「JAL初の女性社長誕生」が注目される違和感…“男女が真に平等な職場”を実現するために必要なシンプルな視点

新井 健一

新井 健一

「JAL初の女性社長誕生」が注目される違和感…“男女が真に平等な職場”を実現するために必要なシンプルな視点
女性社長は日本航空70年の歴史でも初(natchan / PIXTA)

2024年4月1日より、日本航空(JAL)では鳥取三津子氏が社長に就任する。代表取締役専務執行役員からの昇格となる。鳥取社長下の4月1日~役員体制は、9人中女性2人(鳥取氏、三屋裕子氏:非常勤、社外)で変更はない。

同氏は客室乗務員(CA)出身で、現在は代表取締役専務執行役員 カスタマー・エクスペリエンス本部長、グループ CCO(最高顧客責任者)を務めている。

女性社長の選定は、70年を超えるJALの歴史の中でも初。CA出身の社長抜擢もはじめてだ。日本の伝統ある大企業で、女性が社長に就任するのは異例といっていい。加えて生え抜きでなく、他社(JAS)出身という経歴も相まって、同社の決断が注目されている。

もっとも、このことは同社のような歴史ある日本企業において、女性の活躍がまだまだ進んでいないことの裏返しでもある。

主要先進国では「最下位」が女性活用の実状

平成27年に制定された「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(女性活躍推進法)は、

・性別による賃金格差を是正すること
・女性を重要なポジションに登用すること

など、女性がより個性と能力を発揮して職場生活で活躍するための環境整備やポジティブアクションを日本企業に義務づけたもの。制定から約8年が経過しているが、実態はどうなのだろう…。

たとえば、世界経済フォーラムの世界男女格差報告書の2023年版によれば、日本のジェンダーギャップ指数は146カ国中125位で、G7(主要7カ国)中最下位だ。

同報告書は、各国の男女格差を「経済」「教育」「健康」「政治」の4分野で評価。この中で、「政治」(国会議員の男女比や閣僚の男女比など)と「経済」(同一労働における男女の賃金格差、管理的職業従事者の男女比など)の分野が、他の分野に比べて大きく順位を引き下げる要因となっている。

東証プライム上場企業に限ると、女性の社長比率は1%未満

日本企業の女性社長比率をみると、やはり“活躍推進”が浸透しているとはいえない状況だ。全事業会社では10%に満たず、かつJALのような東証プライム上場企業に限ると、女性社長比率は1%にも満たないとの調査結果もある。

また、同東証プライム上場企業における女性の役員比率にしても、G7の平均と比べて3分の1にも満たない…。

推進しても女性管理職が増えない2つの「ふざけるな」

この実態をみれば、やはり男性が職場において、女性の個性や能力の発揮を妨げているからなのか…。令和になっても男性中心の社会が引き継がれているというのだろうか…。そんな思いも頭をもたげる。

ひと昔前であれば、筆者も人事の現場を熟知するものとして、働き手が男性ばかりの職場生活において、“妨害”とは言わないまでも、「そのような実態があった(であろう)ことは否定できない」と答えた。しかし、いまは同じように発言をしても的確ではないという認識がある。

その理由は企業の女性活躍推進室長など、その任にあたる女性管理職からこんな相談を受けるからだ。「女性活躍推進について女性社員に働きかけると、言葉は悪いですが2つの異なる『ふざけるな』が返ってきます」。

1つめの「ふざけるな」は、「これまでも男性社員と対等に渡り合ってきたはずの我々に、今さら女性活躍推進を担えなどふざけるな、バカにしているのか」というもの。

2つめは、「これまでも家庭と仕事をなんとか両立させてきたのに、『管理職になれ』なんて重責を押し付けてきてふざけるな、家庭を崩壊させる気か」というもの。要は職場生活におけるこれまでの女性をその立場や思いをひと塊にして、男性との対立構造に押し込むことはできないということだ。

「女性が」に感じる強烈な違和感

筆者は外資系企業のキャリアが長かったため、今回のような女性がトップになることになんの違和感もない。逆にいえば、「女性がトップになる経営的なプラス面はどうなのか」という見方があるとするなら、そこには強い違和感を抱く。

優れたトップなら経営のプラスになることは間違いないと思うからだ。それが女性か男性かは全く関係ない。

本来、優れた個性、能力に「性差」は存在しないはずだ。たとえば「LGBTQがトップになる経営的なプラス面」だとしたら、どのように答えるか。それと同じくらい、「女性が」を主語にして能力を語ることに違和感を覚える。筆者だけだろうか…。

男女が真に平等な職場になり切るために必要な本質的な要素

「女性が」というフィルターをいったん外し、まずは、生物学的な性別などの属性ではなく、シンプルに「個」に目を向ける。そして、その個性や価値観を理解し、その個性や価値観が職場生活によい影響をもたらすよう、自分に何ができるのかを真摯に考えて実践するよう努める。その際、自らのアンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み、偏見)についても意識して点検する必要もあるだろう。

職場生活とは、そもそも仕事をするために存在する。それ以上でも、以下でもない。なにより、職場はその範疇を超えた個人の欲や利己心を充足する場ではない。

いま我々がこの本来当たり前の原点に立ち戻れば、叫ばれ続けて久しい「男女が真に平等な職場」が実現する日もそう遠い将来の話ではないと思っている。

新井健一(あらい・けんいち)
経営コンサルタント、アジア・ひと・しくみ研究所代表取締役 1972年神奈川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、大手重機械メーカー人事部、アーサーアンダーセン(現KPMG)、ビジネススクールの責任者・専任講師を経て独立。人事分野において、経営戦略から経営管理、人事制度から社員の能力開発/行動変容に至るまでを一貫してデザインすることのできる専門家。著書に『働かない技術』『いらない課長、すごい課長』(日経BP 日本経済新聞出版)『事業部長になるための「経営の基礎」』(生産性出版)など。
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