吉野家紅ショウガ“直箸”食べ男に実刑判決…大麻取締法違反も含む懲役2年4か月、罰金20万円は妥当か【弁護士が解説】

弁護士JP編集部

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吉野家紅ショウガ“直箸”食べ男に実刑判決…大麻取締法違反も含む懲役2年4か月、罰金20万円は妥当か【弁護士が解説】
迷惑行為の動画拡散で吉野家に損害を与えた男に下された判決は”妥当”だった(Ryuji / PIXTA)

牛丼チェーン店「吉野家」で、容器に入った紅ショウガを直ばしで食べその動画を拡散、器物損壊と威力業務妨害の罪に問われた35歳の男性に対して、15日、大阪地裁で懲役2年4月、罰金20万円の実刑判決が言い渡された。

近時、飲食店での迷惑行為がネット上に拡散され、世間を騒がせることも多くなっている。そうした中、今回は執行猶予がつかない実刑判決であったことに注目が集まっている。

過去のスシロー、くら寿司の事案では執行猶予付き判決も

飲食店における迷惑行為としては、回転ずしチェーンの「くら寿司」において、しょうゆさしの注ぎ口に口をつけるような動画を会員制交流サイト(SNS)投稿し、威力業務妨害などの罪に問われた21歳の男性が、懲役3年、執行猶予5年を言い渡された事例がある。

また、同じく回転ずしチェーンである「スシロー 」においては、未成年の少年がしょうゆボトルや湯飲みをなめるなどの迷惑行為を撮影、SNS上で拡散され話題となった事件。スシローの運営会社であるFOOD&LIFE COMPANIESの株価が下落するなど、同社に大きな損害を与えたとして、民事では約6700万円の損害賠償を求める訴えが起こされただけでなく(最終的には調停が成立し、訴えは取り下げられた)、刑事では器物損壊の容疑で書類送検された後、家裁送致されている。

やった本人は悪ふざけのつもりでも、店側にとっては、経営を揺るがしかねないこれら迷惑行為は、刑法上は「器物損壊罪」(第261条)、「偽計業務妨害罪」(第233条)または「威力業務妨害罪」(第234条)といった犯罪にあたりうる。

今回の「紅ショウガ事件」で問題となった威力業務妨害罪は、「威力」を用いて人の業務を妨害した者を処罰の対象としており、ここでいう「威力」とは、人の自由な意思を制圧するような勢力をいう。

一般的な暴行や脅迫の他、飲食店への迷惑行為は、お店はきれいなしょうゆさしや湯飲みに取り換えたりといった対応が必要となり、これも「威力」のひとつにあたるとされた。

SNS上では実刑判決に「納得」の声もあったが

威力業務妨害罪の法定刑は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金の重い犯罪だが、初犯であれば執行猶予付きの判決となることが多い。そのため、執行猶予がつかずに実刑判決が下された今回の「紅ショウガ事件」について、SNS上ではさまざまな意見が出ている。

迷惑行為によって世間を騒がすニュースが多いことから、「こういう迷惑系は処罰ちゃんとすべき」「もっと重罪扱いでもいいと思う」とSNS上でも納得の声が大勢を占めた。

一方で、今回の判決は、大麻取締法違反と併せての判断だったことから、「少し厳しいと思えたが納得がいった」「実刑になったけど大麻取締法もあってのことだからな」との声も上がっており、より重い罪と合わせた判決であることが注目すべきポイントとなっている。

今回は刑事事件としての判断だが、店に発生した損害を賠償する民事の賠償責任は当然なくなるわけではない。

目立つために迷惑行為をしてしまうと、刑事・民事の両面で責任を追及され、人生を狂わせてしまうほどの大きな問題に発展してしまうことはいうまでもないだろう。

刑事弁護に詳しい弁護士の評価は“妥当“

刑事事件に詳しい、荒木謙人弁護士は、今回のこの判決を次のように評価する。

「報道によると、今回の男性は過去に服役経験があり、刑の執行を終えて間もなく今回の犯行に及んだとのことです。また、営利目的で大麻を栽培するなどした大麻取締法違反という重い犯罪も認定されていることを踏まえれば、実刑判決となることは、当然の結果だと考えられます」

そうしたことから、荒木弁護士は、「今回の男性は、上記のような特殊性がありますので、仮に動画を拡散していなくても、実刑判決となっていた可能性が高いと思います」と判決は妥当とした。

民事では数百万円程度の損害賠償か

また、民事での損害賠償について荒木弁護士は、「理論的には、動画拡散後に売り上げが減少したり、株価が下落したりすれば、迷惑行為との間に因果関係がある損害になり得ます。しかし、実際のところ、これらとの因果関係を立証することは困難だと思います。

そのため、仮に裁判で争われた場合、現実的な損害としては、被害店舗において紅ショウガが入っていた容器の清掃・中身の廃棄交換費用、本件についての広報費用といった費目に限られる可能性があります。その場合には、高くても数百万程度の損害額として認定される可能性があるでしょう」と解説した。

その上で、いわゆる「迷惑系YouTuber」に対し、次の言葉を送った。

「最近ではいわゆる『迷惑系YouTuber』といったジャンルで、世間からの注目を集めようとしている人がいます。しかし、刑事では犯罪行為にあたる可能性があるだけでなく、民事でも高額な損害賠償請求を受ける可能性があるため、決して行うべきではありません。

仮にそのような行為をしてしまった後に、十分反省して更生できたとしても、現代ではいわゆる『デジタルタトゥー』としてネット上に映像等が残ってしまう可能性があります。そのようなことは成年・未成年ともに変わりはありませんので、日頃から犯罪行為を行わないようにするだけではなく、ネットリテラシーについても意識して生活する必要があります」(荒木弁護士)

取材協力弁護士

荒木 謙人 弁護士

荒木 謙人 弁護士

エイトフォース法律事務所代表弁護士。慶應義塾大学法学部3年次修了後、飛び級により退学。慶應義塾大学法科大学院修了。相撲、ボクシング、空手など数多くの格闘技経験を有する傍ら、プライベートでは保護ねこ・保護いぬを飼う「もふもふ弁護士」。専門分野は、中小企業法務、不動産取引、刑事事件等。スポーツ法務など企業向け講演経験多数。

所属: エイトフォース法律事務所

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