皇位継承問題「6月末までに」決着? 専門家が指摘する“現状案”の「支離滅裂さ」と女性・女系天皇に対する「政府の本音」

弁護士JP編集部

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皇位継承問題「6月末までに」決着?  専門家が指摘する“現状案”の「支離滅裂さ」と女性・女系天皇に対する「政府の本音」
一般参賀の実施は、被災地を心配する天皇・皇后両陛下のお気持ちを踏まえ、慎重に検討されたという(maruco / PIXTA)

2月23日、天皇陛下が64歳の誕生日を迎えられた。

能登半島地震の発生を受けて元日に中止が決定された一般参賀も今回は開催され、おめでたいムードに包まれているが、一方で皇室をめぐっては「皇位継承問題」という大きな課題が国によって“放置”された状態が続いている。

2006年、小泉純一郎政権下で皇室典範改正案の国会提出が見送られて以来、棚上げとなっているこの問題だが、皇室研究者・高森明勅氏は「今年、通常国会が閉会する6月末までに決着する可能性が高い」と指摘する。

永田町は「一度動き出すと早い」

皇位継承問題については、2022年1月に政府の有識者会議が国会に報告書を提出してから1年以上まったく動きのない状態となっていたが、昨年2月の自民党大会で岸田文雄首相が議論を進めるよう呼びかけて以来、事態が連鎖的に動き出したという。

「現在の上皇陛下の退位に際して『天皇の退位等に関する皇室典範特例法』ができたときもそうでしたが、永田町は一度動き出すととても早いです(※)。今はまさに、当時と同じ流れになっています」(高森氏)

※ 陛下がビデオメッセージで退位のお気持ちを示したのが2016年8月、その翌年6月には法が成立しており、わずか1年足らずで事態が大きく動いた

高森氏がこう発言する背景には、昨年10月の臨時国会における所信表明演説で、岸田首相が皇位継承について「『立法府の総意』が早期に取りまとめられるよう、国会における積極的な議論が行われることを期待します」と述べたことなどがある。

「通常、法案は衆参両院で過半数を得ることで可決されますが、退位に関する特例法のときは、このひとつ手前に、各政党会派の合意を得た上で法案を国会に提出するという手順がとられました。実は、このときにも『立法府の総意』という言葉のもとで議論が進められたのです。

そもそも『立法府の総意』という言葉はなかなか使われる表現でなく、今回の総理の発言は明らかに退位特例法の手順を念頭に置いたものであると考えられます」(高森氏)

さらに岸田首相にとっては、9月に控える自民党総裁選も少なからずモチベーションに影響を与えているだろう。

「もちろん、岸田首相が一国を背負うリーダーとして、皇位継承問題にリアルな危機感を抱いていることは間違いないと思います。ただし、もし今国会中(6月末まで)に決着をつけることができれば、小泉政権以来20年近く棚上げされてきた問題を与野党合意の上で解決したということで、再選の大きな後押しとなるでしょう」(高森氏)

「皇室の政治利用」はたびたび批判の的に(弁護士JP編集部)

現状の案は「支離滅裂」

高森氏は、長年進展のなかった皇位継承問題の議論が動き始めたことは評価するものの、その肝となる有識者会議による報告書については「支離滅裂」と酷評する。

「まず、次の世代の皇位継承者は悠仁さまおひとりである以上、もっとも議論すべきは『安定的な皇位継承』を目指す方策のはずです。しかし政治的配慮によって、報告書では論点が『皇族数の確保』にすり替えられているという根本的な問題があります。

報告書には『次世代の皇位継承者(編注:悠仁さま)がいらっしゃる中でその仕組みに大きな変更を加えることには、十分慎重でなければなりません』と悠長なことが書かれていますが、悠仁さまは過去に軽い交通事故に遭われており、テロ未遂事件なども実際に起こっていて、今後も不安は残ります。

また現行制度のままでは、悠仁さまの妃(きさき)となられる方は『何が何でも男子を産まなければ』というあまりに重たいプレッシャーを背負うことになります。失礼ながら、そのような状況では、お相手を見つけるハードルも非常に高くなってしまうのではないでしょうか」

2019年には、悠仁さまが通われていたお茶の水女子大学附属中学校で、悠仁さまの机に刃物が置かれる“テロ未遂事件”が発生した(弁護士JP編集部)

報告書は、悠仁さま以外の未婚の皇族が全員女性であることから、悠仁さまが皇位を継承されるときには他に皇族がいらっしゃらなくなることが考えられる、よって「まずは、皇位継承の問題と切り離して、皇族数の確保を図ることが喫緊の課題」であるとして、以下2案を提示している。

①内親王・女王が婚姻後も皇族の身分を保持する
②皇族には認められていない養子縁組を可能とし、皇統に属する男系の男子(編注:現在一般国民となっている旧宮家の男系男子孫)を皇族とする

しかし高森氏は、この2案についても「実現性が低すぎる」と疑問視する。

「まず①については、内親王・女王の配偶者やそのお子さまは『一般国民としての権利・義務を保持し続ける』としています。ご存じのとおり、皇族は参政権や経済活動の自由をはじめとするあらゆる権利が制限されており、いわば憲法上“正反対”の立場に置かれている皇族と一般国民が同じ家庭を営むというのは、現実的に考えてかなり無理があるのではないでしょうか。

また、皇族のお住まいや生活費などは国費でまかなわれていることから、一家がどこに住まわれるのか、家計管理はどうするのかなど、生活の根本的なところから多くの問題が出てきます。

そして②については、日本国憲法第14条が禁止する『門地による差別』に真正面からぶつかりますし、一般国民として生まれた旧宮家の方も、養子を受け入れる皇族側も、果たして“目先だけの皇族数確保”のための養子縁組に手を挙げる方はいらっしゃるのかという疑問が残ります」

実は国会議員も「女性天皇賛成派」が多い

高森氏は前述を踏まえて「『皇室を存続させたい』ということを前提とすれば、古い時代の正妻以外の男子でつなぐやり方はとっくに否定されており、現実的に考えて女性・女系天皇を認める以外の選択肢はありません」と言う。

「政府も本心では分かっているでしょうし、有識者会議だって曲がりなりにも公的な諮問機関ですから、報告書が支離滅裂であることは承知していると思います。しかし一部の熱烈な男系支持者がいる以上、女性・女系天皇論を真正面に掲げたら議論は1ミリも進まないと考えたのでしょう」

一般的に、「国会議員の中では男系支持者が優勢」とのイメージがあるかもしれないが、実は2019年に『週刊朝日』が衆参両院の議員に行ったアンケートでは、以下のような結果が出ている。

Q.愛子さまが天皇に即位できるように皇室典範の改正をするべきと思いますか
A.「するべき」28%、「するべきではない」8%、「無回答・回答拒否」65%

Q.女系天皇を認めることに賛成ですか、反対ですか
A.「賛成」29%、「反対」13%、「無回答・回答拒否」58%

「そもそも『天皇』は日本国憲法第1章に掲げられた大切な問題なのに、国会議員の圧倒的多数が『無回答・回答拒否』というのが問題ではありますが、少なくとも明確に意思表示している人たちで見れば、女性・女系天皇を認めるべきという意見の方が実はかなり多いという結果になっています。ただし少数であるはずの反対派の声が大きく、一定の政治的配慮をせざるを得ないというのが現状です。

岸田首相のメッセージは必ずしも女性天皇の可能性を全面的には排除しておらず、今回予想される国会での決着も、野党などの取り組み次第では、少しでも皇位継承を安定化させる方向に報告書の案を近づけることは可能でしょう。そこで残った課題は、今後さらに議論が進むことに期待したいですね」(高森氏)

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