ソニー生命170億円、グローリー子会社21億円…巨額横領事件が発生する“負”のメカニズムとは?

弁護士JP編集部

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ソニー生命170億円、グローリー子会社21億円…巨額横領事件が発生する“負”のメカニズムとは?
横領事件の被害額は「億越え」も珍しくなくなった(写真:kai/PIXTA)

近年、企業や団体の社員・職員による横領事件が後を絶たないが、その被害額の大きさに驚かされることは多い。

ソニー生命で昨年に発覚した170億円にものぼる巨額の不正送金事件。被告である元社員の男性は、バミューダ諸島に保有していた完全子会社である「エスエー・リインシュアランス」の口座を介して、米国の別口座へ不正に1億5500万ドルを送金した疑いが持たれている。

社内の海外銀行口座での送金手続きは、複数人の承認が必要だったが、上司の承認が通り、「正規の処理」が行われたかのように偽装された。一連の不正な手続きのほとんどが自宅などでの「テレワーク」であったため、管理の目が届いていなかったともいわれるが、まだまだ謎も多い。これだけの巨額の横領が単独で行われたのかも含め、今後の公判でどこまで明かになるのか注目されている。

今年2月にも、コインロッカー事業などを手掛けるグローリー完全子会社、グローリーサービス(大阪市)で経理業務を担当していた社員が会社の現預金を繰り返し着服したことが発覚し、約21億5500万円にものぼる被害総額も話題になったばかりだ。

企業のコンプライアンス意識の強化が求められるようになり久しいが、それでもなお、億単位という巨額の横領、不正行為が見過ごされてしまったのか。

ソニー生命本社が入居する東京・大手町のオフィスビル(写真:yama1221/PIXTA)

『ぱなし』状態が通常運転

企業監査に造詣の深い、金融庁企業会計審議会委員で監査部会長と内部統制部会長も務めた青山学院大学・八田進二名誉教授は、昨今の巨額横領事件の共通点をあげる。

「不正・不祥事が起きやすいシチュエーションとして大きく2つの条件があります。ひとつは親会社以外の『子会社・関連会社、孫会社』であること。ふたつ目は国内というより、『海外に所在する企業が多い』ということ。いずれも、本社からの目が届きづらく、人的リソースも乏しい傾向にあるという共通点があります。そこで何が起きるかというと、ある特定の人物に独占的に業務・権限まで与えられるという『属人化』の傾向です」

たとえば親会社から責任ある立場の上司が出向してくるケース。

現場を任されている担当者たちはすべて熟知し、その上司に対しても「任せてください」という姿勢となり、担当者自身の評価も高くなる。そして、「上司もその方がラクだから、任せっぱなしでほとんどチェックもしない、『ぱなし』状態が通常運転」(八田教授)となり、不正のスパイラルの遠因が発生する。

こうして組織全体でモニタリング管理をするのではなく、その担当者に特定の業務を依存する環境が生まれるという。

不正のスパイラルが発生する遠因

不正・不祥事が発生する三要素とは?

現金・預金を扱う部署で「属人化」した業務を行う担当者が自制心・抑止力を持つ「良い人」であれば問題はないが、毎日目の前の大金を一人で扱う仕事を行っていればどうなるか。

「不正・不祥事が発生する要因というのは、三つの要素(不正の三角形【動機・機会・正当化】)が重なった時だと言われています。①動機やプレッシャーが当人にあるか。たとえばギャンブルでお金を使ってしまった、生活が苦しいケース。あるいは、「会社の売上を伸ばせ」というようなミッションとしてのプレッシャーが大きい場合などは当然悩みます。

その中で、②動機・プレッシャーを解消できそうなオポチュニティ(機会)が訪れる。今までは総務部だったのが、現金出納課に回されたとか。または、役職が与えられ、自分の権限で、都合の良い不正を犯すことができる「機会」に恵まれる。普通人間はそこで踏み止まるし、また、不正の機会を抑止するために内部統制という仕組みがある。

ところが、先ほどの例のように、親会社から来た上司はほとんど仕事をせず自分任せで、接待を名目に、会社のお金を私的に使っている場面に遭遇したりする。『だったら、自分も良いんじゃないか』、あるいは『少しの間だけ借りただけ』と、③都合の良い正当化の論理を構築するわけです」(八田教授)

当初は小さな不正でも、長年に渡り発覚しないままに、不正して得た金額が積もり積もって大きくなる。本人も最初は心を痛めるが、「なんだ、全然発見されないじゃないか」とタカをくくり始めると、どんどん深みにハマり後戻りできなくなる。そうなる前、「傷が浅いうちに抑止する」(八田教授)必要があるという。

不正の三角形(トライアングル)

問題が発生する企業に見られる「危機意識の欠如」

お金に関する不正・不祥事の発生を防ぐには、これまで日本企業が持っていた性善説から、「「人間は弱い」という性”弱”説的発想」(八田教授)に立った内部統制が今後は必要となる。モラルの低下が言われる現代において、八田教授が提案する企業がなすべき不正防止策はいたってシンプルだ。

『属人的な組織』を避けて、適切な人事異動、部署のローテーションをかける
現金・預金を扱う不正リスクの高い部門に関しては、必ず不定期的に責任のある立場の人間(可能な限り複数人)が現物・預金通帳などをチェックする。

ただし、不正は当事者だけではなく、当該部署以外の他者や、営業担当者が顧客と共謀して水増し代金を請求するというような「共謀者」がいる場合がある。

それらの防止には、①に加えて、担当者に長期間(1~2週間ではなく2~3か月)休暇を与え、部署を外し、代替の人間に業務をすべて仕切らせる、などの洗い出し対策も有効な手段のひとつとなる(※)。

※欧米各国における長期バカンスの導入は、労働条件に加え、不正をできるだけ防止・抑止・発見するための手段としての側面もあるという

八田教授は「改善を怠ってきた上層部も同罪に近い」と指摘する(zoom取材画面より)

まずは、現物・現金をきっちり確かめるという、「初歩的な手段」が有効だ。ただし、そのマネジメントの構築すら実は難しく、企業の危機意識の欠如に関しても八田教授は厳しく警鐘を鳴らす。

「問題が発生する企業のトップ、および幹部はその初歩的な手段すらできていないケースが多いのです。組織運営に対するマネジメント能力がなく、リスク感覚がぜい弱。そのため、不正発覚後、それら企業から「まさか彼・彼女に限って」とあたかも自分たちが犠牲者のような、当事者意識の薄い発言がなされることが少なくない。

抑止・防止、ないしは軽い段階で食い止め、改善を怠ってきた中間管理職、上層部も僕は同罪に近いと思いますし、黙認・放置していたと管理責任が問われなくてはいけません。組織の健全な運営には、相応のマネジメント能力・リスク感覚が備わった人間がやはり必要です。ただし、「すべての人間に」というのは難しいので、通り一遍ですが、社内の全職員に対し、コンプライアンス意識を高めるような研修・教育を徹底すべきでしょう」

再発防止を徹底しても、どんなに規制を強化しても不正はなくならないことも事実。特効薬はなく、企業の内部統制を地道に継続的に進めていくしか方法はないと八田教授は語る。

シンプルな不正防止策

ITアレルギーを持つ管理部門の上司に下の世代は…

今回(ソニー生命)の不正事件は、「IT技術を駆使した若い世代」による犯罪であることも象徴的だ。

彼ら彼女ら世代は、愛社精神や、終身雇用で骨をうずめるという企業に対する忠誠心はかつてと比較して薄いとされている。また、「流動性の高い雇用」「ジョブ型雇用」が良いともてはやす世間が、不正を行うメンタリティにも影響を与えた側面も一方では指摘されている。

「当然そういった時代の流れもあるかもしれません。しかし、そのモラルの欠如を指摘する前に、上司の世代も大きな問題を抱えています。ITアレルギーを持つ、アナログ世代の人たちが管理部門にいるという状況はいまだに珍しくはない。IT知識、インターネット知識も少なく、業務に対してコミットしようとせずに、無責任な「ぱなし」状態となることも多い。

そのギャップから、下の世代も説明をしても分かるワケないから適当にお茶を濁そうという心理が働くのは当然です。世代で括るのではなく、今後は、企業全体の内部統制で『ITへの対応』という要素についても、全社的な取り組みを図るといった具体的な対策が急務となります」(八田教授)

ビジネス面での日進月歩の劇的な変化、新しいシステムの導入などに応じて、就業規則なども現在の環境に見合うよう柔軟に見直す。「継続的にそれらを行う」企業姿勢こそが、今後の生き残りに必要な要素となるのかもしれない。加えて、そうした前向きの対応を講じているとの誠実な姿勢を、トップ自らが示すことも極めて重要であろう。

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