。

このように、お隣さん同士で許せないことは、どんどん広がっています。それは、お隣さんの在り方が、社会と共に変化してきたあらわれでもあります。

5. 次回は正直不動産の臭い

石子と羽男は、次回も不動産関係の話がテーマのようですね。実は今回、お隣さん問題以外にもう一点、法律問題を扱って良い人と程度についてを考える「非弁行為」も大事なポイントだと思っていました。これは不動産取引を巡っても出てくる問題ですので、次回関連性があれば言及したいと思います。

杉山 大介
杉山 大介 弁護士

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  • こちらに掲載されている情報は、2022年08月17日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

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