DV防止法は同性パートナー対象も、遺族給付金は対象外… 訴訟代理人が訴える「裁判所の論理」の“不合理さ”

杉本 穂高

杉本 穂高

DV防止法は同性パートナー対象も、遺族給付金は対象外… 訴訟代理人が訴える「裁判所の論理」の“不合理さ”
判決後、名古屋高裁の前で「不当判決」を掲げる弁護団(写真提供:弁護団)

犯罪被害者遺族に支払われる給付金の対象に、同性パートナーが含まれるかが争われた訴訟の上告審口頭弁論が、3月5日に開かれる。一審・二審が「同性パートナーは支給の対象とならない」とした判決が最高裁で見直される可能性が出てきている。

事件当時、名古屋市内に住んでいた原告は、10年前に同居中の同性パートナーを殺害され、犯罪被害者等給付金支給法(犯給法)に基づき、給付金を申請したが認められなかった。犯給法は、婚姻届を出していない、いわゆる「事実上の婚姻関係にあった者(事実婚)」でも支給対象になると定めており、同性パートナー関係が事実婚に含まれるかどうかが争点となっている。

一審は、「税金を財源とする以上、支給の範囲は社会通念によって決めるのが合理的」との理由で原告の請求を棄却。二審も一審の判決を支持したが、最高裁上告審が開かれることで逆転の可能性が残された。そこで、本訴訟の上告人(一審原告)代理人であるミッレ・フォーリエ法律事務所の堀江哲史弁護士に、この訴訟のポイントと社会への影響について話を聞いた。

事実婚で遺族給付金が認められる条件とは?

犯給法は、いわゆる事実婚の人でも給付金を受け取れると定めていますが、事実婚とは法的にどう定義できるのですか。

堀江弁護士:事実婚には法的に明確な定義はありません。犯給法には「事実上、婚姻関係と同様の事情にあった者」とあり、その判断基準については、一審の時に質問をしましたが、愛知県(被告)からの回答はありませんでした。なお法学的には、婚姻意思と共同生活の実態という2つの要素で判断されると言われています。

上告人は被害者と20年以上同居していたとのことですが、これは事実婚の客観的証明として十分な長さと言えますか。

堀江弁護士:これだけで判断されるわけではありませんが、長さとしては十分だと思います。

DV防止法(配偶者暴力防止法)で同性パートナーも保護の対象になっています。それではなぜ犯給法では同性パートナーが対象外と判断されたのか不思議です。

堀江弁護士:不思議ですよね。DV防止法では法の目的から、DV被害は異性間でも同性間でも起こり得るので、区別する合理的な理由はないから、保護対象にすべきとしたわけです。同様に、犯罪被害も性別に関係なく起こり得ますし、被害者の家族も、異性・同性関係なく、精神的・経済的打撃を受けるはずで、本来は違いがないはずです。

つまり、DV防止法の判断のように「事実上、婚姻関係と同様の事情にあったもの」という文言を、同性間の関係を含むと解釈することは可能であり、犯給法でも同じように解釈すべきだと、われわれは主張しています。

裁判の意義を語る堀江哲史弁護士(弁護士JP編集部)

社会通念とは何なのか

法解釈として、同性パートナーも事実婚に含める前例があるとなると、あとは一審判決が言うように税金を使う施策には「社会通念」が重要ということになるのでしょうか。そもそも「社会通念」とはどのような意味で使われるのですか。

堀江弁護士:こちらも明確な定義はありませんが、いわゆる「社会一般の考え」という広い概念として使われていると思います。「世論」と重なる部分もあるのでしょうが、社会通念は世論よりも、もう少し長いスパンで、社会に浸透した常識のようなものを指すのではないかと思います。

「社会通念」が判決において重大な意味を持っているということは、一審・二審では被告側から「これが社会通念だ」と示す証拠が提出されたのでしょうか。

堀江弁護士:ないです。そこがすごく腹立たしいのです。私たちは、近年の世論調査で同性婚の賛成が過半数であると示す資料等を提出して、多数の人が同性婚の法的成立を望んでいる=同性パートナーを許容する社会的な空気はすでに醸成されている、と主張しましたが、一審判決では「過半数が賛成でもまだ反対派もいる」という言い方をされたんです。そういう風に評価をされると“結論ありき”な印象を持ってしまいます。

また、本来は、社会通念に左右されず人権を保護するために裁判所はあるべきなのに、実際は社会通念を人権制限が許容されるかの判断基準にしてしまったことが問題ですし、さらに言えば、社会通念の内容も見誤っているように感じます。

2019年の時点で同性婚に「賛成」「やや賛成」と答えた人は7割を超えている(MarriageForAllJapan『同性婚に関する意識調査 報告書』より2019年調査結果)

同性婚裁判への影響は?

事実婚の認定には、客観的な実態に加えて婚姻の意思も重要とのことでしたが、こちらはどのように主張していますか。

堀江弁護士:愛知県は、同性同士では婚姻が成立しないから婚姻意思もないという立場です。しかしわれわれは、「婚姻とは当事者同士が真摯(しんし)な意思を持って共同生活を営む」ことが本質だと考えています。

それは異性か同性かに関わらず、もっと言えば、婚姻届の書類を出せるかどうかでもありません。「当事者同士が真摯(しんし)な意思を持って共同生活を営む」という関係性は、制度がない以前からあったはずです。それこそが「婚姻の本質」だと考え主張しています。

本訴訟の結果が類似の裁判、たとえば同性婚訴訟の結果に影響を及ぼすことはあるでしょうか。

堀江弁護士:そうですね。今回の訴訟は、婚姻よりも狭い範囲、犯給法という1つの法律における事実婚の解釈をめぐるものですから、同性婚よりも認められやすいはずと思っています。最高裁で同性パートナーも給付金の受け取りが認められれば、それは異性と同性で事実婚の実態に差はないことが認められることになります。その前提として、「婚姻の本質」についても差がないということが認められれば、婚姻の平等の大きな後押しになると思います。

3月5日に最高裁で上告審口頭弁論が開かれますが、上告審において口頭弁論が開かれる場合は原判決が見直されることが多いとよく聞きますが、事実なのでしょうか。

堀江弁護士:上告審では、原判決が維持される場合は口頭弁論を開かず棄却でき、判決を覆す場合は必ず口頭弁論を開かなければならないとされています。その意味では原判決が見直される、覆される可能性があるわけですが、弁論を開いた結果、上告棄却という場合もあります。ただ、少なくとも門前払いの「棄却」ではなかったので、勝訴への途が開けたと考えています。

取材協力弁護士

堀江 哲史 弁護士

堀江 哲史 弁護士

所属: ミッレ・フォーリエ法律事務所

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