「まさか…」オンラインカジノ運営会社が初の摘発 7万人以上の利用会員や広告で“誘導”した人も罪に問われる?

弁護士JP編集部

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「まさか…」オンラインカジノ運営会社が初の摘発 7万人以上の利用会員や広告で“誘導”した人も罪に問われる?
はじめて運営側が摘発され、会員間でも動揺が走っている(DORA麻雀サイトより)

京都府警はインターネットで賭けマージャンをさせる賭博場開帳図利の疑いで、米国籍の36歳の男ほか、日本国籍の男女7人(25〜47歳)を逮捕したと2月19日発表した。オンラインカジノのサイト運営者の摘発は初めてで、7万4000人ともいわれる会員間では、「まさか」と動揺が走っているという…。

日本は公営ギャンブル以外、刑法で禁止されている

国内では公営ギャンブル以外の賭博は刑法で禁じられており、海外サイトでも国内から接続して賭博をすれば違法となる。オンラインカジノについては、岸田総理自ら、厳正な取り締まりを行うと宣言もしている。

警察庁の発表によるとこれまでに、

・日本国内の自宅において、自宅に設置されたパーソナルコンピューターを使用して、海外の会社が運営するオンラインカジノサイトにインターネット接続し、同サイトのディーラーを相手方として賭博をした賭客を単純賭博罪で検挙
・日本国内の賭客を相手方として、日本国内の賭客の自宅等に設置されたパーソナルコンピューターから、海外に設置されたサーバー上のオンラインカジノサイトにアクセスさせ、金銭を賭けさせていた者を常習賭博、賭客を単純賭博罪で検挙

などの事例が報告されている。

令和2年から令和4年にかけては、検挙数・検挙人数がそれぞれ16件121人、16件127人、10件59人で推移している。

「海外は合法だから大丈夫」は誤認

こうした状況下でも、これまではサイト運営側が、「違法性はない」などとアピールしていたことに加え、「海外で合法だから大丈夫だろう」という誤った認識の利用者も少なくなく、「グレーゾーン」的に多くの利用者が集まっていた。

問題のサイトは、海外法人が開設した会員制マージャンサイト「DORA麻雀」で、運営側は出入金の管理や広告宣伝などの役割を担い、収益の10~15%を徴収していたと見られている。

ライセンスがあれば”合法”のように安心を強調していた(DORA麻雀サイトより)

同サイトは、ご丁寧にも「オンラインカジノが合法の英王室領マン島のライセンスを取得しているので、違法性はない」とうたい、証明書の提示までしていた。

さらに、常習賭博などを違法とした「刑法第185条」について解説したり、「過去の判例を顧みると1万円未満はセーフ。1万円を超えるとアウトというのが一つの目安になります」と記したり、なんとか利用者を安心させようとしていたことがうかがえる。

サイトはこうして、会員を欺くように2011年から運営が続けられてきた。京都府警の調べでは過去12年間で集めたお金は約23億円といい、巨額な違法マネーが10年以上もうごめいたことになる。

カジノ法案との関連を指摘する声も

オンラインカジノを特集したことがある雑誌編集者は、今回の運営者逮捕について、「おそらくですが、カジノ法案の施行で摘発が強化されたのでは」と推測する。

派手に運営していたというDORA麻雀(12年前後のDORA麻雀サイトより)

「似たような賭けマージャンサイトは国内にたくさんありますが、なかでもDORA麻雀は派手に運営していて、ユーザー間でも利用に慎重になる人もいました。今回、驚いたのは運営者が日本にいたこと。多くの類似サイトは運営者が海外にいるので、物理的に摘発が難しいと見るところもありました」(同前)

まさかの展開に動揺する会員ユーザー

今回の摘発は、利用者の都合のよすぎる見立てを打ち砕くもので、SNS上でもその動揺ぶりが伝わってくる。

「ヤバい、利用した人も警察に呼ばれたりするなら俺もアウト」
「運営が安全だと書いていて利用したんだから、聴取されても騙されたと言えるよね?」

京都府警など6都道府県の合同捜査では、利用客についても単純賭博容疑などで調べを進める姿勢を見せている。そうなると7万人以上のユーザーにとっては「自分も罪に問われるのか」と気が気でないはずだ。

「罪に問われる可能性はある」と弁護士

この件について、大阪府警での行政職員を経て弁護士に転身し、刑事事件にも詳しい堀田和希弁護士は「罪に問われることはあり得ます」と明言する。

「利用者が罪に問われるとしたら賭博罪(刑法185条)や常習賭博罪(同186条1項)があると思います。賭博とは『偶然の勝敗によって、財物や財産上の利益の得喪を2人以上の者が争う行為』を意味しますので、麻雀で金銭そのものを賭けた時点で金額の大小にかかわらず賭博罪が成立することになります」と解説した。

さらに「そのため、『1万円未満はセーフ』というのは誤った理解となりますのでご注意ください。単に低額な賭けの場合はマンパワーの問題もあって捜査機関が問題視しないことが多いということだけかと思います」と”警告”した。

これまでは、「海外で合法」を拠り所に、オンラインカジノに興じてきた人も、法的には“クロ”。しかも、金額の多寡は無関係というのだから、会員ユーザーは身が縮まる思いだろう。

また、堀田弁護士は常習賭博罪について、「同サイトを頻繁に利用して賭け金を多くしていた利用者は、常習賭博罪の責任を問われる可能性があります」と指摘した。

運営側の安心の声を信じて興じたとしてもシロではない

一方で、運営側が「安全」を強調しており、それを信じてプレイしたユーザーも少なくないといわれている。そうしたユーザーが罪に問われる可能性はあるのか。堀田弁護士は次のように説明する。

「利用者が『サイトを信じて騙された』ということであれば、賭博罪の故意があったのかどうかという問題になるかと思います。刑法では『罪を犯す意思がない行為は,罰しない』と定められており(同法38条1項)、故意がない行為は罰しないということになっています」と“無罪”の可能性もあり得るとした。

ただし、「サイトにどのような説明が書いてあったとしても、今回の場合は利用者に『自身が賭け麻雀を行っている』という認識があった以上、利用者自身が賭博行為と評価され得る行為をしているということを理解していたと考えられますので、賭博罪の故意を否定することは難しいかと思います」と現実的には、会員ユーザーが罪に問われる可能性が高いとの見通しを示した。

広告で加担していた人はどうなるのか?

オンラインカジノは人気サイトが幅広くネット広告を出しており、一部ではアフィリエイトで、広告料を稼いだ人も少なくない。たとえばイギリスの大手オンラインカジノ、ウィリアムヒルも、日本人担当者の窓口を置いてまで、日本のサイトでの広告を掲載させてきた。

「違法なオンラインカジノに客を誘導した場合は、賭博場開張等図利罪の幇助犯に当たる可能性があります。幇助とは、正犯が犯罪を行うに当たり、その犯罪の実行を物理的・精神的に容易にする行為をいい、つまり正犯が犯罪行為をする手助けをすることで幇助犯という立場になります。なお、誘導者がオンラインカジノの経営者と深い協力関係にある場合は、幇助犯ではなく、賭博場開張等図利罪の共同正犯に当たる可能性があります」(堀田弁護士)

カジノ法案との関連は?

カジノ誘致を目指す大阪市では夢洲でIR整備が実質スタートしている(ISO8000 / PIXTA)

今回の運営者逮捕とカジノ法案との関連を指摘する声もある。その点についての堀田弁護士の見方は次の通りだ。

「関連は正直分かりません。ただ、カジノも含めたIR(統合型リゾート)実施を進めるにあたり、ギャンブルのイメージをクリーンにすることは国の課題となっているでしょうから、そういった意味では関連の可能性はあります。カジノと聞くと、一般的に『裏社会の人が仕切っているような賭場』という悪いイメージも多いかと思います。そのため国もIR実施にあたって事前に違法な賭博行為に対する措置を強めていくことになるでしょうから、今後も本件のような摘発が増えることが予想されます」

今回の摘発を受け、類似サイトや紹介サイトの閉鎖が見られるが、この流れで一気に利用者を減らし縮小するのか、それとも懲りずに抜け道を見つけ、生き延びていくのか…。

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