仕事をえり好み「1000日以上」指示を待ち続け…積極性皆無“地雷社員”に裁判所が下した判断

林 孝匡

林 孝匡

仕事をえり好み「1000日以上」指示を待ち続け…積極性皆無“地雷社員”に裁判所が下した判断
会社は長年ガマンしてきたものの、積極性の無さは改善されず…(EKAKI / PIXTA)

こんにちは。弁護士の林 孝匡です。指示待ち社員に退場(解雇)宣告した事件を解説します。

ーー 仕事をえり好みするお荷物社員だったとか?

会社
「自分の苦手な仕事を積極的に取りにいかないんです。基本的に指示待ちですし、ほかの社員をサポートすることもほぼせず、『私の担当領域の仕事を会社が振らないんだから積極性を発揮できるわけがない』などと言い出しました。最終的に解雇しました」

ーー 裁判所さん、いかがですか?

裁判所
「解雇OK! Xさんの考え方は偏屈だ」

(アクセンチュア事件:東京地裁 H30.9.27)

能力不足で解雇OKになるケースは少ないんですが、積極性がカナリ欠如していれば解雇OKになることがあります。以下、詳しく解説します。

※ 争いを簡略化した上で本質を損なわないよう一部フランクな会話に変換しています

登場人物

▼ 会社
・コンピューターソフトウェアの制作販売などを行う会社

▼ Xさん
・システムを保守・運用する業務を担当
・48歳くらい(解雇当時)

事件の概要

Xさんは入社してから約8年で解雇されます。

ーー どんな社員だったんですか?

会社
「とにかく積極性がありませんでした。たしかに自分の得意分野では技術力を発揮するが、不得意分野では積極性が欠けてました。仕事をえり好みするんです。コミュ力もダメでしたね。他の社員と協力して取り組まないんです...」

ーー たまにいる地雷社員ですね …

会社
「ほかのメンバーの仕事を手伝ったりせずにインターネットをずっと見て時間を過ごしていた時もありました。なので注意したんです。仕事は与えられるものではなく自分で見つけるものですよ、積極的に探しにいかないとダメだと」

ーー 会社はこう言ってますけど、Xさんのお考えは?

Xさん
「積極性というのはあくまで会社が私の担当領域の仕事を与えていることを前提とするものであり、領域が与えられていない以上は活動の場がないので、積極性を発揮することがそもそも不可能です」

ーー うざっ。つべこべ言わず苦手な仕事でもやれよ! って感じですね。

▼業務改善プラン
会社は8年くらいガマンしたのですが、ようやく解雇に向けて動き出します。いきなり解雇しても裁判で負けると考えたのでしょう。約3か月間の業務改善プランを実施しました(通称 PIP:「Performence Improvement Plan」)。

Xさんに伝えられた問題点は、

・受け身的な発想(「上司が指示しない限り自分の仕事はない」と考える点)
・技術力があるという理由で他の社員とのコミュニケーションを二の次と考える点
・新たな分野が担当領域になった際に尻込みすることがあり学習意欲に欠ける点

そして会社はXさんに対して「3か月以内に改善しなければ解雇する」と告げました。

▼ 解雇
3か月間、会社はXさんの働きぶりを見ていましたが、改善せずと判断。会社は解雇する前に合意退職案を出しました。2か月分の給料の解決金と再就職支援サービスの提供です。しかし、Xさんは受け入れなかったので、会社は解雇に踏み切りました。以下の就業規則に基づく解雇です。

■ 就業規則
社員の業務能率または就業状況が著しく不良で就業に適しないと会社が認めた場合

ジャッジ

弁護士JP編集部

裁判所
「解雇OK! 理由はザッと以下のとおりです」

・たしかに自分の得意分野における技術力は高い
・しかし不得意分野の作業を率先して行わない
・作業を早く完了させて他の仕事を取りにいく姿勢がない
・基本的に指示待ち
・完了させても上司に報告しない
・自分の空き時間を関係者に知らせない
・ほかのメンバーの仕事を手伝うなどの主体性、積極性がない
・積極的に研さんする機会が与えられたのに、1000日以上の仕事待ち状態のときでも何の計画性も持たずに漫然と時間を費やした

ーー 会社から与えられた仕事をえり好みしていた点は、いかがでしょうか?

裁判所
「自分の不得意な仕事だから活躍の場が与えられてない! とか、偏屈な考え方です。会社の指示に従わず手待ち時間を漫然と過ごしており、解雇OKを基礎付けるひとつの事情として認定しました」

裁判所
「Xさんは、自身の問題点をそもそも自身が得意とする仕事を割り振られていない会社側の問題点であるとすり替えて、自らの意識や仕事ぶりを全く顧みることなく、他のメンバーとの協働に支障を来していることにも思いが至っていない。『積極性』の意味を手前勝手に解釈してこれに反する考えを一切受け入れず、ほか諸々の事情を考慮すると、本件解雇は社会通念上相当です」

というわけで解雇OKとなりました。会社はよく8年もガマンしましたよね。裁判所は「8年も改善しなかったんだから改善の余地ナシだな」と判断したと思います。でも、たとえ1年目であったとしてもこれほどの地雷社員であれば解雇OKになる可能性はあると思います。

ただ、いきなり解雇しても裁判所が「ダメ〜」というおそれがあるので、今回の会社がとったような数か月の業務改善プラン(PIP)を実施することは必須だと思います。コツコツと手順を踏んでいくことが肝要です。

今回は以上です。これからも労働関係の知恵をお届けします。またお会いしましょう!

取材協力弁護士

林 孝匡 弁護士
林 孝匡 弁護士

【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。情報発信が専門の弁護士です。 専門分野は労働関係。好きな言葉は替え玉無料。 HP:https://hayashi-jurist.jp X:https://twitter.com/hayashitakamas1

所属: PLeX法律事務所

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