“米粒大”のスナック菓子で「絶命」危機に陥る… 大きさで判断すると痛い目にあう想像以上の「食べ物リスク」

弁護士JP編集部

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“米粒大”のスナック菓子で「絶命」危機に陥る… 大きさで判断すると痛い目にあう想像以上の「食べ物リスク」
サクッと食べられると甘くみていると最悪の事態になることも…(megu / PIXTA ※写真はイメージ)

親族や知人の訃報を聞くと、覚悟はできていても悲しいものだ。時には元気だった人が突然、亡くなってしまうこともある。誰しも「死」とは隣り合わせ。それなのに、知っていることは少なく、なんともミステリアスだ。

本連載では、そんな「死」の現実や不思議について、2万体を検死・解剖した法医学の第一人者が多様な角度から切り込み、解説する。

「ホントに?」「へぇ~」「まさか」…。知れば知るほど、「死」の奥深さを実感するーー。

第5回のテーマは、「小さなモノでも喉に詰まると意識を失う」。節分の時期に、豆による子どもの誤嚥や窒息事故への注意喚起を耳にしたことがある人もいるだろう。実際、子どもでなくても、小さなスナック菓子で死のリスクはあるという。法医学者がそのメカニズムを解析する。(全5回)

※ この記事は上野正彦さんの書籍『人は、こんなことで死んでしまうのか!:監察医だけが知っている「死」のトリビア』(三笠書房《知的生きかた文庫》)より一部抜粋・構成しています。

大統領はなぜスナック菓子を喉に詰まらせ、倒れ、顔面を強打したのか

ずいぶん昔のことだが、こんな報道があったことをご存じだろうか。

2002年1月、アメリカのブッシュ大統領がクッキーの一種であるプレッツェルという菓子を喉に詰まらせ、倒れた拍子に顔面を強打して怪我をしたという事故があった。

これが一般家庭に起きた出来事ならば、日常的な小さな事故として他人に知られることはなかったであろう。しかし、その当時、世界のトップに立っていた人物だけに、そんなことでも世界中にニュースとして流れたのである。

当時の日本のマスコミは、海の向こうの話なので詳しい状況がわからずにいた。そのため、幸いにも大統領が大事に至ったわけではないので、ただ単に「喉に詰まった状況だった」としか報じなかったのである。

ところが、これは一歩間違えると世界中を揺るがす重大事故になっていたかもしれないのだ。

おそらくみなさんの多くは、プレッツェルを喉に詰まらせた大統領が、あわててつんのめったときに顔面を強打したと思っているのではないだろうか? 新聞やテレビでもそのように報道されていたので、疑う人は誰もいなかったかもしれない。法医学者でさえ、「口いっぱい食べて丸まったのが喉に詰まった」と解説していたくらいだから。

ベテラン法医学者が推測する、あの”スナック事故”の真相

しかし、私の考えは違う。米粒くらいの大きさのかけらが一個喉の奥に入り、そこで神経性ショックを起こして一時的に呼吸停止と心停止が起き、意識を失って倒れたのではないかと考える。

なぜならば、喉に詰まらせて、あわててつんのめったのなら、どんなにもがき苦しんでいても本人に意識があるので、倒れたときに、顔や体をかばって床に手をつくはずだ。

しかし、大統領の傷は左頬を擦過したものであった。つまり、傷の状態を見てわかるように、意識を失ったがためにかばい手を使うことができず、左頬をフロアにダイレクトに擦過した……と見るのが妥当ではないだろうか。

意識をなくした人が頬を叩かれると意識を取り戻すように、大統領も一瞬気を失ったもののフロアに顔をぶつけたときの衝撃で目を覚ましたのであろう。そして、そのときにプレッツェルのかけらが喉の中から吐き出されて助かったのではないだろうか。

ここで問題なのは、当時の状況や事故の真相ではなく、人は米粒大のかけら一つが喉に詰まったくらいで瞬間的に意識を失うものなのかどうかということだ。喉に菓子のかけらが詰まってしまうことは誰にでもあり得る話だが、それで気を失った人など滅多にお目にかかれない。

ところが、まれにブッシュ大統領のような状況になってしまうことがある。それが神経性ショックというものだ。

大きいものが喉に詰まれば危険だということは誰もが理解しているが、小さなものでも命を落とすことがあるという事実もわかっていただきたい。

たまたま大統領の一件は命に別状がなかったため、真剣に真実の究明がなされなかった。しかし、本当は命にかかわる重大な事故になっていたかもしれない。

  • この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。
書籍画像

人は、こんなことで死んでしまうのか!: 監察医だけが知っている「死」のトリビア (知的生きかた文庫)

上野 正彦
三笠書房

二万体の検死・解剖を行なった、元監察医が解き明かす「死のメカニズム」!65万部を超えたベストセラー『死体は語る』の著者、上野正彦が死にまつわる常識・迷信・疑問を一刀両断!

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